
【おすすめ映画紹介!】『ちょっと北朝鮮までいってくるけん』(会報誌T&Eより)
.png)
|
本記事は、2026年1月20日に発行されたJVC会報誌「Trial & Error」No.361に掲載された記事です。会報誌はPDFでも公開されています。ぜひご覧ください。 |
アジア太平洋戦争の終結(1945年)によって、35年間にわたる日本の植民地支配から解放された朝鮮半島は、瞬く間にソ連とアメリカの占領によって南北に分断されてしまいます。東西冷戦のさなか、400万人とも言われる犠牲者を出した朝鮮戦争(1950-53年)が終わり、北の朝鮮(注1)は社会主義国家の建設を進めるなかで、1959年から84年にかけて在日朝鮮人を“帰国事業”として受け入れていきました(注2)。日本での過酷な差別と貧困にあえぐ在日朝鮮人の多くは、軍事政権下で経済の低迷も続く南の韓国よりも、元々一つの国であり、「地上の楽園」とも喧伝されていた社会主義の朝鮮に希望を見出して海を渡って行きました。その数9万3千人。これには彼らの妻として同行した、日本人の女性たち1,800人も含まれています。
本作品は、こうして夫と共に海を渡った一人の日本人女性と、年の離れた妹のその後を追ったドキュメンタリーです。
隣り合っているにもかかわらず、国交すらない国とのやり取り。一人一人の思いとは別に、登場人物たちの人生は大海に浮かぶ小舟のごとく翻弄されていきます。「3年もしたら帰って来れる」と思っていた家族の思惑は見事に裏切られ、後に2国家間で始まった日本人妻の「里帰り事業」(1997~2001年)も、2002年の小泉首相の訪朝で拉致問題が明らかになったことで、わずか数十人が一時帰国を果たしただけで頓挫。結果、この姉妹が再開できるのはなんと、1960年に別れてから58年後の2018年になってしまうのです。
しかしこの映画を観て強く感じるのは、こうした国境や運命をも凌駕しようとする人と人のつながり、家族への思いです。声高に政治やイデオロギーを叫ぶのでもなく、日々の生活に追われながら生きる人々のくらし、愛情と葛藤を描くことで、カメラは人が生きることの意味や命の尊厳について静かに問うていきます。「政治的な大文字の言葉よりは、あくまで個人が紡ぐ小さな物語の背景から、社会的な構造が透けて見えれば」とは、島田監督自身のことば。もう一つの日朝史、ぜひご覧になってください。
注1:JVCでは分断された北側の朝鮮民主主義人民共和国を略称で「朝鮮」、南側の大韓民国を「韓国」と表記しています。
注2:当時、在日朝鮮人の多くは半島南部の出身者で、“帰国”した人たちのうち北部の出身者は2%に過ぎなかったと言われます。
*本作は現在、アマゾンプライムで視聴が可能です。

映画「ちょっと北朝鮮まで行ってくるけん。」のチラシ