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2012年9月11日 【 その他・未分類

西岸地区全土で大規模なゼネストとデモが起きました

パレスチナ現地代表 今野 泰三
2012年9月18日 更新

昨日(9月10日)、ヨルダン川西岸地区全土で物価高騰とガソリン代高騰に抗議するゼネストとデモが行われました。今回の抗議の対象は、西岸全土を占領しているイスラエル政府ではなくパレスチナ自治政府でした。補助金を出して物価高騰を抑えるなどの対策を十分にしていないというのが抗議の理由でした。

イギリスのガーディアン紙によると、西岸地区では最近、ガソリン価格が1リットル当たり2ドル上昇し、それにともなって輸送費や移動費が上がったために物価も上がったと報じられています(Harriet Sherwood, "Anger over price increases stokes West Bank protests", 2012年9月11日)。

デモとゼネストの様子を伝えるパレスチナの地元紙「アル・クッズ」デモとゼネストの様子を伝えるパレスチナの地元紙「アル・クッズ」

デモは、エルサレムとラマッラーを結ぶ幹線道路上に設置されたカランディア検問所やラマッラーの自治政府首相官邸前をはじめ、北はジェニンから南はヘブロンまで難民キャンプの出入口や町の中心部で行われました。バス会社職員やタクシー運転手もストを断行し、公共交通機関も全てストップしました。

また、パレスチナ自治政府の治安部隊が西岸全土に展開してデモ隊との衝突が起きた一方、カランディア検問所やラマッラー周辺ではイスラエル軍とデモ隊の衝突もあったようです。

では、なぜ自治政府に対する大規模なデモが起きたのでしょうか。JVCパレスチナ事業の現地パートナーであるパレスチナ医療難民救援協会(PMRS)で働くサーメフさんの説明では、国際援助なしでは職員への給与さえも払えない自治政府の財政基盤はいまだ脆弱で、ガソリン代や物価高騰を抑えるための補助金も出せないため、イスラエルと国際市場での石油価格上昇の影響をパレスチナ人の一般市民が直接受けているからだということでした。

しかし、物価高騰と生活の困窮に対する直接の責任は自治政府よりも、イスラエルによる経済的な独占状態とそれを固定した1993年のオスロ合意と1994年のパリ協定にあります。自治政府には、独自に金融政策を実施することも通貨を発行することも許されておらず、関税の利率を変えるのにもイスラエル側の合意が必要だからです。また、長年の占領・封鎖・破壊によってパレスチナ経済が破たん状態に置かれていることも物価高騰と生活困窮の一因です。

それにもかかわらず、なぜ今回怒りの矛先がイスラエル政府ではなく自治政府に向かったのでしょうか。私が話を聞いた限りでは、多くのパレスチナ人はイスラエルによる占領と独占状態が自分たちの経済的困窮を生みだしている直接の原因であるということをよく知っています。それでも今回の抗議活動が起きたのはなぜでしょうか。

JVCが以前活動していた西岸地区にあるベツレヘムのベイト・ジブリン難民キャンプに住む難民の女性は、いつも自治政府を批判していました。彼女にとって自治政府は、国連決議で承認された「難民の帰還権※」を既成事実的に否定する存在に映るからです。彼女は、自治政府の役人に面と向かって「裏切り者」と批判していたそうです。

※難民の帰還権について:現在パレスチナ自治区や世界の他の地域にいるパレスチナ難民たちが、現在イスラエル国内に存在する自分たちの元いた村々に帰還する権利。自治政府はイスラエルと交渉する中で、帰還権の問題を棚上げしているという見方をする人たちも存在します。

彼女が自治政府を批判するもう一つの理由は、占領が継続し、経済的な困窮が厳しくなっていく中でも、自治政府が「国家」として機能できることを国際社会に示すために、税金や公共サービスの使用料の徴収を厳しくしたからだといいます。支援の現場でも、パレスチナのローカルNGOは支援物資を購入する際に免税を受けることができず、高い税金をかけられているそうです。

オスロ合意(1993)以降、イスラエルがそれまで責任を負っていた西岸地区での行政サービスや福利厚生に対する責任を、パレスチナ自治政府が肩代わりするようになりました。自治政府はオスロ合意によって課せられたその責任を果たすために、パレスチナの一般市民に高い税金をかけざるをえなくなっているのです。そうした自治政府の抱える矛盾と、それに対する不満が、物価高騰を発端に今回爆発したのかもしれません。

他方、JVCが活動する東エルサレムではゼネストもデモも起きませんでした。パートナー団体であるパレスチナ医療救援協会(PMRS・MRS)のイスカーフィー医師にも聞きましたが、「特に何も起きなかったし、活動にもなんら支障はなかった」と言っていました。分離壁のエルサレム側と西岸地区側で同じパレスチナ人が住んでいるとは言え、自治政府がほとんど何もできておらず、経済的・行政的にイスラエルに組み込まれているエルサレム側では、壁の向こう側とは違うロジックで物事が動いているようです。

今回のような一般市民による主体的な抗議の活動が、「アラブの春」ならぬパレスチナの冬に雪解けをもたらすのでしょうか。それは分かりませんが、JVCパレスチナ事業はこれまで通り、東エルサレムとガザ地区で、どんな状況下でも普通に生きていこうと奮闘しているパレスチナの人々を応援していきます。

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