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「コロナ差別」をパレスチナの思い出にしたくない【前編】

とある日本人留学生の願い
JVCエルサレム事務所
2020年4月10日 更新

こんにちは。現地でも新型コロナウイルス(COVID-19)の蔓延でほとんどの時間を事務所もしくは家で過ごさねばならなくなっているエルサレムから、現地の日本人の声をお届けします。外出は買い物・仕事のみに制限され、その他の外出は1日10分まで、といった厳しい制約があります。また、現在は壁の向こうのパレスチナ自治区では外出禁止令が出ており、隣国ヨルダンでも外出禁止令が出されています。事態は日を追うごとに深刻になっていますが、その中でここでもアジア人差別についていろいろなことを考えさせられています。

下記は、現地事務所で1月からインターンとして活動してくれている中村さんが執筆したものになります。前編・後編に分けてお伝えします。

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JVCエルサレム現地事務所インターンの中村です。

普段日本のテレビに「パレスチナ」という言葉が登場することは、あまり多くはないと思います。報道番組の国外ニュース枠や、ましてやバラエティー番組でパレスチナが取り上げられたことを、私もほとんど見たことがありません。しかしここ最近、パレスチナの名前が日本の皆さんの耳にも入るニュースがふたつありました。ひとつは米国のトランプ政権が新たな中東和平案を発表したこと、そしてもうひとつは、パレスチナで日本人女性が暴行を受けた事件のことです。

特に2つ目の暴行事件の報道では、政治的で難しそうな新中東和平案のニュースと比べ、自分と同じ日本人が遠い中東の地で差別を受け、危ない目に遭ったということが、より多くの人にショックを与えたことと思います。

まだ新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックと言えるほどの流行が東アジアだけに留まっていたころ、現地の私たちにとっては、「コロナ騒動」に乗じたアジア人差別の方が新型コロナウイルスそのものよりもよほど深刻な悩みの種でした。実際にはニュースで報道された「暴行」のように悪意を持って危害を加えられるケースはごくわずかで、ほとんどの場合は道を歩く私たちをからかうように「コロナ!」と呼んだり、時にはスマホを向けて写真を撮ったり、というようなものです。物理的な攻撃ではないとはいえ、毎日そのような状況の下に晒されて、パレスチナで働く日本人を含めアジアの人々は、少しずつ、しかし確実に心に傷を負い、悩まされていました。

実は、パレスチナの街でアジア人がこんな目に遭うことになるとは、コロナ騒動の前には想像もしていませんでした。

外出制限を受けてイスラエル側のスーパーマーケットにも人々が駆け込んでいます外出制限を受けてイスラエル側のスーパーマーケットにも人々が駆け込んでいます

私は2019年の9月にイスラエルのヘブライ大学で留学を開始し、1月からJVCエルサレム事務所の活動にインターンとして参加させていただいています。日本の大学ではアラビア語とポストコロニアル理論を専攻し、ホロコーストや在日の人々などについても勉強しながら、主にパレスチナの歴史と現状を学んできました。

しかし9月から実際にイスラエルとパレスチナで暮らしてみて、やはり日本で勉強しているだけではなかなかわからないことがあるのだと思わされるような、新鮮な発見が多くありました。パレスチナが思っていた以上に発展していて、西岸地区の中でも都市によってそれぞれの特徴があること、スリや置き引きが本当に少なく、驚くほど治安が良いこと、ムスリム(イスラム教徒)だけでなく多くのパレスチナ人キリスト教徒や様々な文化がパレスチナを構成していること。

特にパレスチナの印象の大部分をつくったのが、よそ者の私に対するパレスチナの人々の歓待ぶりでした。欧米では知らない人同士でもすれ違いざまにニコッと笑顔を交わしたりしますが、パレスチナはその比ではありません。道を歩いているだけで、すれ違う人から、反対側の歩道を歩く人から、通り沿いの店の中から、「Welcome !(ようこそ!)」と声をかけられるのです。時にはわざわざ走っている車を止めて窓を開け、歩道の僕に向かって両手を広げて「Welcome to Palestine!(ようこそパレスチナへ!)」と叫んでくれる人もいました。その後ろでクラクションを鳴らす車たちも、僕のところまで来ると満面の笑みで手を振ってくれたりします。街で道を尋ねればその辺の人たちまで呼んでみんなで案内してくれるし、レストランに入れば店員さんが、英語ができないことを謝りながら全力でもてなしてくれます。モスクの前で遊んでいる子供たちに混ぜてもらって、一緒にサッカーをしたこともありました。

パレスチナに来て最初の4ヵ月を過ごしたヘブライ大学では、イスラエルとアラブ諸国の紛争の歴史と、イスラエルの社会問題を主に学びました。ヘブライ大学は中東一とも言われる名門大学ですが同時にユダヤ学の研究の盛んな大学でもあり、留学生コースにもユダヤ系アメリカ人やメシアニッククリスチャン(シオニズム(※1)にシンパシーを持つキリスト教の一派)の学生が多くいます。そういった人たちとともに学び、生活する中で、彼らの中に聖書時代からのユダヤの物語やイスラエル建国の意義がどう認識されているのか、そして実際の占領や入植地について彼らがどう考えているのかなど、ユダヤ側の視点と彼らの内部での多様性について知ることができました。 ヘブライ大学の他のコースには、パレスチナ人やアラブのイスラエル市民の学生も学んでいて、彼女達から聞くパレスチナの教育と学生たちの実態からはイスラエルの学生との大きな大きな壁を目の当たりにすることになりました。パレスチナの文学やイスラムの精神の話をすることも多く、不意に聞かれた「信じる神からの教えでないのなら、あなたのその優しさはどこから来るの?」という問いに深く考え込んでしまったことは、今でも強く印象に残っています。

