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母親教室のようす『村の女性たちが変わった』

JVCアフガニスタン事業担当補佐 谷山 由子
2009年7月28日 更新

昨年11月から始まった6回シリーズの『母親教室』が今月で最終回を迎える。すっかり村の女性たちと顔なじみになった地域保健促進員のファティマ(女性、30歳半ば)は、これまでのことを振り返り「女性たちの態度がずいぶん変わった」と言う。

 ■ウズバーグ村の女性たち15名は、ハネムジャーナさん(地域保健員)の家に月1回集まり病気の予防など健康に関する話を聞いてきた。この日は出産後のケアーについてチャートを見ながら説明を聞き情報を交換しあった。 ■ウズバーグ村の女性たち15名は、ハネムジャーナさん(地域保健員)の家に月1回集まり病気の予防など健康に関する話を聞いてきた。この日は出産後のケアーについてチャートを見ながら説明を聞き情報を交換しあった。

何がどう変わったのか、そのきっかけは何なのかをファティマとファティマの同僚で指導的立場にあるワハーブ医師(男性、30歳前半)に話を聞いてみた。

今からさかのぼること3年前の2006年、JVCは現在診療所を運営しているアフガニスタン東部の8か村で地域保健員の養成を一から始めた。この地域を総称してゴレーク地域と呼んでいるが、人口の規模も村ごとに異なり100〜150世帯を担当する地域保健員は、それぞれの村に2人(通常女性1人男性1人のペアーで養成する)だったり4人だったりする。

その女性の地域保健員12人と協力し村のお母さんたちに健康に関する基礎的な知識を持ってもらおうと、7か村それぞれの地域保健員の家を会場にこの活動を開始した。JVCは診療所を運営する傍ら“治療より予防”を開始当初から言い続け、家族の健康の鍵を握る女性に今年から『母親教室』という方法でアプローチすることになった。

今回聞き取りをさせてもらったファティマはその地域保健員養成の初期の頃からJVCの活動に参加している。

ファティマ:『母親教室』が始まったばかりの頃は、村の女性たちみんなが何のために集まるのかわからなくて、遅れてきたり説明を理解できなかったりで何回も話をする必要があったので、一回の教室が終わるともうくたくたになってしまいました。

谷山由子:大変でしたね。そういう状態はどのくらい続いたんですか。

ファティマ:それでも、だんだん『母親教室』のねらいを彼女たちが理解してきて、今ではほとんど遅刻しなくなりました。

谷山由子:一番大きな変化はなんだと思いますか。

ファティマ:女性たちが自分の思っていることや知っていることをみんなの前で言えるようになったことでしょうか。そのおかげで、誤った考えが明らかになり適切な知識へと導くことができるようになり彼女たちも納得しやすくなりました。

ワハーブ:これはこの『母親教室』の大きな成果のひとつと言えます。彼女たちはこれまで教育を受けた経験がほとんどなく、人の前で意見を言ったり情報を共有したりすることができませんでした。ですが何回かこの教室に参加しているうちに、ファティマや地域保健員が女性たちの考えを引き出していき、女性たち自身が他の人と同じような考えを持っていたり自分の知っていることが他の人と違っていたり、また新しい知識を得たりしていく中で徐々に態度を変えていきました。

谷山由子:興味深い話ですね。具体的にどんなふうに変わったと言えますか。

ファティマ:ひとつ、予防接種の話がわかりやすいと思うのですが、アフガニスタンでは子どもたちが受ける予防接種のほかに出産可能年齢の女性が接種することになっている破傷風予防注射があります。この話を始めた時にある村の女性が「この予防注射の中身は豚の何かから作られていると聞いたことがある」と言ったのです。ほかの人もそれを否定しませんでした。イスラム教の教えでは豚を食べることを禁じているので、イスラム教を信仰している彼女たちにとってこれは重大な問題といえます。ですが、彼女たちはそのことを今まで一度もファティマやJVCの医療スタッフに訴えたことがなく、不安を持ちながら接種を受けていたと言うのです。

