2012年12月の記事一覧

ハジェラナル村には、小さなスーク(市場)があります。日用雑貨を扱う店が数軒あるだけですが、ここが今、賑わいを見せています。収穫シーズンが始まってから、農家のお母さんたちが毎日のように野菜を持ち寄って売っているのです。
「オクラひとヤマ1ポンドだよ。(※註1)」 畑から採ってきたばかりのオクラを売っているのは、ファトゥマさん。トマトも並んでいます。JVCが支援した種からの収穫です 「オクラはね、売り始めてから250ポンドくらい稼いだね。それからトマトで100ポンド。合わせて350ポンド」

カドグリの町に出て掃除、洗濯などの仕事をすると1日の稼ぎが20ポンド程度ですから、350ポンドというのはなかなかの収入です。市場には買い物客が結構来ています。村の住民の中にはバスで10分たらずのカドグリの町で働く人も多く、そういう人がここで野菜を買っていくようです。
「おーい、ユヌスさん、元気かあ?」
JVCスタッフのユヌスが村の入口にクルマを止めると、ロバに引かれた二輪の台車が畑からの道を走ってきました。乗っているのは、すっかり顔馴染になった村の世話役、ククさんです。
「おお、こっちは元気だ。そっちはどうだ?」
「見ての通り、収穫で大忙しだ。今年は雨がよく降ったし豊作だぞ」
と大声で笑うククさん。

台車の上には、畑から収穫したばかりの落花生が山積みになっています。よく見ると、落花生に隠れるように子供も台車に乗っています。家族で畑仕事だったのでしょう。
「あとで、ウチにも寄ってくれよな」
ククさんはそう言い残すと、ロバに鞭を入れて村の中へと台車を走らせていきました。
私たちが5月に野菜(オクラ、トマト、ウリ、ササゲ豆)と穀物(ソルガム、落花生、ゴマ、トウモロコシ)の種子を支援したムルタ村。10月、村は収穫の季節を迎えていました。今日は、その様子を見に来たのです。
JVCスタッフのユヌスが丘のふもとのムルタ村を訪れると、子どもたちが駆け寄ってきます。
「ユヌスおじさんだ」
今年4月に村で活動を始めてから頻繁に訪れるユヌスを、今では知らない子どもはいません。モハメッド君も、そんな子どもたちのひとりです。
今まで彼には、「ユヌスおじさん」が何をしに村に来ているのか、よく分かりませんでした。でも今は、「おじさん」が何をしているか、良くわかります。このあいだ、「おじさん」はモハメッド君の家にヤギをくれたのです。
何かが足りない・・・。
昨年6月の戦闘で大きな影響を受けたムルタ村、ハジェラナル村。避難していた人々の多くは村に戻り、JVCが実施した種子の配布、そして天候にも恵まれて今年は豊かな収穫を迎えています。しかし村を訪れると、何かが足りないような気がするのは、何故でしょう?
そう、家畜がいないのです。以前なら村のあちこちで見かけたヤギ、少年たちが追っていたウシの群れ、それらの家畜の姿が激減しているのです。
以前なら、たとえウシを持っていない家庭でもヤギを飼育して、そのミルクは家族、特に子供の貴重な栄養源になっていました。また家畜は家庭の財産として、いざという時にはそれを売ることによって大きな病気の治療費、子供の進学費用をまかなうこともできます。「銀行に貯金する代わりに村人は家畜を持っている」と言われるゆえんです。