2014年6月の記事一覧
「収支がハッキリしたのはよかったし、銀行に預金もできた。でもさ、それでいいのかい。牧畜民にはずいぶん『タダ飲み』されてるんじゃないか?」
天井から吊るされた扇風機が回るJVCカドグリ事務所で、スタッフのタイーブがブツブツ言っています。
先日、ティロ避難民住居で行われたウォーターヤードの運営についての話し合いで、家畜からの給水利用料などの収支が報告され、手元に残ったおカネは井戸管理委員会の銀行口座に入金されました。
しかし...

牛追い用の長いステッキを手にしている
JVCが設置したティロ避難民住居のウォーターヤード。前回までは、菜園への灌漑用水をめぐる「いざこざ」について書いてきました。菜園メンバーからすれば、井戸管理委員会は家畜給水の収入があるくせに、菜園には水を流さない「悪者」のようにも見えます。はたしてどうなのでしょうか。
そこで、今回は井戸管理委員会の側にスポットを当てて、家畜給水にまつわる話をご紹介します。
乾季が始まって間もない12月頃、300キロも北の乾燥した地域で雨季を過ごしたウシたちが、カドグリの周辺に戻ってきます。その数は1万頭とも2万頭とも言われます。郊外の草原に牧営地を設け、牛飼いの男性たちはドーム型のテントを張ってウシと生活を共にします。
牧営地のまわりには、長年にわたり使われている水場があります。それはハフィールと呼ばれる大型の溜池であったり、牧畜民が自分たちの手で掘り込んだ井戸だったりします。もちろん利用料金などありません。しかし、乾季が半ばに差し掛かる2月頃、それらの水場は枯渇していきます。そうなると、牧畜民は料金を支払ってでも各地区にあるウォーターヤードの水を利用することになります。カドグリ周辺のウォーターヤードは地下30~50メートルの帯水層から取水しており、乾季でも水が豊富です。


3月下旬、暑さと乾燥のピークを迎えて、ティロ避難民住居のウォーターヤードはフル稼働していました。水を求める人々、そして家畜。さらに、菜園への水の供給を巡り、菜園メンバーと井戸管理委員会とのやり取りが続いています。
そうした中、私たちは井戸管理委員会と協力してウォーターヤードの利用調査を行いました。調査といっても、朝から夕方まで、給水所にやってくる人数とポリタンク、そして家畜を数える単純作業です。
1日だけの調査ですが、結果として、利用者はのべ298家族(母親と子供などが連れだって来たら「1家族」とカウント)、水を汲んだポリタンクの数は840個。利用者数については、同一の家族が午前と午後の2回にわたって来ることが多いので、実際には、約半数の150家族が利用していると見るのが妥当かも知れません。この避難民住居には全部で230家族が入居しているのですが、残りの80家族は、ウォーターヤードとは反対の南側にある手押しポンプ井戸で水汲みをしているのでしょう。


灼けつく大地の向こうに、ティロ避難民住居のウォーターヤードが見えてきました。給水塔の脇にクルマを停めて外に出ると、暑さに息が詰まりそうです。雨が完全に止まって既に4か月、3月の南コルドファン州は1年間で最も暑く乾燥した季節を迎えています。気温は40度をゆうに超え、45度くらいでしょうか。しかし、ここでは温度を気にする人など誰もいません。
ウォーターヤードの給水所は、ポリタンクを抱えた女性や子どもたちで一杯でした。水の消費量もぐんぐん上がっているようです。地下水を汲み上げるための発電機の音が鳴り響いています。
JVCスタッフのタイーブはそんな光景を眺めながら、フェンスを隔てた菜園に足を向けました。
前回の「現地便り」でご紹介したように、2月に行った話し合いでは、共同菜園にウォーターヤードの水を引くため、菜園の参加メンバーは発電機の燃料代として分担金を払うことになりました。しかし、「ウォーターヤードは家畜に飲料水を提供して利用料収入があるはずなのに、どうして私たちからおカネを集めようとするのか」といった意見も多く、分担金の支払いは滞っていました。
タイーブは菜園の中に、ジャラビーヤ(スーダン男性が身に付ける白いガウン状の衣服)姿のクワさんを見つけました。クワさんは、前回の話し合いにも参加しています。その後、どうなったのかを尋ねてみました。