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2012年10月31日 【 スタッフの日常

恐怖と悲しみを明るさと笑顔に変えて生きる
ガザ包囲網とガザの人々

現地代表 金子 由佳
2012年11月 2日 更新

パレスチナへ赴任して2か月半、この間に5回ガザ地区へ行き、地域の人と交流し、またパートナーNGOのArd El Insan(AEI:人間の大地)のスタッフともだいぶ仲良しになりました。特にプロジェクトマネージャーのアマルは、私にとってはガザでの母親、あるいは親友のように思うし、地域保健指導員のハイファも、綺麗で優しいお姉さん、運転士のアブー・アドハムは父親のような存在です。プロジェクトに携わって間もなく右も左もわからない中、ガザの人々は本当に温かく私を迎えてくれます。

つい数日前の10月23日、24日もガザに出かけました。ガザ地区・ガザ市内で行われている今年度事業、「子どもの栄養失調予防プロジェクト」の視察と、2012年度の事業中間報告を書くための情報収集が目的の短い滞在でしたが、2日目、ガザを出る予定の日の朝、外国人が出入りするイスラエルとガザの検問所「エレツ」が閉まっていると友人から一報がありました。

通常ガザ内部で働く外国人にとって、エレツはガザへ出入りするための唯一の場所で、ここが閉まっている限りガザで立ち往生、いつ出られるかわからない事になります。

ことの発端は、エレツ検問所のある「境界線」付近で、イスラエル軍戦車による攻撃が行われたことにありました。それによってガザ側に設置されたパレスチナ自治政府の検問所(脚注1)で働くパレスチナ人が負傷し、それにパレスチナ人が応戦する形でしばし付近にて戦闘が繰り広げられ、停戦交渉があったものの、治安が回復するめどが立たなくなってしまったという状況でした。

しかし、イスラム教の犠牲祭「イード アド-アルハー」の祝日連休を控えていた週末だけに、ガザを出る予定であった外国人も多く、朝10時の時点で検問所は閉まっていましたが、昼過ぎ、12時から2時までの2時間だけ、外国人を外に出すという情報があって、私もすぐにエレツに向かいました。

これを逃したらいつ出られるかわからないし、これ以上戦闘が激化した場合に備えてJVCスタッフやAEIスタッフ含めて周囲の勧めもありました。しかし、1時頃にエレツに到着すると、到着するや否やイスラエル戦車からの着弾の音が周囲に響きわたっています。初めてガザを訪れた晩に聞いた砲撃音より、はるかに自分から近い場所であると思いました。

エレツ前で待機する国際援助団体の車両エレツ前で待機する国際援助団体の車両

「まだ交戦中か...」と一瞬思った反面、私と同じようにガザ地区の外に出るためにエレツにやってきた国際援助関係者が乗る車両が連なっている様子を同時に目にし、もともと24日に出る予定であったものの、外国人だけ逃げ出すような形にも見えて、強い罪悪感と違和感を覚えました。

それでも、エレツまで見送りに来てくれたアマルや、アブー・アドハムに申し訳ないと言いながら一緒に待ってもらって、いつ開くともしれない検問所の前で、周囲にいる国際NGOスタッフや、ジャーナリストから戦闘の状況や、停戦交渉の状況に関する情報を収集しました。

3台の救急車が目の前を横切って、けが人が出ていることを告げています。こういった時、自分の身は自分で守るのは鉄則だと思いますが、アマルやアブー・アドハムがいなければ一人でガザ市内のJVC事務所に戻ることも、エレツに留まることもできず、ガザの人々に守ってもらってここにいることを痛感した一時でもありました。

しかし結局その日にエレツが開くことはなく、2時半過ぎまで待機した後に、ガザ市のJVC事務所に戻ることになりました。ほかの援助団体も同じように次々にガザ市内に戻っていきます。

ここのところ、イスラエルからのガザへの攻撃が増しているように思えます。2008年の封鎖開始後、基本的にイスラエル軍はガザ領内からは撤退しましたが、実状は、現在も、陸・海・空全てにおいてイスラエル軍がガザを監視・封鎖・攻撃し続けています。

また、Targeted Killing(ターゲットキリング)と呼ばれる狙い撃ちで、バイクに乗っていようが、建物内にいようが、最先端科学を駆使したミサイルによって、殺されてしまうこともあります。

理由はイスラエルにとって危険な人物だからということが大概ですが、これによるパレスチナ人の死者は10月だけで13人に上り、それには、たまたま近くにいた子どもや、一般人の巻き添えも含まれています。まるで「神」の雷とでも言わんばかりの、裁判なしの処刑のようです。

