「子どもたちとつくる地域の平和」 ワークショップ報告(2) 参加者の子どもたちに会えた!
7月に「始まります!との案内をさせて頂いた、イラク中北部キルク-ク県キルク-ク市での「子どもたちとつくる地域の平和」ワークショップは7月10日に始まり、以後、毎週3回の割合で順調に進められています。
残念ながらキルク-クの現地は治安が不安定で、支援をしているJVCの担当者でも現場を訪問することができません。現地パートナーのイラクNGOの INSAN Iraqi Society もJVCの日本人スタッフの訪問に賛成しません。活動の模様を良く知っている参加者の子どもたちや保護者の方々は訪問を歓迎してくれますが、それ以外に、悪意を持つ人々がいつ、どこで外国人の訪問を見ているかわからず、活動が誤解されてはいけないというのが理由です。
そこで、何人かの子どもたちとその保護者の皆さんに、別の場所でお会いすることにしました。現場のキルク-クから車で1時間余りの近距離にありながら、治安が比較的安定しているイラク北部のクルド自治区内のスレイマニヤ市がその場所です。
当初は数人の子どもさんにお会いできればと思っていたところが、最終的に9名の子どもさんと、3名の保護者の方々(および3名の現地NGOスタッフ)が来て下さいました。
活動の進捗
キルク-クは多様な民族的の人々が住み、かつ石油資源が豊富な地域なので、民族対立や資源を巡る争いが引き起こされることが懸念される地域です。
この地域で、夏休みの期間を利用して出身民族の異なる子どもたちが一同に会しての課外授業を催し、図画工作の共同作業や音楽を学ぶなどの経験を通して交流の機会をつくります。
子どもたちの交流を通して大人も含めて地域の人々の交流や対話を促し、相互理解を進めることによって、地域の人々の対立を防ぎ、地域の平和づくりに貢献することを目指しての活動です。
JVCの事業担当者の原は6月からイラクの隣国のヨルダンに滞在しながら、活動の詰めを行って来ましたが、以下の内容で進めることで現地NGOのINSANと6月末に合意し契約書を交わしました。
プロジェクト期間 | 2011年7月1日~9月1日 |
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参加者 | 小学4年生~6年生 60名 (キルク-ク市ラパリーン地区とハリーヤ地区の2カ所8校の小学校から) |
日時、場所 | 2011年7月10日~ 週3回 9:00~12:00 ラパリーン地区の地域センターにて |
ワークショップの構成 (前半4週間)
2010年2月から行ってきた過去2回のワークショップでは、子どもたちに絵を描いて貰い、「平和の町」を象徴する家やモスク、教会やお店、町の門、ブランコや三輪車などの遊具の模型を作ったりという共同製作を通して、子どもたち同士の交流を進めて来ました。
7月10日から始まった今回のワークショップでは、これまでの参加者の子どもたちや保護者の要望を取り入れ、絵画や工作品の製作だけではなくて、音楽のワークショップにも取り組んでいます。また、共同作業の中で創造力を育み楽しく過ごすだけでなく、相互理解と平和に関する学びの要素を加えています。
第1回 | 第2回 | 第3回 | |
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第1週 | 7月10日(日)【絵画】 オリエンテーション 自己紹介、自画像を描く |
7月12日(火)【絵画】 民族の多様性を描く |
7月13日(水)【音楽】 楽器を知る 音階を知る |
第2週 | 7月17日(日)【絵画】 子どもの権利を絵に描く |
7月18日(月)【絵画】 協力の大切さを語る 他のグループと仲良くする |
7月19日(火)【音楽】 音符を学ぶ 各民族を代表する歌を歌う |
第3週 | 7月24日(日)【工作】 平和を象徴するバスを作る |
7月25日(月)【工作】 平和のバスを作る(続き) |
7月26日(火) 【スレイマニヤ訪問】 |
第4週 | 7月31日(日)【絵画】 「世界がもし100人の村だったら」 |
8月1日(月)【絵画】 日本を学ぶ(着物の描写) |
8月2日(火)【音楽】 鍵盤楽器とバイオリンを学ぶ |
スレイマニヤにて子どもたちに会えた!(7月26日)
7月26日に9名の子どもたちを迎えてスレイマニヤで打ち合わせを行いました。
まずJVCからイラク事業担当の原が皆さんにご挨拶、その後、キルク-クからの子どもたちがひとりひとり自己紹介を行いました。
