(前号から続く)
ムルタ中地区のシエハ(住民リーダー)、ジブリルさんの家は幹線道路の近くにありました。ブロック塀で囲まれた庭には鉢植えの植物が並び、門の脇に植えられた木には真っ赤な花が咲き乱れています。
トチャ集落のシエハ、トゥトゥさんを迎えて、奥さんがソルガムや落花生、ササゲ豆を炒めた特製のおやつをふるまってくれました。
「さっそくだけどジブリルさん、共同菜園のことなんだが」
トゥトゥさんがそう話し始めると、ジブリルさんが
「その話なら、菜園委員会のメンバーを呼んで一緒に相談したほうがいいな」
と言って、委員会の中心メンバーであるルドワンさんを呼びに行かせてくれました。
しばらくの間、おしゃべりとおやつを楽しんでいると、ルドワンさんがやってきました。彼は菜園予定地の地主のひとりでもあり、土地のことをよく知っています。

トゥトゥさんが説明を始めました。
「みんな知っていると思うが、ムルタ北地区の端に、ドンドロ村やほかの村の出身者が住んでいる。最近になって新しい避難民もたくさん入り込んでいる。そうした人たちが、中地区の菜園に参加したいと言ってきている。構わないだろうか?」
「全部で何家族くらいになるかな?」
ジブリルさんが尋ねました。
「トチャ集落から40家族ほど参加するから、全部合わせると、60家族くらいだろうか」
「それなら問題ない。土地は十分にある。ドンドロやほかの人たちも、みんな参加してくれ」
黙って聞いていたルドワンさんが、ここで口を開きました。
「みなさん、確かに土地は十分にあります。でも、水はどうしますか?」
ルドワンさんは手にした図面を広げました。何年か前に、菜園用の土地を州政府に登録した時の図面です。
「菜園用の土地は全部で40ファダン(約17ヘクタール)です。中には砂地や岩だらけで菜園に向かない区画もありますが、それを差し引いても十分な広さです。この中に、何十もの大小の溜池がある。長年放置されて、砂や水草で埋まっているものも多い。これを掘り起こしたり刈り取ったりしなければ、水が使えません」
「大丈夫。溜池は全部JVCが補修工事をしてくれる」
と自信ありげに答えるジブリルさん。とっさにJVCスタッフのユヌスが反応しました。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。溜池が何十個もあるって、それ全部の工事はできないよ。40ファダンの用地のうち、実際に使うのは10ファダン(約4ヘクタール)もあれば十分だろう。溜池の補修は、プロジェクトに必要な部分だけだよ」
「えーっ、JVCが全部やってくれるんじゃなかったの?」
こんどはジブリルさんが目を丸くしています。
ユヌスは必死になって、プロジェクトの予算には限りがあるし、共同菜園に提供される区画以外は個人に属する土地なのだから、そこの溜池は補修することはできない、という説明を繰り返しました。なんとかジブリルさんも納得してくれたようです。
ルドワンさんが再び図面を指さして、 「それでは、皆さんいいですか。この図面の、上の方のこの辺りに溜池が幾つか集中しています。この周りをムルタ中地区の人たちの菜園にしましょう。下の方の、ここには大きな溜池があります。このあたりを、トチャやドンドロなどの人たちに使ってもらいましょう」 と説明すると、みんな、ふんふん、と納得しています。 「そしてJVCは、このふたつの区画の溜池の補修をお願いします」
なんとか、話が収まりました。ムルタ元来の住人ではないトチャやドンドロの人たち、そこに住む新しい避難民にも土地が割り当てられて、JVCスタッフもほっと胸をなでおろしました。トゥトゥさんも、ご満悦の表情です。
「早速みんなで、準備に取り掛かるぞ」


【おことわり】
現在、JVC現地代表の今井をはじめNGO外国人スタッフが南コルドファン州に入ることは、スーダン政府により制限されています。このため、2012年1月以降の「現地便り」はカドグリの状況や活動の様子を、JVCスーダン人スタッフの報告に基づき今井が執筆したものです。
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