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カンボジアから見るプレアヴィヒア寺院周辺地域での衝突事件

CLEAN 環境教育担当 樋口 正康
2011年2月25日 更新

「資源」をめぐる争い

以前から世界遺産プレアヴィヒア寺院とその周辺地域でタイ・カンボジア両国軍の小競り合いが問題になっていたが、とうとう死者をだしてしまう事件へと「再燃」してしまった。そもそもプレアヴィヒア寺院とその周辺地域は、これまで何度も両国の争いの火種となってきた。歴史上、何百年にもわたってタイとカンボジアが領土を巡る争いはあったが、カンボジア内戦以降では、最も両国の関係は緊張の度合いを増している。今回の事件は、カンボジア政府がUNESCOに対して行っていたプレアヴィヒア寺院の世界遺産登録申請が、2008年に認められたことに起因している。

世界遺産プレアヴィヒア寺院世界遺産プレアヴィヒア寺院

世界遺産を自国に領することで、観光による地域振興を期待することができ、国としても経済的利益をもたらされる。こうしたことから争いの火花は耐えない。今回は、世界遺産という一つの「資源」を争うものであるが、資源の争奪戦は世界各地で起こっている。インドシナは長く続いた紛争から脱却し、平和と繁栄の時代に入ったと思われたが、人々が経済的な豊かさを求めることで、新たな「紛争」が生じているのだ。

現地の人々の視点

現地のカンボジア人の国境紛争に対する捉え方は人によって様々であるようだが、冷静にこの争いを見ている人が多い。私が知り合いのカンボジア人はこの問題について、「タイ政府がやっていることは領土侵略であって、カンボジアは正当防衛をしているにすぎない」と言っていた。また、別の知人は、「タイ政府は、プレアヴィヒア寺院とその周辺地域の領土を手に入れるために、様々な手段を講じているのではないか」と話していた。いずれにせよ、タイ政府の側が何らかの意図を持って問題を起しているのではないか、という見方である。

カンボジア軍兵士と寺院カンボジア軍兵士と寺院

また、この争いの火種として、タイ政府がプレアヴィヒア寺院はタイに帰属するという教育を行っているため、タイ人の多くがプレアヴィヒア寺院はタイのものであると考えているのではないか、と指摘するカンボジア人も多い。事実はどうであるか分からないが、今回のような問題が生じたことで、カンボジア人もタイ人もプレアヴィヒア寺院は自分たちのものであるという意識を強くしたことであろう。そして、そのことによってこの問題が世代を超えて、続いていくことを多くのカンボジア人が危惧している。

世論の動向と政府の対応

そうした意見がある一方で、今回の問題については、マスコミなどがタイ政府の国内問題に起因すると分析している。それによれば、タイ政府は国内の問題と現政権に対する不満を、プレアヴィヒアの問題を挙げることによって、国民の不満を逸らそうとしているのではないか、ということである。

「カンボジア人として生まれたことを誇りに思う」と書かれている。「カンボジア人として生まれたことを誇りに思う」と書かれている。

また、今回の問題について、カンボジアのフンセン首相が国連に仲裁を依頼した背景を、カンボジア人はよく理解しているようである。それは、即ち、タイとカンボジアの経済力および軍事力の差があまりにも大きいことである。タイ政府はあくまでも二国間による問題解決を主張しているが、カンボジア政府からすれば、対等な議論を行うことが難しい。そこで、国際社会と世論を味方につけて、交渉を進めたいのが実情である。実際のところ、1962年の国際司法裁判所の裁定では、プレアヴィヒア寺院をカンボジア領とする判決が下っており、問題を国際化することで事態がカンボジアに有利にはたらく可能性が高い。

誰が、何のために争うのか?

JVCのカンボジア人スタッフの一人が「今回の争いは、私たち一般市民の争いではないように思う。政治家同士の争いであり、タイおよびカンボジアの首相の争いであるのでは」と言っていたことが印象に残る。過去にも何度か両国の間で交渉は行われており、国際社会がこの問題を認識している以上、プレアヴィヒア寺院と周辺地域を巡る争いがこれ以上大きくなることはないと楽観的に考えることもできるが、多くのカンボジア市民は、一刻も早い問題解決を望んでおり、あくまでも平和的な交渉でこの事件が収まることを願っている。

軍服を着た子どもたちの姿も軍服を着た子どもたちの姿も

また、タイとカンボジアが争うことで、どんなメリットがあるのかということも疑問である。タイ製品をカンボジア人が買わなくなれば、ベトナムや中国の製品がカンボジアに入ってくるため、ベトナムや中国の企業が利益を上げるということは考えられるかもしれないが、それによってカンボジア人に利益があるわけではない。しかも、世界遺産に登録されるような貴重な遺跡が、今回の紛争によって銃弾を受け損傷してしまったことは、カンボジア人のみならず、世界の人びとにとっても歴史的な損害であったといえる。

現地からの印象

JVCの活動地であるシェムリアップの農村では、両軍衝突による日常生活の変化を感じることはない。テレビで戦車などの様子が映し出され、首相のスピーチなどを通して、ニュースを真剣に見入るカンボジア人の姿は印象的だが、話題の中心は、むしろ中東情勢の方である。また、今回の問題が発生してから、タイへ行く飛行機に何らかの影響があるかどうかを心配していたが何の変更もなく、そのほかの日常生活でもその影響を感じない。本当に紛争が起きているのだろうか?と疑いたくなるぐらい、現地は平静さを保っている。

しかしその一方で、本当に問題に直面しているのはプレアヴィヒア寺院近隣に住む住民である。先日のニュースでは、遺跡の近隣にある村が被害を受け、牛、トラクターなどの家財を持ち出して、避難する人々、避難所で生活する人々の様子がテレビで放映されていた。結果的に、最も被害を受けているのは地域の住民であって、机の上で策を講じている政治家達ではない。政治的な利益ではなく、人びとの平穏な暮らしを取り戻すことを最優先に、一刻も早い平和的解決を望むばかりである。

写真提供:貝塚 乃梨子(上智大学大学院/元JVCインターン)2010年9月撮影


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