2014年8月の記事一覧

3本目の井戸をめぐる、村のもめごと。いったい、何が起きたのでしょうか?
JVCスタッフのタイーブが後から聞いたところ、次のようなものでした。話は1年半前にさかのぼります。
その井戸の周辺は、トマ集落の中でも牧畜民の人たちが多く住んでいる場所です。何十頭、或いはそれ以上の家畜を所有しています。井戸管理委員会のメンバーであるハミスさんも、そんな一人でした。
井戸の周りには、クレーターのような形の家畜の水飲み場がたくさん作られ、牧畜民の人たちは井戸で汲み出した水をバケツでそこに注ぎ込んで、家畜に飲ませていました。ハミスさんは、いっそのこと井戸の手押しポンプを取り外し、電動ポンプをつけてホースで直接に水を引くことを考えたようです。そうすれば井戸は家畜専用になってしまいますが、実際にそのような井戸は牧畜民が多い地域に行けば珍しくないのです。そして、電動汲み上げの井戸にした場合、そこで給水する牧畜民は利用料金を支払うことが通例です。
ハミスさんは、井戸管理委員会やシエハ(住民リーダー)に説明し、カドグリの町まで出向いて水公社(日本でいう水道局)の承認まで取り付けた上で、自分で電動ポンプを購入して取り付けました。ポンプを動かすディーゼル燃料も自己負担です。ハミスさんは自分の家畜に水を飲ませ、そして、牧畜民から利用料金を集めるようになりました。
JVCスタッフが到着すると、既に工具を手にした村の男たちが待ち構えていました。
巨大なスパナのようなその工具は、地中に延びた井戸のパイプを引き揚げるための道具です。これから、村人による井戸の点検・補修が始まるのです。
「みなさん、おはようございます。JVCスタッフのタイーブといいます。こちらは、水公社(水公社:Water Corporationは、スーダン政府の給水事業体。日本でいう水道局にあたる)から来てくれた技師のアルヌールさんです。きょう一日、皆さんの作業を見ながらアドバイスをしてくれます。分からないことがあったら何でも聞いてください」
タイーブが紹介したアルヌール技師は、普段は新しい井戸の建設に従事しています。今日は忙しい合間を縫って、村人を手助けするために来てくれました。
「よし、さっそく始めようか」
工具を手にした村人が声を掛けると、十人以上が立ち上がって目の前の井戸に取り掛かりました。
私たちはこの半年間、避難民や地域住民が作る菜園に灌漑用水を供給し、同時に生活用水としても利用するため、5つの集落で計10本の手押しポンプ付き井戸を補修してきました。今回の「現地便り」では、そのうちのひとつ、ムルタ・ナザヒン地区のトマ集落で6月に行った補修の様子をご紹介します。
トマは、カドグリ市街から北に20キロ、カドグリ空港の滑走路の奥にある集落です。空港といっても、民間定期便はありません。軍用機と国連機だけが離着陸する空港です。