REPORT

日本 東日本大震災

気仙沼はいま 第1回開催報告

※2018年度末をもって、東日本大震災関連の活動はすべて終了しております。多大なご支援をいただきましてありがとうございました。
この開催報告は、シリーズ気仙沼のいまの第一回目となります。


報告会の様子

5月8日に「気仙沼はいま」の第1回目の報告会が開催されました。テーマは気仙沼に建設が計画されている「防潮堤」です。JVC気仙沼事務所の現地統括の山崎哲からは次のような話題提供をしました。
 

山崎:昨年7月に気仙沼に赴任しました。そこで防潮堤建設計画を知って以来、私の中に「気仙沼は海と共に生きることができるのだろうか」という問題意識があります。防潮堤を造ることにより人命と財産を守るというのが計画です。これは、国の方針を県が受け、さらに県が立てた計画を市が受ける格好になっています。防潮堤設置後の風景をシュミレーションしてみると、海を陸から眺めることはほぼできなくなります。
 

こうした大規模開発に対して住民はどのように受け止めているのか、声を集めることにしました。まず、防潮堤について知っているかという問いに対しては、ほぼ全員が知っていました。しかし、その必要性に関しては様々な考えが見えてきました。

「人命や財産を守るために必要」という意見もあれば、「景観を壊す」、あるいは「そもそも津波を防ぐことは不可能だ」という意見もありました。「観光業への影響は避けられず、それはつまり、気仙沼らしさがなくなる」ということをおっしゃる方もいました。「海辺に住む人間として海が見えないということはありえない」という声も聞きます。では、どうするか。
 

住民からの聞き取りで代案としてあがってきたのは、「高台に住む」、あるいは避難経路、避難場所、防災教育の徹底や、人口地盤の導入などのアイディアが出されました。「リスクは覚悟する、海はそういうもの」という達観した意見もありました。

海と生きることを可能にするためには、物理的に防御する方法、防災教育や覚悟を決めるといったソフト面での対応、そして高台に住む、という選択肢、それらの組み合わせになるのだろうと思います。
 

こうした大規模開発計画が作られるプロセスにおいて十分に住民の意見が汲みいれられなかったことには個人的に残念な思いがあります。JVCのように外部者は、住民の声に寄り添って行動するべきだと考えています。個人的には環境への影響も考えられる中で、こうした大規模開発が住民の意見が汲み取られずに早急に決まってしまう構造には反対です。しかし、JVCは「住民に寄り添う」ことを大事にしていますので、こちらの価値判断だけで反対の声をあげていく資格があるのかと葛藤しています。何が最も良い方法なのか住民の声を丁寧に拾っていくことが必要なように思います。

 

参加者との意見交換

山崎からの話題提供を終え、参加者との意見交換をしました。参加者からは、「本当に防潮堤が必要な場所がある中で、反対一辺倒ではなく、必要なところには作り不必要なところには作らない、ということが重要だと思う」という意見や、「JVCの海外の経験を活かして、行政に声をあげていけないか」、「女性の意見を汲み上げるアプローチを導入して欲しい」といった、活動へのアドバイスをいただきました。さらに、「防潮堤単体ではなく、住まい方だとか暮らしの構造を変えるアプローチが必要では」といった包括的なアプローチを提案いただきました。

本シリーズ企画では、気仙沼や気仙沼で活動するJVCの現状をお伝えすると共に、参加者の皆さんとの意見交換・議論を通じて、よりよい活動のあり方を模索していきたいと考えています。すぐに答えが出てくるわけではありませんが、参加者の皆さんからいただいた意見は現場に持ち帰り、できる限り活動に反映させながら気仙沼の復興に資する活動を続けていきたいと考えています。

執筆者

下田 寛典
緊急支援担当

大学在学中に1年間、JVCの「タイのNGOで学ぶインターンシップ」プログラムに参加。卒業後、インターン先で再度ボランティアとして活動を続けたが、その年の暮れにスマトラ沖津波がその近くの村を襲った。他人事とは思えず、一時帰国中、「仲間たちのために何かできることはないか」と考えJVCに参加した。その後、タイ事業と、主に緊急支援事業を兼務。

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