また一方、イスラエルからの攻撃は、だれを狙っているのかよくわからないものも多くあります。アマルの家は、ベイト・ハヌーンというエレツから近い場所にあって、イスラエルからよく攻撃される地域としても有名なのですが、もともと豊かな穀倉地帯で、農業が地域の人々の生活と伝統、文化を守ってきました。

それが現在では、いつ爆撃されるかわからない地域でもあります。9月のガザ滞在時、アマルのうちに遊びに行く機会がありましたが、オリーブが生える畑や、そこに沈むきれいな夕日が印象的で、アマルの家族もとても優しく、とても温かい場所だったのに、今回の滞在中は、空爆がひどくて、家にまた招待されていたのに、訪れることはできませんでした。

つい先日訪れた場所が、こんな時は、近くて遠い場所になってしまいます。またガザそのものがそんな印象でもあります。今回の滞在中とその前後、ベイト・ハヌーンの畑にも、学校にも、アマルの家のすぐ隣の道にも着弾があって、アマルの家から200メートルの距離にある保水タンクも破壊されました。

そしてこの数日アマルの子どもたちは学校に行けていません。校庭で不発弾が見つかって、それが撤去されるまでいつまた学校に行けるともわからないからです。そんな非日常的な話をアマルは今年度事業の事務的な話を私としながら、時々冗談まで交えて、まるで日常の噂話のように説明します。「夜も朝も爆撃音がうるさくてね」という話を、時々真面目になりながら、しかし笑いながらするのです。

赴任直後から感じていましたが、ガザの人々は、一様にして明るく過ごしています。家族や親せきの誰かが過去殺されているような現状の中にあっても、いつも前向きで、活発で、人に優しく、笑顔が絶えません。

そもそも、なぜガザは攻撃され続け、裁判もなしに人が殺され続けているのか全く分かりません。なぜアマルの子どもは学校にいけないのか?「基本的人権」や「法の下の平等」という概念が世界に出て久しい中、ガザの人々は未だに人間としての尊厳を踏みにじられています。

そして、国際社会からも忘れられようとしています。人々は、こんな状況の中で、恐怖と悲しみを明るさと笑顔に変えていくほか生きることはできないのかもしれません。今回、それを目の当たりにして、アマルの話を聞きながら、私は本当に言葉が無く、また泣くこともできず、ただ無力さと焦りを強く感じました。

翌25日朝、エレツは何の問題もなかったかのように開きました。今回ガザで立ち往生した外国人は国連関係者含めて60人で、そのほとんどが25日にエレツに押し寄せ、週末を別の場所で過ごすためにイスラエル側に出ました。

私はその時、国際NGOが組織した警護団の一車両に乗ってエレツを通過してエルサレムに戻りました。こういった国連、政府、NGOの援助関係者の一群の中に昨日と同じように自分が身を置きながら、NGOで働くことの意味や、自分がガザでできることをエルサレムまでの帰りの道々考えました。

ガザを出るにも誰かに守ってもらわないとならない無力な自分と、アマルたちの笑顔とが頭の中に交互して、しばらくは何も思い浮かびませんでしたが、ふと、単純ではあるものの、ガザの人がそうであるように、ガザに居る時は少なくとも笑顔でいようと思いました。

そしてNGOで働くこととは、そもそも、その地の人々と、楽しみや、苦しみをできるだけ共有して、共に過ごすことそのものだろうと、常々思っていたことを思い出しました。つまり、NGOの役割は、階段を作って、特定のゴールにたどり着くようにその地の人々を促すというものではなく、そこにある階段を地域の人と一緒に上る作業そのものであるから、笑顔で一緒に事業を続けることにやはり意味があるのだと思い至りました。

アマル(右から二人目)とその子ども、姪っ子たちと共に(ベイト・ハヌーンにて)アマル(右から二人目)とその子ども、姪っ子たちと共に(ベイト・ハヌーンにて)

年明け、イスラエル大統領選挙があります。パレスチナ人を管理、ガザを封鎖することで国家の安全を守っているという認識が強いイスラエル市民の中で、選挙に通るためにこのような方法でガザを管理することは、「日常」になっているのかもしれません。

しかし、この不正義と異常な状態を、このままガザの「日常」として忘れ去るにはあまりに理不尽です。私は、引き続き、この理不尽な現状をガザの人と共有して、多くの人々に伝えながら活動したいと思っています。

脚注1
エレツは、イスラエル側の検問所と、パレスチナ側の検問所に分けられる。イスラエルからガザに入る際、事実上はイスラエルから「出国」する形で、ガザに入ることになり、またガザ側では、ガザ地区に入ってきた人物を審査するためのパレスチナ自治政府が運営する検問所が設置され、ガザを出入りする人を管理している。今回はこのガザ側の検問所で働く人が負傷した。

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