ここのところヨルダンは雨で冷え込む。ともかく寒いのだ。
フランスのNGO「世界のこどもたち」と打ち合わせをする。ストリートチルドレンは親と離れ離れになっているので、戦争が始まったら、すでに6ヶ月分が各家庭ごとに配給されている食糧にもアクセスできなくなる。バグダッドのこどもたち350人に6週間分の食料をいかに配るかということを打ち合わせる。
バグダッドにいるローカルスタッフと連絡が取れたという。バグダッドは静まり返っており、ここ数日で物価は2倍、3倍になってとうとう商店には何もなくなってしまったという。ぎりぎりのタイミングで、食料などを買い付けることができた。バグダッドの2箇所
の倉庫にすでに運び込まれたという情報が入る。もう、戦争は避けられない。残された時間は数時間しかなかった。恐怖を感じずにはいられない。こんな強引な戦争が許されてしまうことの恐怖だ。
朝の5時。日本からの電話でたたき起こされる。
「戦争が始まりました。そちらの様子はどうですか」
ひっきりなしに電話がかかってくる。
3月20日、今日も雨だ。
街中は静まり返っている。カリタスクリニックの吉野からの電話。
「まるで葬式のようです。スタッフの人たちはみんな涙を流しています。」
ダウンタウンでは、ナツメヤシを売っているイラク人の兄弟がいた。彼らは、モスルから一週間前にやってきたという。空爆には慣れっこだ。米英は開戦前にもモスルには何十回と空爆を行ってきたからだ。
「ナツメヤシを売り切るまでは帰らないよ」
「家族のことは心配だ。でも神が守ってくれると信じている。家族のためにナツメヤシを売ってお金を作らないといけないんだ」
3月21日、国連の記者会見では、すでにヨルダン人が325人、外国人が379人逃げてきたという。イラク人は今のところいない。皮肉なことに、戦争がはじまってからイラクへ戻るイラク人の方が多いようだ。一方でNGO関係者やマスコミがすでにルウェイシェッドに陣取って難民たちを待ち受けているという。国境の町はやがてレストランやらホテルやらで沸き立つのだろう。
