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【スーダン】ポートスーダンへのドローン攻撃とその影響

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ポートスーダンでは、2025年5月4日より連日、即応支援部隊(RSF)によるポートスーダンへのドローン攻撃が約2週間毎日続きました。ターゲットとなったのはスーダン国軍基地や燃料施設、空港、港、発電所などの重要インフラ施設です。

国軍は今年1月にはジャジーラ州都マダニ、3月には首都ハルツームといった要所をRSFから解放し、戦局の変化がありました。

しかし4月に入ると、スーダン各地の発電所、変電所、ダムがRSFによるドローン攻撃のターゲットとなり、幅広い地区で停電をもたらすなど、一部都市機能に混乱を引き起こしていました。

ポートスーダンとはどのような街か

2023年4月に勃発した戦闘では首都ハルツームが主戦場となったことから、紅海に面したポートスーダンに実質首都機能が移り、省庁、企業、支援団体、軍も拠点を構えています。現状、国際商業便が運行する唯一の空港と港を有し、国の玄関口としての役割も果たしています。

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紅海に面したポートスーダン

同時に、ハルツームなど戦闘地域から安全を求めて20万人以上の国内避難民も受け入れているといわれていますが、実数はもっと多いのではないかと感じます。リキシャの運転手、市場で働く商人、レストランのウェイター、パン屋で働く人など街で出会う人たちの半分以上が避難民という感覚があります。

国内一の港町でありながら、多くの人々を受け入れるインフラや住環境を兼ね備えていなかったため、紛争以降は様々なアパートやホテルが増築・建設され、レストランや商店が続々と開店していました。夏場は40℃を超える高温多湿の大変厳しい気候でありながら、国内では戦闘地域から最も遠い場所であり、数少ない「安全な場所」として認識されていました

ポートスーダンの日常(2023~2024年撮影)

RSFによるドローン攻撃と影響

しかし、RSFによるドローン攻撃はそれを覆しました。

5月4日早朝、軍基地や空港、港などがドローンにより攻撃されました。5日、6日には連続して燃料施設が攻撃され、燃料タンクの火災が発生しました。その火は1週間消えることなく、黒煙がポートスーダンの空にずっと漂っていました。

現在では対ドローン兵器によりほとんどのドローンが撃墜され、大きな被害は出していませんが、対ドローン兵器の音が連日鳴り響いていました。

同様のドローン攻撃は、ポートスーダン以外でも同時多発的に発生し、北コルドファン州の刑務所では囚人20人以上が犠牲になり、首都ハルツーム近郊の発電所、白ナイル州コスティの燃料施設などもドローンを防げず、大きな被害を受けました。

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一週間以上経っても燃料施設からの黒煙は消えなかった

計画的でない停電は、高温多湿なポートスーダンでは肉体的・精神的にダメージをもたらします

モーターが動かないため屋上の貯水タンクに水を汲み上げられず、水を外部から購入しないといけなくなり、家計を圧迫します。鶏肉など冷凍保存が必要な商品が店頭から消えます。発電機を所有している飲食店はコストが嵩み、それを賄うために商品の値段を上げるしかありません。

さらに、夜7時からドローン攻撃が始まるため、稼ぎ時に店を閉めないといけません。リスクを恐れ航空会社や海運会社はポートスーダン発着便を運休し、運航する会社があっても保険料の値上がりのため運賃が跳ね上がります。

ポートスーダンでは死傷者こそ公式には発表されていませんが、燃料供給の停滞により、住民の生活に大きな影響を与えました。地上戦では国軍が進軍を続けているものの、高性能のドローンの登場により、最早スーダンには安全な所はなくなったともいえます

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スーパーに置いてあるアイスクリームも溶けてしまっている

市民に広がる不安

ドローン攻撃は夜間に発生し、昼間は何もなかったかのように日常生活が継続しています。子どもたちは学校に行き、市場や商店も営業しています。

しかしこの混乱下、避難する人々が急増しているのも事実です

私の知り合いだけでも複数の人々が既にポートスーダンを離れ、中にはエジプトへ陸路で密入国した人もいます。ピックアップカーの荷台に乗り、振り落とされないように紐で体をくくりつけ、砂まみれになりながら砂漠を駆け抜け、国境付近ではエジプトの警察か盗賊からなのか銃声が聞こえてきたが、なんとかエジプト南部アスワンに辿り着くことができたそうです。

