住民主体の共有資源の管理と利用の支援 2024年度活動報告
ラオスでは労働人口の約7割が農業に従事しており、多くの人が豊かな自然の恩恵を受けて暮らしています。土地や森林、河川などの共有資源(コモンズ)から得られる自然の恵みは、日々の食糧やいざという時の支えになっています。さらに、文化・社会的なアイデンティティとしても機能しており、住民の暮らしの基盤となっています。しかし、プランテーションや水力発電ダムといった開発事業の進出による土地収用や森林伐採が後を絶たず、食料・文化・安全面でも村人の暮らしを脅かしています。
また、市場向けの換金作物栽培が広がり、収入は増えたものの、過度な依存や土壌劣化によって住民の暮らしが不安定になり、社会の不公正が深まっています。
コミュニティー林の境界に目印となる杭を設置する村人たち
2024年度の「住民主体の共有資源の管理と利用の支援」の活動目的は、共有資源が住民によって持続的な方法で管理・利用され、人々の暮らしが守られることです。
活動地は、セコン県ラマーム郡、タテン郡です。
受益者層は、対象の農村で暮らす人々で、約1,600世帯、9,500人にのぼります。
2024年度の成果を村単位でみると、共有資源や村の情報をまとめた冊子の配布は3村、法律研修の実施は6村で行いました。また、農薬や化学肥料などの使用による環境への負荷や土壌劣化の低減・防止の活動を5村で行い、共有資源管理の仕組みの導入は2村で行いました。
3村において、住民と共に村の基礎情報(人口、歴史、生産物、村境など)および直面している開発問題についての情報を収集し、冊子や資料としてまとめ、一部をバナーや表にして共有しました。この過程で話し合いを行い、共有資源が食糧や収入の源としての価値を持っていること、またそれらが減少しつつあることを多くの村人とともに確認しました。また、認識を共有する中で、共有資源管理・利用の仕組みが必要とされた2村でコミュニティー林や魚保護地区を導入し、5村で環境負荷低減や土壌改良のため、堆肥や自然農薬づくりの研修などを実施しました。
魚保護地区設置にあたる話し合い
6村で法律研修を実施し、他のNGOなどと協力して作成した法律知識普及のための法律カレンダーを交え、保全活動や開発事業との交渉における村人の持つ権利や開発問題への対処方法について伝えました。また、2025年版カレンダーの発表会議を開催し、中央、県、郡政府機関からおよそ15人の参加を得た上で、村人にカレンダーを配布し、解説しました。そのほか、関係行政機関との会議を通じて、支援活動には書類などの形式だけでなく実質的な効果が実現するようにすべきだということを、作成した共有資源管理活動のガイドラインをもとに、実例を交えながら伝えました。
法律カレンダーを受け取る村人とJVCスタッフ
コミュニティー林と魚保護地区では、新たな土地収用や開墾あるいは漁獲量の減少は確認されておらず、維持されており、今後も住民の手によって持続的に運用される見通しとなっています。以前に魚保護地区を設置した1村では、住民自ら、金銭供与を伴う企業からの川での土砂採掘の提案を断る例が見られました。また、プロジェクト最終評価を実施し、住民による資源利用の確保や権利の擁護、住民による自治の動きといった成果が確認されました。一方、他地域で共有資源をめぐる問題に取り組むため、セコン県の新たな郡での新規プロジェクトを立案しました。
コミュニティー林に看板を設置する村人
堆肥づくり研修の様子
魚保護地区について話し合う村人たち
ナンヨン村農家カンウォ・クンカムレンさん
川と森に囲まれて住む私たち村人は、日々自然の恵みを利用しています。ところが、最近は森や魚を売るために採ることで、その量が減ってきてしまっていました。JVCとともに設置したコミュニティー林は、自然の恵みを将来の世代に残すという意味で非常に重要です。活動を通じて、改めて自然の重要性がわかったという人もいます。以前JVCと設置した魚保護地区の区域内で、企業からの土砂採掘の打診があったのですが、お金を出すと言われても断りました。JVCとの活動がなければ、村の自然は破壊されてしまっていたかもしれません。コミュニティー林は祈りの場でもあり、心のよりどころとなっていて、欠かすことのできないものです。子どもたちのためにも、川も森も、ずっと残していきたいです。
ラオス事務所現地駐在員東 武瑠
2024年度は、セコン県平地部(ラマーム郡、タテン郡)でのプロジェクトの締めくくりの時期にあたりました。2024年4月に駐在員として入職した私は、活動を終えた村々を訪れる機会があり、村人から生の声を多く聞くことができました。中でも、JVCとして力を入れていたコミュニティー林や魚保護地区は、かなり好意的に受け止められており、「将来世代のために」という意識が根付いていることが分かりました。JVCがただ制度を設置するだけでなく、制度を支える村人の意識にアプローチしてきた結果だと思います。2025年度は、活動の地を同県山間部(ダクチュン郡、カルム郡)へと移します。得られた成果と課題を活かし、引き続き村人のために活動を続けて参ります。