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カドグリ市街戦の夜(2)

JVCスーダン現地代表 今井 高樹
2011年12月 8日 更新
(前回から続いています。カドグリ市街戦の夜(1)からお読みください。)

戦闘開始から30分後、停電。銃声は時に止んだかと思えばまた激しくなり、近くなり、遠くなり続いています。

横で寝そべっているユヌスさんは、たまたま子供を連れてハルツームの実家に戻っている奥さんと電話で話しているようです。ひとりきりなのか、誰かと一緒にいるのか、と奥さんが尋ねたのでしょう、「タカキと一緒だ」とアラビア語で答えているのが私にも分かります。

電話を終えて、「カドグリで戦争が始まったことは、ハルツームの親戚はもう知っている。皆、心配している」とユヌスさん。「子供がここにいなくてよかった」

JVC東京事務所からは何度も電話が入りました。私は状況を説明するとともに、国連事務所とは連絡が取れており、緊急退避策が発動され救援部隊が派遣されるのを待つ旨を伝えました。

外では誰かが大声で叫んでいます。兵士が何かの合図をしているようです。続いて、バラバラと走って行く足音。「政府軍だ。山のほうに行けと言っている」とユヌスさんが教えてくれます。
「SPLA-Nが山の方に陣取っているのだろう」

この市街戦が、政府軍及び政府系民兵とスーダン人民解放軍(SPLA-N)との争いであることは間違いありません。市内では政府軍が優位、SPLA-Nは周囲の丘陵地に陣営を構えているのでしょうか。丘陵に囲まれた盆地にあるカドグリは、町はずれからもう山の斜面です。政府軍兵士はJVC事務所の裏手の山の方面に移動しているようです。

すぐに、裏手からものすごい砲撃音が聞こえてきました。一発撃つごとに、私たちの部屋の扉がガタガタと震えます。同時に、機関砲なのかロケット砲なのか、さまざまな音での総攻撃が始まりました。

いや、攻撃だけではありません。ズーン、バリバリと大きな振動を伴って私たちの周りへの着弾が始まりました。相手もこちらに向かって撃っているのです。見ると、隣のユヌスさんは一身にお祈りをささげています。『こんな時に、自分には神頼みの言葉もない』と思った瞬間、ドーンという大音響とともに地震のような衝撃が走りました。

あまりに近い着弾。二人ともただ茫然としていました。あとは、運を天に任せるしかありません。

幸いにも日没が過ぎ、あたりは暗くなりかけていました。一連の激しい砲撃を最後に戦闘が小康状態に入ると、どこからか子供の泣き声が漏れてきました。そして、暗く長い夜がやってきました。

暗く長い夜

夜に入り戦闘は小康状態とはいえ、時おり自動小銃の音が聞こえてきます。あちこちで兵士が警戒しているのです。停電の中、目立つことのないようローソクも懐中電灯も点けずユヌスさんと私は部屋の中でじっとしていました。

私たちはあちこちと電話で連絡を取り合っていました。この戦闘の中で携帯電話がつながるのは不思議でしたが、充電の残量はどんどん少なくなっていきます。明日に備えて、それ以上の連絡はやめました。市の郊外にある国連事務所からは「明日の朝まで屋内で待機」との連絡が流れています。

「ハラ減ってないか?」ユヌスさんが尋ねてきました。お腹の具合なんてすっかり忘れていましたが、言われてみれば昼から何も食べていません。ユヌスさんは立ち上がって、戸棚の中からパンをひとかけら出してきました。
「これしかないけど、分けて食べよう」丸いパンを二つにちぎり、何もつけずに口に運びます。私が持っていたペットボトルの水を二人で飲みました。

「スーダンでは、選挙なんてまだ早すぎたんだ」再び横になったユヌスさんは、暗闇の中でそう話はじめました。

「アメリカやヨーロッパ、日本のような国なら選挙はいいだろうさ。でも、ここじゃ選挙はダメだ」ユヌスさんは続けます。
「選挙で勝ったほうはハッピーさ。でも、負けた奴はそれを認めることができないんだ。だから、結局は戦争になるだけだ」

「分かりますよ、ユヌスさん。そもそも、選挙で決着をつける必要なんてあったんでしょうか?内戦が終わって6年間、NCPとSPLM-Nは共同統治でそれなりにうまくやってきたじゃないですか」

突然、パン、パーンと、耳をつんざくように銃声が響きました。家のすぐ脇で撃っているようです。思わず身をこわばらせていると、続いて裏手から砲撃音。この闇夜に、いったいどこに向けて撃っているのでしょうか。

「タカキ、いつも貧しい人間が割を食うんだよ。戦争が起きて、家も財産も全部なくして。さっき電話で話したら、町はずれの人たちは襲撃と略奪を恐れて、もうみんな家を捨てて逃げ始めているよ」

いつの間にか、二人ともうとうとし始めたようです。銃声、砲声が断続的に聞こえる中、長かったような、短かったような夜が明けていきました。

翌朝

ありし日のJVCカドグリ事務所。2011年3月に行われた開所式。ありし日のJVCカドグリ事務所。2011年3月に行われた開所式。

朝になり国連から連絡が入りました。ついに市内の国連・NGO職員を退避させるための救援部隊の派遣が決まったのです。市内の国連機関、NGO事務所を巡回するとのことで、JVC事務所の場所もあらためて確認し合いました。
近くの撃ち合いが静まったので、ユヌスさんと私は庭に出てみました。市の南西、私たちの場所とは反対の山のほうからは間断なく砲声が聞こえてきます。

ユヌスさんは扉の隙間から外の様子を伺っていましたが、「ちょっと様子を見てくる」と言うと扉を開けて出て行ってしまいました。5分もすると戻ってきて、マーケットの様子を報告してくれました。

「夜の間に、もう商店が襲われて略奪されている。民兵がやったに違いない。商店主が何人か見にきていて、途方に暮れていたよ」
あまりに早い仕業に、驚きました。

「タカキ、マーケットで親戚に会ったんだけど、そっちに移動しないか。あっちに行けば食べ物もあるぞ」 そう言うユヌスさんに

「いえ、国連の救援部隊がここに来る予定なので、JVC事務所に残ります」と答えると、
彼は「そうか、それはよかった」と言ってから、
「国連は、オレたちは助けてくれないのか?」
これには、答える言葉もありません。

「ハハハ、わかっているよ。タカキは外国人だからな・・・」ユヌスさんはそう言って笑顔を作ると、右手を差し出しました。

「それじゃ、ここでお別れだ。気を付けて逃げてくれよ」

「はい、お互いに。また必ず連絡します」

固く握手をして、ユヌスさんはマーケットの方角に出て行きました。

やがて、また近くで戦闘が始まりました。

(次回につづく)

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