JVCスタッフのユヌスが丘のふもとのムルタ村を訪れると、子どもたちが駆け寄ってきます。
「ユヌスおじさんだ」
今年4月に村で活動を始めてから頻繁に訪れるユヌスを、今では知らない子どもはいません。モハメッド君も、そんな子どもたちのひとりです。
今まで彼には、「ユヌスおじさん」が何をしに村に来ているのか、よく分かりませんでした。でも今は、「おじさん」が何をしているか、良くわかります。このあいだ、「おじさん」はモハメッド君の家にヤギをくれたのです。
「おじさん、うちにきてヤギを見てよ」
「そうか、よしわかった」
しばらく歩いた村はずれに、モハメッド君の家はあります。この辺りは、昨年6月に始まった紛争によって故郷の村を追われた避難民が住んでいる地区です。JVCは9月に避難民150家族に雌ヤギを2頭ずつ支援しましたが、モハメッド君の家族もその中の一軒です。
「ここがボクの家だよ」

案内された家は、援助団体から支給されたビニールシートとソルガム(イネ科の穀物)の茎を束ねて屋根にした、仮囲いの家でした。多くの避難民が、このような暮らしをしています。
ユヌスの姿を見て、家の子どもたちがぞろぞろと出てきました。モハメッド君の兄弟姉妹や、親戚の子どもたち。狭いスペースにお母さんと一緒に住んでいます。お父さんはいません。
「ほら、こっちにヤギがいるよ」

ヤギは、直射日光を避けて屋根の下でロープにつながれていました。横になって休んでいます。家族がエサとなる草を取ってきて与えているらしく、周りには食べ残しが散乱していました。
紛争より以前、村ではヤギは放し飼いで、家の周りの草を食べたり、子どもたちがエサ場となる草地へと連れ出していました。紛争勃発時にヤギを失った体験を経て、今では人々は慎重に飼育しているようです。
「よし、写真を撮っておこうか」
ユヌスがカメラを取り出すと子どもたちは大騒ぎで、ヤギの周りに集まってきました。横になっているヤギの首をつかまえて、カメラの前に立たせようとします。
「メーエ」
ヤギは明らかに嫌がっています。
「こらこら、ヤギに乱暴しちゃいけないよ」
となだめながら、パシャリ。

ヤギが家にやってきて、子どもたちは大喜びです。友だちが増えたようなものでしょう。配布対象となったどこの家を訪れても、ヤギは子どもたちに囲まれていました。そして子どもたちにとって、ヤギの世話を通して家畜についての知識を得ることも、大切な村の教育のひとつです。
配布した雌ヤギは生後数か月から1年。すぐに妊娠、出産を経てミルクを出すようになります。生活に余裕のない避難民の家庭でも、子どもたちに栄養たっぷりのヤギのミルクを飲ませることができるようになるでしょう。

「おじさん、また来てね」
「よし、それまでしっかりヤギの世話をするんだぞ」
新しく生まれてくるヤギが成長する頃には、紛争が終わって避難民たちが村に帰れるように。そう願いながら「ユヌスおじさん」は帰途につくのでした。
【おことわり】
現在、JVC現地代表の今井をはじめNGO外国人スタッフが南コルドファン州に入ることは、スーダン政府により制限されています。このため、2012年1月以降の「現地便り」はカドグリの状況や活動の様子を、JVCスーダン人スタッフの報告に基づき今井が執筆したものです。
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