研修を実施する前には、事前に研修があることをきちんと農家に伝えなければいけません。また、研修後にはどれくらいの人が研修で習ったことを始めたか、確認していかなければいけません。しかしカンボジア人スタッフは基本的に1人10村弱を担当しているので、1村1村丁寧に見るというのはなかなか難しいことです。

そうなるとどうなるか、と言うと研修の告知を村長さんだけに伝え、「村長、後は任せた!」というようになってしまいます。村長さんは村人をよく知っていますし、情報を伝達するために村長さんに依頼するというのはとても良い手段なのですが、【1】村長は忙しい。【2】村長だって人の好き嫌いはある。ため情報がなかなか伝わらない場合もあります。また他の人に伝達をお願いしても、伝達を義務化することは難しいことが多いです。
そこで私たちは各コミューンに1人ずつ「農家ボランティア※」と呼ばれる人を試験で選び、そのボランティアさんたちに研修情報の伝達や実践状況の確認を手伝ってもらっています。コミューンといっても広いので、全ての村の様子や村人を知っているわけではないですが、それでも私たちよりは人間関係があるので、情報を伝えやすい・拾いやすいです。
また、農家ボランティアさんに仕事として研修の補佐をしてもらうこともありますが、見学したいから、研修でいろいろと学びたいからと言って仕事抜きでも手伝ってくれたりもします。各村で実施する同じ研修に何度も参加するため、他の一般の農家よりも研修の内容を覚えていて、習ったことを積極的に実践しています。

タヤエク・コミューンの農家ボランティア、ヴィサルさんが自分の田んぼでもSRIをやってみたから来て欲しいといわれ、スタッフと訪問しました。田んぼまで歩く道がてらヴィサルさんは、「SRI(幼苗一本植え)で田植えをした農家は去年2,3軒しかいませんでした。でも今年研修を何度も受けてみてこれはいけると思ったから、私が誰よりも先に始めて、みんなに様子を観察してもらおうと思いました。最初は半信半疑だった私の周りの農家も、私の田んぼの様子を見て一本でも大丈夫なんだという自信を深めてくれました。今年はもうこの村の10世帯くらいの農家がSRIを実践しています。他の農家が新しいことに挑戦する手助けができてとても嬉しいです」と話しながら、あっちもこっちの田んぼもSRIだといろいろと指を指して教えてくれました。その顔はとても得意そうでした。
ボランティアといっても最初は仕事の対価としてもらえる報酬を期待しているようでしたが、今では積極的に学び・実践し、それを熱心に他の村人にも伝えてくれています。まだ歳が若いボランティアさんも多いので、そういう人たちが次世代のカンボジアを担う貴重な人材になってくれればいいなと思っています。
※ボランティアさんといっても、仕事を担ってもらっているため、少ない額ですが報酬を支払っています。それなので、日本の意味での「無給ボランティア」ではありませんが、「自発的・積極的に関わろうと意志のある人」という意味でのボランティアとして活躍してくれています。
(この記事はJVCカンボジアボランティアチーム発行のメルマガに掲載された記事です)