正規にビザを取得するには莫大な金額がかかるため、こうした生と死が隣り合わせの選択を取る人は後を絶ちません。一体、彼らは何回避難しないといけないのでしょうか。そして留まる人の中にも葛藤や不満が渦巻いています。

「一体あいつらの目的は何なんだ?軍事拠点だけをターゲットにするのならまだ理解できる。だけどこれは武器を持っていない市民への攻撃だ」

「本来スーダン人は平和的だが、それでもこれは許せない。私たちの尊厳にかけて闘う」

「国際司法裁判所(ICJ)がアラブ首長国連邦(UAE)に対するスーダンからの訴訟を却下したことには失望した。国際的なプレッシャーが足りないし、皆が知らないふりをしている」

UAE(アラブ首長国連邦)との緊張

ドローン攻撃から間もなく、スーダン政府は「UAEがRSFを支援している」と非難し外交関係の断絶を宣言しました。

これまで幾度も、スーダン政府はUAERSFへ武器支援しているとして批判を続けており、今回のポートスーダンへの攻撃で両国の関係はさらに悪化しました。

UAEのスーダン大使館の閉鎖を発表すると、政府の反応に追随するかのように、スーダンの民間企業や大学がUAEにある拠点を閉鎖する動きも見られます。

UAEは戦闘への関与を一貫して否定していますが、5月上旬に発表されたアムネスティ・インターナショナルの報告によると、RSFが首都ハルツームやダルフール地方で中国製の高性能榴弾砲を使用したこと、この武器を輸入したのは全世界でUAEだけであることが示されています。これは明らかに国連による武器禁輸措置に違反しています。アメリカは5月下旬に「化学兵器を使用した」として、スーダンに対する追加制裁を発表しました。

しかし、同時にUAEに対する総額14億ドルを超える武器売却契約が進行中です。疑惑の渦中にある国と、自国の利益のために武器売買することによって、命を奪われ、生活が破壊されるのは、脆弱な立場にいる一般市民です。

国際社会の一員として、国家の指導者たちには国際法の遵守が求められ、市民にはその行動を注意深く監視する責任があります

これはスーダンのことだけでなく、世界中で起こっている紛争にも遍くあてはまることです。私たちは決して無関係ではありません。

参考記事

・BBC “No water, no power - Port Sudan reeling after week of attacks” 2025年5月10日
https://www.bbc.com/news/articles/c6293qgd46zo

・The guardian “Sudan fails in attempt to make UAE accountable for acts of genocide” 2025年5月5日
https://www.theguardian.com/law/2025/may/05/sudan-fails-in-attempt-to-make-uae-accountable-for-acts-of-genocide

・Amnesty International “Sudan: Advanced Chinese weaponry provided by UAE identified in breach of arms embargo – new investigation” 2025年5月8日
https://www.amnesty.org/en/latest/news/2025/05/sudan-advanced-chinese-weaponry-provided-by-uae-identified-in-breach-of-arms-embargo-new-investigation/

執筆者プロフィール

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今中航

京都府出身。大学でアラビア語を専攻し、在学中にイエメンに留学。留学中に「アラブの春」と総称される民主化運動が始まり、ライフラインが脆弱化し、国が混乱に陥っていく様を目の当たりにする。卒業後は途上国・新興国の根幹を支えられるようなインフラ支援に携わりたいとの思いで、メーカーにて発電プラント事業を担当。退職後、現地の人々により近い距離で可能性が広がることに尽力したいという思いが大きくなり、2018年JVCに入職し、以降スーダンに駐在。イエメン事業立上げに参画し、2022年よりイエメン事業担当も務める。

●スタッフインタビュー「JVCの中の人を知ろう!~今中航さん編~」

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