JVCの原は、日本の震災の後にキルク-クの子どもたちから日本の震災被災者に向けての励ましの気持ちを伝えたいと特別ワークショップを開いてくれたことについて感謝を述べました。
その後、インターネット経由で日本のJVC東京事務所のスタッフと、また、当日は仕事の都合でイラクの隣国のヨルダンに滞在中だったINSAN代表のアリーさんとビデオ回線をつなぎ、会話を交わしました。
キルク-クの子どもたちからは、いつか日本の子どもたちと会いたいとの要望が、保護者の方々からは、日本の先生がイラクを訪問してイラクの先生に指導方法を教えて欲しいとの要望が出ています。すぐに日本人が行くことができなくても、このようにインターネットを利用すれば、交流ができることを実感しました。
スレイマニヤでは、当初は数名の子どもさんとの面談を想定して、ワークショップに参加した感想をじっくりと聞くつもりでしたが、予想を上回る大人数の9名の参加で、他の8名を置いたままひとりに長い時間を割くことができず、数名に簡単なインタビューを試みるだけに留まっています。しかし、待ち時間の間に子どもさん同士で自由にグループを作って貰い、遊んで貰うことで、実際のワークショップに近い様子を見せてもらうことができました。
ゲストの内訳 - 9名の子どもたち、3名の保護者と幼児1名、3名の現地スタッフ
9名の子どもたちの民族別は7名がクルド人、2名がアラブ人でした。キルク-ク市外に出かけるに際して保護者の了解が必要で、なおかつ今回の訪問日程が直前に決まったこともあり、あらかじめ現地の民族バランスを考慮してのメンバー構成にはなっていません。このため、今回のスレイマニヤ訪問の子どもたちにはトルコメンやアッシリアの民族の子どもたちは含まれていません。
また、ワークショップでは民族ごとに分け隔て無く仲良くすることを教えているので、自己紹介でも出身の地区と学校名を名乗るだけで、子どもたちに民族を尋ねるのは禁止です(したがって、民族構成は後から現地スタッフにこっそり教えてもらいました)。ほかには母親2名(クルド人)と父親1名(アラブ人)の保護者が随行。現地スタッフはワークショップ会場のラパリーン地区の地域センターの担当者1名とワークショップの指導員と副指導員の合計3名が来られました。
スレイマニヤに来た9名のうち8名が女子生徒で、男子生徒はひとりだけ
キルク-クからスレイマニヤまで、たった1時間の距離でも、特に男子生徒について、保護者の了解を取るのが大変です。 ごく最近、キルク-クで遠足のバスが交通事故を起こしたことがあり、保護者が子どもを町から外に出すのに神経質であったこと、特に男系社会で男の子を大事にする文化の中でとりわけそれが厳しかった様子です。
しかし、男の子だけでなく、他にもこの日にはスレイマニヤに来た女の子の無事を確認するために、父親がキルク-クから電話をかけて来た例もありました。
夏休みも家の近所で遊べない
5年生のダリアちゃん(クルド人)は「今回のプログラムに参加して、夏休みの間に遊べる機会が増えて良かった」と言います。自宅の近所には遊び場が無く、道路では危ないので、普段の夏休みは家でひとり遊びをするしかなかったので、同年代の友達と一緒に遊べる機会が増えて良かったとのこと。ひとりっ子ではなく、お姉さんがいますが、年齢が離れているのでかまって貰えず、家では一緒に遊べないとのこと。
子どもたちの住むラパリーン地区、ハリーヤ地区は、キルク-ク市の中心部からは若干外れた地域にあり、古くからの住人と他の地区から避難して来て住むようになった最近の住人が混じり合って住んでいます。そのような中で地域の中で子どもたちの安全な遊び場などの設備も整っていないようです。
使う言葉は主に2カ国語
ワークショップに参加している子どもたちは主にクルド人とアラブ人、他にトルコメンやアッシリアなどの少数民族の出身者もいるので、コミュニケーションを取るためには最低限クルド語とアラビア語の二カ国語による説明が欠かせません。
スレイマニヤでの打ち合わせでも、スタッフがアラビア語とクルド語の二カ国語で説明をしていました。キルク-クでの授業の最中には、両方の言葉ができる子ができない子を助けるという微笑ましい風景も見られるとのこと。
また、日本から来たJVCの原を歓迎ということでアラビア語で歌を披露してくれた女の子がいましたが、後から聞いたところでは、その子どもさんはクルド人だということでした。個人差はありますが、子どもたちの中には言葉の壁を乗り越えている子どももいます。文化の壁も乗り越えて欲しいと頼もしく思います。