これまで、TRCの資料の貸し出しなどに関する業務についてご説明しました。今回は、TRCのもう一つ重要な業務である、トレーナーの育成の取り組みについて説明したいと思います。
TRCはトレーナーの研修所だった
TRCはもともと、持続的な農業や農村開発に従事する人材を育成する機関として設立されました。これまでにTRCで研修を受けた多くのカンボジア人が、様々なNGOで活躍しています。中には、自らNGOを立ち上げた人もおり、農業や環境の分野で、カンボジア国内有数の現地NGOに育った団体もあります。このように、TRCから多くのカンボジアNGOが設立されたことで、NGOワーカーを育成するという当初の目的は達成されました。
現在のTRCの役割は、主に大学生に対して学ぶ機会を提供することです。近年、大学も整備され、その数も増えてきましたが、その一方で、質の高い教員や教材が不足していることが課題です。そこで、TRCでは国内外から収集した農業、環境、農村開発などに関する資料を学生に無料で開放しているほか、月に1回程度の割合で大学生などを対象にした勉強会を実施しています。
また、この勉強会は、TRCを多くの人に知ってもらうためにも良い機会となっています。学生の中には、TRCに多くの資料があることを知らない人もいますが、勉強会に参加することでTRCには世界中の貴重な資料があることを知ることができます。その結果、勉強会を開催するようになってからは、利用者数も増加傾向にあります。
勉強会を行う際には、TRCオリエンテーションを行っています。オリエンテーションでは、どんな資料があるのかを紹介し、本の検索の仕方、資料の利用の仕方、貸し出しの手続きなどについて説明しています。こうしたことで、TRCの資料をより効果的に利用してもらうことができるようになります。
勉強会では、農業、環境、開発など様々なテーマについて、JVCのスタッフがこれまで勉強してきたことや活動を通して得られた知見などを発表し、大学生と議論します。「開発とはこうあるべきだ!」という答えを学ぶのではなく、様々な視点からポジティブな部分とネガティブな部分の双方を考えることがこの勉強会の目的です。
この日はJVCの農村開発プロジェクトで働いて3年になる、農業が専門のクン・コルさんが講師を務めました。JVCの活動目的やこれまでの活動で得られた経験などについて共有してもらいました。大学生は、こうした現場の生きた経験を学ぶ機会はほとんどないため、参加者も熱心に話を聞き、活発な意見交換が行われました。参加した学生からも、「大変有意義だった」との感想が聞かれました。
翌月の講師は、マサさん(樋口正康さん)でした。マサさんはアメリカの大学院で勉強し、カンボジアではあまり学ぶ機会のないようなことについても知っています。この日は、ジェンダーという切り口から大学生にいろいろと考えてもらう場を提供していました。カンボジアではあまりなじみのないジェンダーという考え方に、参加者は少し戸惑っているようでした。しかし、今まで、あまり聞いたことがなかった新しい考え方を学び、学生たちもいろいろと考えたようです。
学生たちが、広い視野を持てるように
勉強会はJVCのカンボジア人、日本人のすべてのスタッフが講師となります。月ごとに順番を決めて、それぞれ発表できることを発表し、大学生と議論するようにしています。東京から出張者が来る場合には、タイミングが合えば講師を努めてもらうことがあります。まさにJVCフル動員で実施されている、他にはない学習の場を提供できているのではないかと思います。また、大学生と議論することで、私たちも学びの機会になります。
人材の育成は、すぐに成果が出るような活動ではありません。しかし、若い人たちが自らの未来を自らの手で築くことができるようにお手伝いしていきたいと思います。みんなが幸せに暮らしていくことができるような社会になって欲しいと思います。そして、そのためには、若い人たちには、多様な価値観と広い視野を身につけて欲しいと思います。
これからのカンボジアの発展を信じて、私たちも粘り強くTRCを運営していきたいと思っています。皆さんの支援なしには運営が難しい面もありますので、これからもご支援よろしくお願いいたします。
(了)