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沈黙する国内避難民(後編)― 南部スーダン独立住民投票レポート(4)

JVCスーダン現地代表 今井 高樹
2010年12月16日 更新

前回の記事で、北部スーダンに居住する南部出身者の有権者登録が低調なのは「北部政府が投票結果を改ざんするのではと人々が恐れているからだ(=悪いのは北部)」「いや、南部自治政府が『登録に行くな』と呼びかけているからだ(=悪いのは南部)」という南北双方の非難合戦をご紹介しました。

はたして、どちらの言い分が正しいのでしょうか?

それは、よそ者の私にはよく分かりません。新聞では、政治家同士の非難の応酬は頻繁に報じられるものの、「登録に行かない」人たちの声が取り上げられることは稀です。そうした人々は、沈黙を守っているのかも知れません。

タクシーに乗ったら、運転手さんが住民投票に話題を振ってきました。前々回の記事でも運転手さんの話をご紹介しましたが、ハルツームで時々出会う英語を話す運転手さんは、私にとって貴重な情報源です。

「南部出身の友達がね、自分は登録しないって言ってるんだよ。独立を決める投票なんて一生に一度だけなんだから、投票したらいいのにって俺は思うんだけどね」

一生に一度どころか、世界中のほとんどの人には一生涯そんなチャンスは巡ってきません。

「で、その友達はなんで登録に行かないの?」

「そいつだけじゃなくてさ、俺は南部人の友達も多いんだけど、みんな、登録したら自分の名前がハルツームの政府や警察に知れ渡って、南部が『独立』した後にハルツームから追い出されるんじゃないかって心配してるんだよ」

なるほど、そういうことか。

「っていうことは、つまり、みんな南部には帰りたくないっていうこと?」

「そりゃあ、ハルツームに家はあるし、仕事もあるしね。わざわざ仕事辞めて南部に戻ったって、別に南部の政府が仕事紹介してくれるわけじゃないだろうし。それに、南部は生活が大変だっていうね・・・お客さん、南部に住んでたんだって?」

「うん。ジュバに3年ほどね」

「あっちの物価はどうなんだい。べらぼうに高いのかい?」

うーん、ハルツームだって物価は高い。でも、ジュバはもっと高い。

「そうだね。特に食料品が高いかな」

確かに、物資のほとんどを北部や近隣国に頼る南部スーダンは物価が高いので有名です。私たちの職業訓練コースの研修生も、「ウガンダで難民生活していた時のほうがメシがたらふく食えた」とよく言っていました。

有権者登録を呼びかける新聞広告。南部での登録者数は12月6日までで250万人に達した有権者登録を呼びかける新聞広告。南部での登録者数は12月6日までで250万人に達した

運転手さんの話は、南部出身者が「登録に行かない」理由のすべてではないにせよ、ひとつの大きな理由を示しているように私には思えます。

1980年代に始まった南北内戦を逃れてハルツーム周辺に避難した南部出身者は200万人とも言われますが、大部分の人々は郊外に設けられた国内避難民キャンプや「不法居住区」(土地の権利を持っていない)とされる地区に住むしかありませんでした。「キャンプ」と言ってもテントがあるわけではなく、土やレンガ、草で作った簡素な家々です。しかし1990年代、2000年代とハルツームの郊外の開発が進むに連れ、キャンプや居住区では政府・警察による強制撤去が繰り返されてきました。ある日突然ブルドーザーがやってきて家々が破壊されることもあったといいます。2000年代半ばには、キャンプの移設を巡るトラブルから警察、住民の双方に死者が出る惨事も起こりました。

このような国内避難民が置かれてきた立場を考えるなら、彼らが沈黙を守っているのも理解できます。今までも弱い立場に立たされてきたのに、南部が独立してしまったら自分たちはどうなるのか?なんとか今の暮らしを守るため、せめて自分たちの名前や居場所は知られたくない・・

もし独立が可決された場合、南部出身者の北部での市民権がどうなるか(或いはその逆のケースも)は未解決の大きな課題です。ハルツーム政府と南部自治政府との交渉は続いていますが、一定の猶予期間は認められる可能性があるものの、南部出身者は市民権を失うという見方が大勢です。

しかし私が考えるに、これまで北部で暮らしてきた南部出身者には、北部(現在の「スーダン共和国」)の市民権を選ぶか、南部(新しい国家)を選ぶかの選択権があって当然のような気がします。もちろん、南部に住んでいる北部出身者も同様です。

国内避難民としてやむなく北部に逃れてきたとはいえ、長く住めば、そこには生活の基盤があります。「スーダン」というひとつの国の国民として生活してきた彼らが、南部が独立したからと言って「南部人狩り」に遭い、家も仕事も失って南部に強制送還されるような事態は、あまりにも不幸ではないでしょうか。

有権者登録の終了まで残りわずか。興奮するジュバの人々とは対照的に、沈黙する国内避難民。「独立」か「統一」かとは別に、市民権の問題をはじめとして解決すべき大切なことが山積しています。

北部での登録の低調ぶりを報じる新聞記事。北部での登録者数は12月6日現在9万5千人北部での登録の低調ぶりを報じる新聞記事。北部での登録者数は12月6日現在9万5千人

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