1月にJVCの活動に参加してからは、そんなパレスチナの問題含みの現実も少しずつ見えてきました。アラブ特有の部族社会に縛られる若者たち、男性優位社会で抑圧される女性たち、占領と戦いながらも占領に依存せざるを得ないパレスチナの労働者たち、等々...。日本の大学では主に、占領によって危機に瀕するパレスチナの伝統的社会的価値や、占領に屈しないための心の拠り所となる宗教的価値の美しさをパレスチナの文学を通して学んでいました。そんな私にとって、パレスチナのために積極的に活動する人々の多くがそのような伝統的価値観から一歩抜け出た人間であることは大きなショックで、数々の気づきをもたらしてくれました。

そしてそんな中で、JVCの活動を通してJVCや他のNGO、地域の中での取り組みに触れ、イスラエルによる占領そのものには中々影響を与えられないものの、地域の学校生徒達や女性たち、そして大人たちも巻き込んだ良いサイクルが少しずつ構築されていくのを間近で見ることができました。未だに社会のしがらみは大きく、またイスラエル側によって理不尽に翻弄されることもありますが、それでもパレスチナ社会が占領に抵抗できるレジリエンス(※2)を育んでいく様子や、少しずつ、少しずつですが良い方向に変わっていく子供たちや地域を見て、この果てしない占領の中でも希望を失わず、パレスチナのために活動を続けていこうと思えたのです。

11月末、クリスマスシーズンの準備が進む西岸地区ラマッラーの街中11月末、クリスマスシーズンの準備が進む西岸地区ラマッラーの街中

そんなときの、「コロナ」でした。

それまであんなに私たちを歓迎してくれていた、大好きなパレスチナの人々が、突然私たちを含むアジア人を腫れ物のように扱い、見るたびに「コロナ」と口に出し、時には大声で投げつけてくるのです。もちろん、もとから私たちのことを知っている知り合いのパレスチナ人たちはそんなことはせず、私たちを気遣ってくれたり他のパレスチナ人に怒ってくれたりする人もたくさんいました。それでも、今まで大好きだったパレスチナの街がもはや歩くだけで辛い思いをする場所になってしまったことは、やはりショックでした。

私が9月に初めてこの地に降り立ってからこれまでの、パレスチナの街と人の活気と暖かさ、ヘブライ大学での豊かで楽しかった留学生活とたくさんの学び、そしてJVCでの活動で目にしたこと、考えたこと、そのすべての経験と思い出が、悲しい出来事に上書きされてしまった、と思いました。

そして、あの事件。西岸地区の都市ラマッラーでNGO職員である日本人女性二人がパレスチナ人親子に「コロナ」と言われながら後ろを追われ、日本人女性の一人が防衛のためスマホをかざして「撮影しているフリ」をすると、逆上したパレスチナ人母親にスマホを持つ手を払われ、頭や服を引っ張られるなどの暴行を受けた、というものでした。海外での日本人が関わった刑事事件ということで、日本のテレビやニュースサイトでも報道されました。ご覧になった方もいらっしゃると思います。

パレスチナの人々のために事業を行っている者として、またパレスチナと中東文化を愛する一学生として、パレスチナのことなど滅多に報道されない日本でこのようなニュース「だけ」が知られてしまうことで、日本の人々がパレスチナ及びパレスチナ人に対して良くないイメージを抱いてしまうのではないか、と現地の私たちは危惧しました。今起こっているような事態は「コロナ騒動」の後に一時的に発生しているもので、普段からパレスチナがアジア人差別に溢れた地域であるわけではないこと、また、今の状況の中でも私たち日本人に寄り添い、一緒に怒ってくれるパレスチナの人がいることを、日本の人々に伝えなければいけないと思ったのです。

当の事件に関しても、証拠となった映像をその防犯カメラのあったカフェのパレスチナ人店主が警察に届け出て事件化したものであり、後には加害女性だけでなくラマッラー知事や警察署長までが被害者の日本人女性二人に直接謝罪しています。「日本人が暴行に遭った」という事実だけでなく、これらの背景やパレスチナの本当の姿も日本の人々に知ってもらい、ついてしまった悪いイメージをどうか払拭したいという思いで、私も日本の人々に向けて少しばかり発信をしました。

次回へ続く

※1:パレスチナにユダヤ人国家を建設しようとする運動。

※2:「復元力、回復力、弾力性」などと訳され、困難な状況にも関わらず、しなやかに適応して生き延びる力という意味で使われることが多い。

(執筆:中村俊也(現地事務所インターン)、編集:山村順子)

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