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死んでいったアマルのこと

パレスチナ現地調整員 藤屋 リカ
2006年8月 3日 更新

レバノン、ガザ、イスラエル、一般市民の犠牲者は増える一方です。一体どこまで状況が悪化するのか見当がつきません。

先日、イギリス国営放送(BBC)で、レバノンでも腎臓病のため人工透析を必要とする患者が十分な治療が受けられず、生命の危機にさらされているとのレポートがありました。

ガザでも同じことが起きています。ハマスによる自治政府が発足し、イスラエルが代理徴収している関税や海外からの支援が凍結され、また物流検問所が封鎖され、医薬品ガ不足しました。ガザ市のシファ病院では、4月末の時点で人工透析に必要な薬が不足、十分な治療が受けられずに死亡した患者もいると報告されていました。
6月末に軍事侵攻が始まり、状況は悪化の一途です。現在、大手の国際NGOが薬を供給していますが、問題は薬だけではありません。断続的な停電で、病院では自家発電で電力供給していますが不安定で、電気はたびたび断絶されます。治療は中断されますし、充電機を備えていない医療器具は、故障してしまいます。友人の薬剤師から人工透析の機械も壊れていっていると聞きました。

2001年秋、イスラエル軍はベツレヘムに軍事侵攻、移動封鎖は厳しく各地で銃撃戦も起こりました。私は当時、ベツレヘムの難民キャンプで仕事をしていました。

侵攻の2日目、家庭訪問する予定だった患者アマルが仕事場にやってきました。重度の腎臓病で週に3回人工透析を受けなければ生きていけない状態でした。子どもが3人いるのですがアマルの調子が悪く、世話ができないので孤児院に入っていました。夫はかなり年上で体の片側に麻痺があります。アマルは容態が悪化、ベツレヘムの病院では手の施しようがなく、エルサレムの病院にすぐ行かなければならないので、UNRWA(国連パレスティナ難民救済機関)に医療費補助の手続きに行く途中、私たちを探しにきました。尿毒症の症状が出ていて命が危ない状況で、歩いて私たちのところまで来たのが信じられない程悪い状態でした。

UNRWAは軍事侵攻への緊急対応で診療所を午後5時まで開け、車を準備していますが、救急車の免許はないから患者は運べません。その日は今までにない厳しい封鎖です。救急車さえ移動できないことをみんな心配しています。アマルはだんだん息が苦しそうになるし、夫は一緒に行けないと泣き始めるし、一時みんなが絶望的になりました。

結局、エルサレムからイスラエル側の免許を持つ救急車を呼び、看護師で外国人の私が同行することになり、診療所の看護婦長の友人、スザンヌから白衣を借りました。いたるところで銃声がなっていて衝突で死者が出ていたので、そのときばかりは緊張しました。

UNRWAの医者から、検問所のイスラエル兵がアマルの状態が非常に悪いことがわかるように、紹介状も用意してもらいできる限りの準備をし、救急車でアマルを運びました。主要な道路は銃撃戦が激しく救急車も通れず、遠回りをして別の検問所から行きました。途中無事に2ヶ所の検問所を通過、簡単な質問を受けた程度で何とかなりました。病院に行く途中、何度かアマルの意識が遠くなり、名前を呼びながら何とか病院までたどり着きました。どんな状況になっても、受けられる筈の治療が受けられないで命が失われることは決して許されないと、関係者はできる限りのことをしました。

予断を許さない病状でしたが、アマルは10日後には退院できるところまで回復しました。 しかし、ベツレヘムの病院の人工透析センターは、第2次インティファーダが始まって移動封鎖が厳しくなったために急遽設置されたもので、対応できる患者数も限られ、医療器具、薬、スタッフの教育は十分でなはありませんでした。アマルは退院後、週に3回もエルサレムの病院に通うことなど、体力的にも経済的にも不可能でした。一旦は命を取り留めたものの、元々腎不全状態にあり、心臓も悪かったアマルの病状は、徐々に悪化していきました。3ヵ月後、アマルは3人の子どもを残して死にました。まだ30歳代でした。アマルの死は、親戚や近所の人々、私たち以外の誰にも知られることさえありませんでした。

軍事侵攻下、アマルの命のために関係者はできる限りのことをし、一時的に彼女は回復しました。しかし、長引く占領・紛争下での、移動封鎖、経済難等の様々な恒常的な構造としての問題の前で、私たちはあまりにも無力でした。

このような状況でなかったならば治療を受けて生きていけるはずの人々が、一体どれだけ、誰に知られることもなく、命を落としているのでしょうか。(8月3日)  


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