谷山由子:その話にファティマさんはどう対応したのですか。

ファティマ:病原菌や免疫のメカニズムをわかりやすく説明して、それが豚を使ったものではないこと、むしろ身体に良いことを説明しました。

谷山由子:難しい話のように聞こえますが、村の女性たちはわかったのですか。

ファティマファティマ

ファティマ:ワクチンのメカニズムについてこんなふうに話したのです。
「以前、偉いお医者さんが、病気にかかって身体に斑点ができ膿がたまった人の体から取り出した膿を使ってその病気にかからないようにするための新しい薬を作り出しました。その薬をまだ病気にかかっていない人に注射するとその人のからだにはその病気に対する抵抗ができ、その病気にかからなくなります。このようにここで使われているワクチンは豚の体からとったものではないのです」
というふうに。その後、村の女性たちは予防注射を拒まなくなり、そのメカニズムを他のひとにも話すようになったようです。

谷山由子:そういった変化を村の男性たちはどのように見ているのでしょうか。『母親教室』が始まってから村の中、特に男性たちの反応はどうですか。

ワハーブ:男性の地域保健員に話を聞いたり村を歩いていて聞く『母親教室』に関する話はみな良いもので、好印象を持っているようです。

ただ、ひとつ課題なのはムッラー(宗教者)とその家族です。ひとたび先程のような噂をきくと、ムッラーは家族の女性たちに対して厳しく予防接種を受けることを禁じます。こういった人たちを説き伏せるためには、こちらもイスラムの教えに精通し具体的な教えを引用して、予防接種が女性たちには必要なことを伝えることが必要になってきます。
その点、ファティマはある程度イスラム教の教えにも精通しているので、年上の女性たちにも信頼されています。

谷山由子:いろいろとお話をきかせてもらい、ありがとうございました。最後に、これからまた別の女性たちを対象とした『母親教室』第二弾(第二フェーズ)が始まりますが、課題や心構えを聞かせてください。

ワハーブワハーブ

ワハーブ:計画では、第一フェーズから『母親教室』の指導役を女性地域保健員にお願いし、ファティマが補佐役になることを考えていました。ですが、女性地域保健員にとって指導役は初めてで慣れていないことや、村の女性たちも初めてのことで聞く姿勢ができていなかったためうまくクラスが進められず、トレーニングに慣れているファティマに指導役を担ってもらうようにしました。

第二フェーズでは、できる範囲で地域保健員に指導役を担ってもらいファティマには補佐役にまわってもらうよう考えています。実際は、おそらく6,7割はまだファティマがやらざるを得ないかもしれませんけれど。
それから、この6回シリーズの前後に村の女性たちの健康に関する理解度を知るため、事前の聞き取りと事後の聞き取りを行っていますが、第一フェーズの聞き取りでは、ただ質問文を読んで回答してもらったため十分理解度を測ることができませんでした。

なので、第二フェーズでは質問の意味をきちんと理解して回答してもらえるよう必要に応じて質問の意図や意味を説明しながら、回答してもらうように心がけます。
また、回答もただ“はい”“いいえ”の答えだけでなく、そう思う理由もきちんと記録するようにして、クラスを受けた後にどれだけ考えや知識が変わったか比べてみたいと思っています。

谷山由子:どうもありがとうございました。また新しいフェーズで成果がでるようがんばっていきましょう。

今回のインタビューは2回にわけて行われましたが、話しを通じて2人が真剣にこの活動に取り組んでいることが伝わってきました。
また、2006年から始まったJVCの地域保健活動が村の人たちに理解され始めているということも彼らの意欲を促しているのだと感じます。

その典型的な例が、村の男性たちの『母親教室』の評価です。以前、アフガニスタンの女性について書かれた報告書(米国人アフガン文化研究家ナンシー・デュプリー講演録「アフガニスタンの女性たち」)を読んだときに、難民キャンプで開催された女性教室が男性たちからの批難にあい失敗に終わったという記録があり、こういった活動をする時には村の男性の理解が必要だと思ってきました。
またこの問題の大きな原因は、男性たちに“教室でどういったことが話されているか”“目的は何か”がきちんと説明されていなかったことだけでなく、教室を開いた援助機関が何者であるか難民キャンプの住民に十分理解されていなかったこともあったようです。

そういう意味で、JVCがこの地域に腰を据え真剣に健康を改善し生活を向上させようとしていることが、スタッフたちの姿勢を通して村人に伝わり、女性たちへのこういった教室も受け入れられているのだと思います。

まだまだ課題はありますが、この活動がいつか村の人たちのものになり持続的なものになる日まで一歩進んだような気がしました。

(補足:2009年4月11日〜30日アフガニスタン現地出張期間中の聞き取り記録より、内容は一部編集し直しています。)


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