(前号から続く)
乾季になってバオバブの大木はすっかり葉を落としているのに、それでも木陰には村人が集まって、いつものようにおしゃべりを楽しんでいます。ここは、ムルタ村の中でも最も東寄り、丘陵地の懐に抱かれたトチャと呼ばれる集落です。
人々は、元々はカドグリから南に20キロほど離れた山中のトチャ村に住み、その一部がこの地域に移り住んだと言われます。今でも集落の中ではトチャの言葉が飛び交っています。避難民が多く住むムルタ北地区の訪問(前号、前々号の記事)を終えてから数日後、JVCスタッフはこのトチャ集落を訪れました。
バオバブの木の脇でクルマを降りると、スタッフは村人に挨拶をしました。
「こんにちは、JVCです。シエハのトゥトゥさんはいますか?」
集落を束ねるリーダーは、この地域では「シエハ」と呼ばれます。トゥトゥさんはここトチャ集落のシエハです。
やがて、トゥトゥさんがやってきました。「ジャラビーヤ」と呼ばれる白いガウン状の服を着て、日除けのために麦藁帽をかぶっています。
「おお、JVCか。まあ、座りなさい」
周りの人たちも一緒に車座になって話が始まりました。
「トゥトゥさん、実は私たち、ムルタ北地区でドンドロの人たちと会いました。菜園の土地のことを心配していました」
と話し始めると、すぐに反応が返ってきました。
「ああ、そのことか。2日前かな、ドンドロの人たちが訪ねてきたよ」
「そうですか。で、どうでした?」
「土地のことなら心配ない。ドンドロの人たちは、ムルタ北地区ではなく、トチャと一緒になってムルタ中地区の菜園に加わればいい」
菜園プロジェクトを実施するのは、ムルタ村の中でも、南北に走る幹線道路の東側、丘陵地帯との間に細長く広がる地域です。ここでは、雨季の間に丘陵地に降った水が地下に溜まっているらしく、少し穴を掘ればあちこちで水が湧き出てきます。それを利用して、雨が一滴も降らない乾季でも野菜作りが可能なのです。
しかし、水が豊富な菜園の適地は、すべて元来のムルタ住民が所有しています。トチャやドンドロのように後から来た「よそ者」は、その土地を借りなければ菜園づくりができません。
「トチャとムルタ中地区は、ずっと前から友人同士だ」と、トゥトゥさんは言います。
「今回も、野菜づくりをしたいトチャの農家は、中地区の菜園を使うことで話はついている。何の問題もない」
なるほど。中地区の住民は、北地区に比べて寛容なようです。それとも、トゥトゥさんが言うように、ずっと昔から続いてきた良好な関係があるのかも知れません。

「でも、トゥトゥさん。トチャだけでなくドンドロなどが加わっても、中地区の人たちは了解してくれるのでしょうか」
「大丈夫だとは思うが、念のため中地区のシエハには話をしておいたほうがいいな。ちょうど良い、これから行ってみるか」
と言うが早いか、トゥトゥさんはもう立ち上がっています。そのままJVCの赤いレンタカーに乗り込んで、一行はムルタ中地区へと向かいました。
(続く)
【おことわり】
現在、JVC現地代表の今井をはじめNGO外国人スタッフが南コルドファン州に入ることは、スーダン政府により制限されています。このため、2012年1月以降の「現地便り」はカドグリの状況や活動の様子を、JVCスーダン人スタッフの報告に基づき今井が執筆したものです。
この活動への寄付を受け付けています!
今、日本全国で約2,000人の方がマンスリー募金でご協力くださっています。月500円からの支援に、ぜひご参加ください。
郵便局に備え付けの振込用紙をご利用ください。
口座番号: 00190-9-27495
加入者名: JVC東京事務所
※振込用紙の通信欄に、支援したい活動名や国名をお書きください(「カンボジアの支援」など)。
※手数料のご負担をお願いしております。
JVCは認定NPO法人です。ご寄付により控除を受けられます(1万円の募金で3,200円が還付されます)。所得税控除に加え、東京・神奈川の方は住民税の控除も。詳しくはこちらをご覧ください。
遺産/遺贈寄付も受け付けています。詳しくはこちらのページをご覧ください。