
【イエメン】イエメン南部の情勢と教育環境~11,12月の出張を終えて~①(会報誌T&Eより)
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2015年以来、10年間にもわたる内戦が続いているイエメン。JVCはここで2022年から、現地パートナー団体を通し、主として子どもの教育や保護にかかわる支援事業を行っています。
今回は、昨年11月から12月にかけて2週間ほど現地に出張し、現行事業のモニタリングと現地パートナー団体との振り返り、今後のプロジェクト形成のための打合せなどを行ってきた事業担当者が、現地のいまや、教育支援の課題について報告します。
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本記事は、2026年4月20日に発行されたJVC会報誌「Trial & Error」No.362に掲載された記事です。会報誌はPDFでも公開されています。ぜひご覧ください。 |
2025年11月に出張でイエメン南部のアデンおよびタイズを訪問したとき、人々からは経済状況への失望の声を多く耳にしました。2015年に始まった内戦以降、イエメンでは北部をフーシー派が実効支配し、アデンやタイズの位置する南部ではサウジアラビアの支援する暫定政府や、UAEが支援する南部移行会議(STC)などが影響力を持つという分断状態が続いてきました(写真1)。大規模な戦闘は一時期より減少しましたが、包括的な政治解決には至っていません。
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写真1:アデンの街中に掲げられていた南部移行会議(STC)の旗(2025年11月)
私が驚いたのは、フーシー派に支配され、一般的に制限の多いとされる北部だけでなく、南部に住む人々もまた、自らの地域の統治状況を必ずしも良く思っていないということでした。それは、現地で人々と会話を重ねる中で何度も感じました。その背景には、公務員の給与未払い、慢性的な電力不足、そして汚職の横行などがあります。
出張当時、アデンでは基本的に、1日のうち午前と午後の2時間ずつ以外は電力が供給されず、ジェネレーターやソーラーパネルを用いて自ら電力を賄うしかない状況が続いていました。ある方は「車用の発電機を4年間使い続けたが、壊れたので売ったら少しお金になった」と冗談交じりに話してくれました。その笑顔の裏に、苦労の一端が垣間見えました。また、公的機関での手続きには長大な列に並ぶ必要があり、短期間で済ませたいなら賄賂を渡す必要があるなど、汚職が日常生活にまで影を落としていることを実感しました。
タイズも同様に、電力供給の少なさから、街のほとんどのビルの屋上には自前のソーラーパネルが設置されていました(写真2)。皮肉なことに、イエメンでは公電力の供給不足の結果、家庭レベルでは世界でも非常に高い水準で太陽光発電が利用されています。しかしソーラーパネルを購入できない家庭もあり、それらの家庭では大きな苦労を強いられていました。
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写真2:タイズ市街地の様子。屋上にソーラーパネルが並ぶ(2025年11月)
タイズで出会った幼い物売りの男の子の姿も忘れられません。私はティッシュを受け取り、お釣りはいらないつもりで少し多めの紙幣を渡しましたが、彼はにっこりと微笑み、余分にガムを差し出してくれました。厳しい生活の中でも、相手に対して誠実であろうとする姿勢に胸を打たれました。今でもその微笑みが忘れられません。現地の方が言っていた「イエメン人は誇り高い」という言葉は、誇張ではありませんでした。自らの状況にかかわらず、真摯に客人を受け入れようとする人々の姿勢を、私は滞在中に幾度となく感じさせられました。
こうした状況の中で、南部の政治情勢にも変化が起きました。出張で訪れた2025年11月当時、アデンでは南部移行会議の旗が街の至る所に掲げられ、実質的な支配状況を示していました。しかし12月から翌年1月にかけて、南部移行会議とサウジアラビア主導の連合軍の間で戦闘が発生し、同月中に南部移行会議は事実上の解体状態に追いやられました。その結果、南部移行会議の旗はアデンの街から姿を消し、サウジアラビアは南部の政治・財政状況を立て直すべく、数億ドル規模の大規模な財政支援をすることを公表しました。
これにより、南部では一時的に電力供給の改善や公務員給与の支払い再開などの動きが起き始めました。しかし現地の人々の反応は、必ずしも楽観的なものばかりではありません。「今回の変化は痛み止めの注射のようなもので、根本的な解決にはなっていない」という声もあり、実際に電力供給は再び不安定になりつつあるとの指摘も聞かれます。イエメン・リアル高※にもかかわらず物価高が続き、現金不足によって日常的な取引すら制限されるなど、人々の生活を取り巻く困難は依然として続いています。
長年にわたり情勢の変化に翻弄されてきた人々は、状況の好転を歓迎しながらも、それがどこまで続くのかを静かに見極めようとしているように感じられました。情勢は確かに動いています。しかしそれが安定へと向かうのか、あるいは再び揺り戻しが訪れるのかは、未だ分からない状態です。
短期間の訪問であっても私にとって大切な国となったイエメンが、次にどの方向へ進むのか、その行方を、現地の人々と共に注意深く見守り続けたいと思います(写真3)。
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写真3:現地カウンターパート団体(NMO)のスタッフたちと(2025年11月)
追記
※T&E記事では「為替の下落」と記載しておりましたが、2025年11月から2026年11月にかけて、正しくはイエメン・リアル(YER)の価値は対USDで上昇しています。説明が不正確であったため、ここで訂正いたします。
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スーダン・イエメン事業担当 大橋怜史(おおはしさとし)
神奈川県出身。
一方で、