2013年10月の記事一覧
訪問団が州政府庁舎の会議室で待っていると、やがてアダム・アル=ファキ州知事が入ってきました。今年7月に就任した、がっしりとした体躯の新知事です。挨拶を済ませると、知事はこう切り出しました。
「私の仕事は、南コルドファン州に『平和』をもたらすことだ」
そして、
「そのためには、まず人々がお互いを信頼し合うことが大切。私は、政治犯として収監されていた人々を釈放した。州内に政治犯を入れる監獄はもはやない。誰もが安心して暮らせるはずだ」
と続けました。
「政治犯」とは、反政府勢力のメンバー、或いはそれに加担したと見なされてこの2年間に拘禁された人々です。実際に「メンバー」だったのか、「加担した」のか、根拠に乏しいと言われてきました。
知事はさらに、
「平和のためには開発が重要だ。学校も、診療所も、井戸も不足している。だから今後は、たくさんの国際NGOに南コルドファン州で活動をしてもらいたい」
これが、知事が私たちに言いたかったことのようです。そして、今回の訪問を許可した目的でしょう。
政治囚の釈放は、これまで多くの家族が待ち望んでいたことです。そして、これまでのような「政治犯」への弾圧が止まるのであれば、多くの人が安心して暮らせることも確かでしょう。
しかし、肝心の紛争そのものはどうなるのでしょうか。当事者である政府と反政府軍との和平が成立して紛争が終わらない限り、この地域に本当の意味での「平和」は訪れません。それについては、知事からは何の話もありませんでした。

州政府庁舎を後にした訪問団は、郊外のティロ地区へと向かいました。この「現地便り」でもお馴染みの、避難民向け住居を視察するためです。
ソルガム畑を抜けて目的地に到着すると、大きな天幕が張られて歓迎式の準備が整っていました。出迎えなのか見物なのか、子どもから大人まで鈴なりの群集です。
この避難民向け住居は、国連難民高等弁務官事務所と州政府が中心になり、国連機関とNGOが協力して建設、入居者の選定などを行ってきました。JVCは生計支援として種子を配布、そして現在は給水施設の建設を準備しています。
国連機の翼の下に、緑の大地がぐんぐん近づいてきます。
乾燥したハルツーム周辺の上空からは決して見ることのできない、雨をいっぱいに吸い込んだ一面の緑。その中に散りばめられた小さな沼や池が、雲間から差し込む太陽にキラキラと輝いています。
南コルドファンに、戻ってきました。
2011年6月に市街戦の中を退避してから2年3ヶ月、私にとってやっと巡ってきたチャンスです。紛争が始まって以来、NGOの外国人職員が南コルドファン州に足を踏み入れることを頑なに拒んでいたスーダン政府が態度を軟化させ、たった1日だけですが国連・NGOの訪問団として州都カドグリを訪れることが許されたのです。
訪問団は私を含めて24人。ハルツームの国連関係者、国際NGOの現地代表、そしてスーダン政府関係者です。