7月13日、エレツの国境を越えて初めてガザに足を踏み入れました。報道や友人から今まで色々な話を聞いていた私にとって、ガザはとても遠く、そして想像のつかない地でした。友人たちは「ガザの人たちは、とても人間味があって温かい」と言います。しかし報道では、人々の暮らしや人間性について見ることはめったにありません。また、現在の状況についても、報道では「ハマスが武力で制圧して、ガザの人々は不安の日々を送っている」ように言われることもあれば、一月前のハマス制圧後に訪れた人からは「これまでにないくらいに、ガザ市内は平穏な空気」とも聞きます。だから、国境を越えるその瞬間まで、私には、全く外の世界から切り離されてしまっていて中が見えない地に行く、というドキドキ感がありました。
空港のように巨大で無機質なチェックポイントを通過し、ガザ側に入って最初に見たものは、青い空の下に広がる、破壊された産業地帯でした。すぐさま、「荷物を持ちましょう。車が待っている向こう側は、とても遠い。10シェケルで運んであげます」と、パレスチナ人の"ポーター"達が声をかけて来ました。私たちの荷物はとても軽く、また車までの距離もせいぜい200〜300メートルなのですが、無下に断るわけにもいかず荷物を渡しました。行きに荷物を運んでくれたのは、大学を卒業したばかりの男性。大学を出ても仕事が見つからないのです。帰りに運んでくれたのは、2人の子どもがいる男性。「ガザにはお金がない。仕事もない」――彼らも、好きでこのような仕事をしているわけではないのです。しかし、現在も輸出も輸入も制限され、特に開発事業も含む建設業のための資材が入ってこないガザでは、日雇いですら「仕事」を見つけるのは難しいようです。

ガザ市内に入ると空気も、海に近いため湿っていて、エルサレムの乾いた空気とは違ってじっとりと体内に浸透する暑さでした。ビーチからは、家族連れが海水浴を楽しむ声が、夜遅くまで聞こえてきます。道には人が溢れ、ショッピングを楽しむ女性や、家族連れでの買い物、また、モノだけでなく人を運ぶドンキー・カートも目立ちます。音楽を大音量で流しながら道を行く、結婚式の車も見かけました。ファラフェル・サンドウィッチ(ヒヨコマメのペースト揚げた、中東のファーストフード)の店には、長い列が出来ています。私たちを見かけて、「ガザにようこそ」と声をかける人たちもいました。

道には所々に新しいゴミのコンテナーが設置されており、道は大抵きれいです。道を清潔に保とうとガザの人たちが意識しているのかもしれません。数ヶ月前に新聞の報道で、ガザ市内にゴミが溢れている写真を見ましたが、それからは想像もつかない変化です。道には車が溢れていましたが、交通整理で大活躍しているのは、ハマスのボランティアたち。汗をぬぐってこちらに笑顔で手を振ったのは、20歳くらいのボランティアでしょうか。外国人である私たちが安心して行動できるように、接してくれたのかもしれません。エルサレムで見る交通整理の警察よりも、はるかに丁寧にドライバーに接しているように見えました。町の中では、ハマスの緑の旗だけでなく、パレスチナの旗も、黄色のファタハの旗もよく見かけます。通りで見かけた結婚式の車も、友人が「あれはファタハの家の結婚式よ」と教えてくれました。報道からは、まるでガザではハマスがファタハを一掃しているかのような印象を受けていたので、とても意外でした。
日が落ちてあたりが暗くなった時、友人の家の周りの地域が真っ暗なことに気づきました。「15時から22時くらいまで、電気が来なくなるの。今に始まったことではないけれど」と彼女が言うように、地域ごとのシフトで一定時間電気の供給が止まるそうです。私は町の中が真っ暗になってしまっただけでも驚いてしまったのですが、こんなに電気不足が続いていたら工場や病院はどうなってしまうのか、とも不安になってしまいます。しかし友人は、「確かに不便だけれど、もう慣れたわ」と暗闇の中を運転しています。そして暗闇の中でも、通りには相変わらず人が多く歩いているのです。
ガザの人たちや町の様子を見て、彼ら自身が治安やモラル、または人間らしく生きるための"普通"の状態を保とうと努力しているという印象を受けました。これからガザがどうなっていくのか、という不安がその裏にはあるのかもしれません。そんな不安すら見せないような、人々の逞しさと温かさを感じました。ガザの水道水はほんのり潮の味がします。強い太陽と湿った潮風と、人間の匂いが混ざったような、少ししょっぱいその味が、エルサレムに帰ってきた後も体に残っている感じがしました。ガザに入るのは物理的にはまだ簡単ではありませんが、私にとって、ガザは「遠く、想像のつかない地」ではなくなったような気がしています。
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