カヨタさんの家では複合農業に取り組んでいます。複合農業とは、基本的に家畜に飼育と作物の栽培を同時に行う農業の意味で、生きものも扱うので農薬は使えません。カヨタさんの家は、池の上に立っていて、軒下にはアヒルが棲んでいます。アヒルたちは放し飼いにしているので、朝は鶏の声ではなく布団の真下の軒下から響くアヒルの声で目覚めることもありました。
このアヒルは、食用であり、複合農業の一部分です。アヒルが田んぼに勝手に入って虫や雑草をついばみ除虫・除草をしてくれるだけでなく、田んぼや池に落ちた糞は肥料となります。タイではアヒルの肉は鶏肉より高価で、アヒルを飼育することは収入源にもなります。
お祝いなどがあると、このアヒルのお肉は食卓に並びます。鶏肉よりもやや歯ごたえがあり、食べ応えのある美味しいお肉です。しかし、飼育数全部でも20羽に満たないので、一ヶ月に一度くらいしか食卓に並びません。
ですが、一時期アヒルのヒナが16羽まで増えたことがありました。かわいい!そして食べる機会が増える!と毎日成長が楽しみだったのですが、見る見るうちに数が減って行き、生まれてから2ヶ月くらい経った時にはたったの3羽になっていました(よそから入ってきた犬に食べられた)。
生きものは本来なかなか数が増えることができないのが普通なのかな、と家畜ながらも厳しい世界に生きるアヒルたちに考えさせられました(面倒の見方が悪いのかもしれませんが)。
豚肉や牛肉は基本的に市場で買わないとありません。普段の食卓には、魚やカエルを使った料理や、山菜のスープなどが食卓には多く並びます。コオロギや蚕の幼虫など昆虫食もおつまみにします。
「これがイサーン(東北タイ)だ!」と胸を張る人もいれば、「これが貧しいチャーオナー(農民)の飯だよ」と冗談で言う人もいます。
ここでこうやって村の一員として暮らさなければ、私はこのような食文化を「貧しさ」と認識していたと思います。
でも、暮らしのすぐそばから手に入る食卓はいつでも新鮮で、どこから調達したのかも分かります。それこそ安心で美味しい、理想の食事ではないでしょうか。特にイサーン料理はほとんど油を使わない為さっぱりしていて、基本的に冷めても美味しいです。
むしろ、食べたいものが何でも食べたいときに手に入る方が奇妙だと感じるようになりました。子どもの時には、いつでも「我慢しなさい!」と教えられた気がしますか、いつでも何でも手に入る便利な暮らしは「我慢しなくていいのよ!」と言わんばかりに感じます。豊かになること、便利になることを履き違えたまま「開発」を考えては、なんだか意味が無い気がしました。