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2016年10月31日

"Breaking the Silence"のヘブロン・ツアーに参加して

パレスチナ現地調整員 並木 麻衣
2016年10月31日 更新

こんにちは、エルサレムに駐在中の並木です。  先日、週末のお休みを利用して、パレスチナ自治区・西岸の第二の都市、ヘブロンへのツアーに参加してきました。ツアーを主催していたのは、イスラエルのNGO「Breaking the Silence」(以下、BTS)。2000年から始まった第二次インティファーダ以降に立ち上げられた、イスラエルの兵役経験者の団体です。日本でも、パレスチナに向き合い続けているジャーナリストの土井敏邦さんが本やドキュメンタリー映画を出されていることもあり、ご存知の方も多いかもしれません。

私が参加したツアーは、朝の8:30に西エルサレムの中央バスステーション前から始まりました。大きな観光バス1台が、外国人やイスラエル人の参加者で満員。バスが発車すると、ガイドのイェフダー・シャウルさんがマイクを持って運転席の横に立ち、団体とツアー概要の紹介を始めました。
 33歳だという彼は、西岸・ラーマッラーの近くにある入植地出身のイスラエル人。2001年から2004年にかけて兵役を経験し、14ヶ月の間はヘブロンにいたそうです。BTSの立ち上げメンバーでもある彼が、どのようにしてこの活動を始めるに至ったか......。彼の言葉一つひとつが重みを持っていて、参加者たちはツアーの始まりから、隣同士のささやき合いも聞こえないほど沈黙していました。

 「兵役に就くということは、『考える余地がない』ということ。命令は絶対だし、第一に考えるのは、命を預け合う仲間のことだ。『何故だろう』という疑問を挟んではいけない」
 「でも、兵役を終えて大学に通い始めた時に、自分はようやく市民としての暮らしを考え始めたんだ。それはまるで、箱から出たみたいだった。それから、兵役時代の仲間と話し始めたよ。そうしたら、皆が同じことを思っていたんだ。『何かがおかしかった』ってね」

 イスラエルには、全てのユダヤ人と一部の少数派市民に対する徴兵制があります。その期間は、男性は3年ほど、女性は2年。軍の中には様々な部門があるため、それぞれにおける業務も多岐にわたります。私自身の周りでも、医療部門でずっと事務作業に従事していたという人から、通信を担当してアラビア語を学んだという人、パレスチナ側のフィールドで実際の作戦に従事したという人まで、様々な経験を持つ友人・知人がいます。
 イェフダーさんの場合は、ほぼ全ての期間にわたって、パレスチナ自治区内での作戦実施を担当していました。その期間は、2000年秋に始まった第二次インティファーダと重なっています。
 双方の衝突が激化した頃にちょうどヘブロンにいたという彼の口からは、ツアー中にも、リアルな当時の戦闘の様子が語られました。ヘブロン旧市街横に位置する、シュハダー通りを歩いていた時のことです。パレスチナ人には通行が禁止され、ゴーストタウン化している通りで立ち止まった彼は、アブー・スネイナというパレスチナ人の街を指差して、こう言いました。

ゴーストタウンになった通りの様子ゴーストタウンになった通りの様子

「インティファーダ中は、パレスチナ人による銃撃が日常茶飯事だった。6時になると暗くなり、彼らスナイパーがアブー・スネイナから撃ってくる。でも、どこから撃っているのかは分からない。こちらとしては、高いところを占拠して隠れ、音のする方角に向かって撃ち返すしかない。場所を確保するために、高所にある学校やパレスチナ人の家へ、何度か押し入ったよ」

 

彼らが放った銃弾は、いったい誰に当たったのでしょうか。おそらく、パレスチナ人の「スナイパー」に返ったことは稀で、彼らもそれを十分に分かっていたのでしょう。「イスラエル軍のプレゼンスを示せ」という指令のもと、夜中にランダムに選んだ家へと押し入って家宅捜索をし、屋根から屋根へと大きな音を立てながら移動することも、彼の日々の業務の一部だったそうです。
 黙って聞いていた参加者の一人が、兵士が自分の倫理観でそれを止めることはできないのか、と聞きました。彼の答えは、こうでした。

 

「兵士は結局、指令を守ることしかできない。問題は、軍隊じゃないんだ。政治部門の意志に問題がある。彼らが指令を出すのだから」
 「だからこそ、市民社会に訴えかけなければならないんだと思う。18歳を、モラルの無いところにぶち込んではいけない。彼らのモラルを縛って使えなくするような場所に、入れてはいけないんだ。俺たちは、自分たちからわざわざ『悪い人間』にならなくてもいいだろう? 普通に暮らせれば、それでいい。そう思わないか?」

 

BTSによれば、たった800人程度のイスラエル人入植者たちをパレスチナ人から守るため、これまでに7,000人以上の兵士がヘブロンへ派遣されてきたといいます。ヘブロンのイスラエル人入植者たちは、イスラエル社会の中でも特異な存在です。世俗的なイスラエル人が「彼らは過激で暴力的で、共感はできない」と言うのを、私自身も耳にしたことがあります。そんなイスラエル社会に対しても、イェフダーさんは疑問を呈していました。

 

「言葉だけじゃ、何も変わらないんだ。行動を起こさなければいけない。文句や批判だけを口にする市民たちは、結局のところ、ヘブロンの入植地の存在を許し続けているんだから」

 

入植地がある限り、誰かがヘブロンへ派遣され、モラルに反する活動に従事しなければならないという事実。当事者であったイェフダーさんの言葉からは、その状況を維持している政治や社会に対する憤りが感じられました。そして、彼の意見は、イスラエルがパレスチナに対して課している占領政策そのものにも向けられています。

 「占領が終わらなければ、イスラエル社会に蔓延する恐怖にも終わりが来ない。いま、エルサレムではパレスチナ人による襲撃事件が続いていて、それを『インティファーダの再来』と呼ぶ人たちもいる。でも、自分にとってはそれがインティファーダだろうが何だろうが、どうだっていい。占領が続く限りは、20回でも新たなインティファーダが起こるだろうから」

 パレスチナ問題の当事者として、イスラエル社会のあり方を問い続け、行動を起こしているBTSのメンバーたち。彼らと歩くヘブロンは、パレスチナ人と一緒に歩き回るヘブロンの姿とは全く異なりつつも、パレスチナ問題に触れ続けてきた私に対して、沢山の気付きと問いを投げかけていました。
 もしパレスチナへいらっしゃる方がいれば、ぜひ一度BTSのツアーにも参加してみることをお勧めします。私が参加した回の参加費は120シェケルで、半日で終わるツアーでした。申込は、BTSのウェブサイトから簡単に済ませることができます。また、土井敏邦さんによるドキュメンタリー映画「沈黙を破る」でも、彼らの活動を知ることができます。
 JVCのパレスチナ事業でも、イスラエルのNGOを通じた市民社会への働きかけが、今後は重要な活動になると考えています。ウェブ上でも、「パレスチナを支援するイスラエルのNGO」の記事で、各NGOによる取り組みを紹介しています。こちらも是非、読んでいただけたら幸いです。

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