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コリア

【コリア】済州4・3事件に学ぶ旅 (1) ~次世代のための済州4・3ピースツアー -歴史と向き合い、これからを考える-~(会報誌T&Eより)

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東アジアの歴史と平和について学ぶ企画として、コリア事業が昨年度から準備してきた済州島でのピースツアー。事業担当者と、ツアーに参加した大学院生が2回に分けて報告します。

本記事は、2025年10月20日に発行されたJVC会報誌「Trial & Error」No.360に掲載された記事です。会報誌はPDFでも公開されています。ぜひご覧ください。

JVC会報誌「Trial & Error」No.360のPDFはこちら



多様な次世代が集い、歴史に向き合う旅へ

2024年度の東アジア大学生ピースフォーラムでは、「済州4・3に学ぶ」をテーマに講演会や国内フィールドワークを重ねてきました。「済州4・3を考える会・大阪」が、これまで「次世代のための済州4・3学習会」として済州島を訪問してきた取り組みに、東アジア大学生ピースフォーラムが合流。2025年5月のゴールデンウイークに、済州島で4日間のフィールドワーク「2025年 次世代のための済州4・3ピースツアー」を実施しました。参加者は30人ほどで、北海道から沖縄までの大学生や若手社会人、在日コリアン、韓国留学中の学生、日本に留学中の韓国人など、多様な背景をもつ次世代が集いました。また、このピースツアーは日本・韓国双方の多くの団体の協力と支援によって実現することができました。

今回のツアーの目的は、慰霊碑や遺跡を訪ね、現地の人々の証言を聞きながら4・3事件の全体像を学ぶことにありました。単なる訪問で理解した気になるのではなく、学びを自分事として捉える姿勢を重視しました。また、日韓の若者が円卓会議で意見を交わし、それぞれの歴史認識や平和への思いを共有することは、国境を越えた対話の重要性を体感する機会ともなりました。

旅で出会った済州の記憶

1日目は済州4・3平和公園を訪れ、犠牲者の名前が刻まれた慰霊碑に向き合いました。壁一面に並ぶ名前の数は圧倒的で、単なる数字では伝わらない人々の人生の重さを感じさせました。参加者の中でも、この公園が強く印象に残ったという声が多くありました。続いて観音寺を訪問。ここでは1948年に大規模な戦闘が起こり、多くの人が犠牲となりました。さらに朴パクジンギョン珍京連隊長の追悼碑や4・3忠魂碑にも足を運びました。珍京は元日本軍人で、済州4・3の強硬鎮圧に投入された人物であり、多くの島民の虐殺を指揮しました。後に部下に暗殺されましたが、その追悼碑は目立たない場所にひっそりとあり、さらに傷つけられていました。

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済州4・3平和公園の4・3 犠牲者位牌奉安室にて

2日目は下貴里(ハギリ)、永慕園(ヨンモウォン)、済州警察庁の殉職警察官追慕碑、文亨淳(ムンスンヒョン)署長胸像などを巡りました。永慕園は犠牲者と加害者が共に追悼される場であり、和解と共生を象徴しています。文亨淳署長は、力の限り済州道民の犠牲を食い止めようとした人物でした。午後には「日韓青年世代4・3 ラウンドテーブル」が開かれ、それぞれの活動紹介や次世代への継承について活発な議論が交わされました。

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文亨淳署長の胸像前にて

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日韓青年世代4・3 ラウンドテーブル

3日目は今丘里(クムアンニ)マンベンディ共同葬地や今丘里失われた村「セカルム」、今丘里月台(ウォルデ)跡地を訪れました。マンベンディ共同葬地は予備検束で虐殺された人々の遺骨を遺族が集めて葬った場所であり、参加者は静かに祈りを捧げました。また、銃撃で顎を負傷したチン・アヨンさんの生活の跡地にも足を運び、事件が一人ひとりの人生に残した深い傷を目の当たりにしました。

4日目は道頭洞(トドゥドン)の虐殺跡、済州北部予備検束犠牲者慰霊碑(写真4)、さらに建入洞(コニプトン)収容所酒精工場跡を訪問しました。ここは当時、倉庫など大型建物を収容所として利用していた場所で、過酷な拷問や取り調べが行われていました。目を背けたくなるような事実を前に、言葉を失いました。

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済州北部予備検束犠牲者慰霊碑にて

過去から未来へ ~対話と行動の一歩に

ピースツアーを通じて、島の至るところに虐殺の跡地が存在していることを強く実感しました。慰霊碑の数や跡地の静けさは、資料や映像以上に大きな衝撃を与えてくれました。今回の学びは、過去を振り返るだけにとどまらず、歴史の現場に立ち、人々の証言に耳を傾けることで、過去を単なる知識ではなく「自分の問題」として受け止める貴重な機会となりました。さらに、日韓の同世代の人たちと感情や思いを共有し合えたことで、国境を越えた対話と共感の大切さを実感する経験となりました。この経験を通じて得た学びは、歴史の重みを理解するだけでなく、未来に向けて「自分にできること」を考え、少しずつ行動していくための意識を育む一歩になったと感じています。

▶「【コリア】済州4・3事件に学ぶ旅」後編はこちら

筆者プロフィール

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コリア事業担当 酒寄静流

茨城県出身。世界には今日の食事もままならない人々がいることを幼少期にテレビで知り、衝撃を受ける。大学では開発援助学を専攻し、ミャンマーの教育問題をテーマに卒論を執筆。大学卒業後、物流業界やコンサルティング業界で働くも悩みを深め、何のために生きているのかわからなくなる。次第に、社会貢献できる仕事に就きたいという思いが湧き上がり、幼少期から関心を抱いていた国際協力の分野へ進むことを決意。2024年1月、JVCに入職。尊敬する人は芸術家の岡本太郎氏。

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