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エルサレムっ娘の複雑な胸のうち

~イスラエル独立記念日の前夜のインタビュー~
パレスチナ現地代表 山村 順子
2017年5月19日 更新

こんにちは、エルサレム事務所・駐在員の山村です。ここで暮らす日々の中では、パレスチナ人の気持ちを受け止める機会が多いのですが、今回はその中の一つを皆さまと共有させていただきたいと思います。

昼撮影。イスラエルの旗でいっぱいのエルサレム警察署。昼撮影。イスラエルの旗でいっぱいのエルサレム警察署。

この会話のきっかけは、エルサレムで海外から来た観光客を泊めながら平和活動を行っているおじいさんについて、筆者がパレスチナ人の同世代の友人(30代)に知っているかどうか尋ねたことでした。エルサレムの街をオレンジの街灯が照らしだす中、カフェの窓から見えるエルサレム警察署の上にはその翌日の独立記念日を祝い、多くのイスラエルの旗がはためいていました。

――(以下、筆者)ねえ、この辺で平和活動をしているおじいさんがいるのだけど、知っている? 会ったらすごくいい人だったのだけど、外国からの評価とは裏腹に、パレスチナ人たちの中にはあまり良く思っていない人もいるみたいなんだよね。ラビ(ユダヤ教の宗教指導者)とも対話していて、「アラブ人とユダヤ人の間に平和を」といった感じのメッセージを伝えていたよ。やっぱりパレスチナ人の権利が保障されていない状態でただ"パレスチナとイスラエルの間に平和を!"というメッセージを唱えていると、パレスチナ人たちからは支持を得られないということなのかな・・・。

「ふーん、なるほど。いい、どうしてそうなるか、私の視点から説明するわね。私はイスラエルの大学へ行ったし、たくさんイスラエル人の友だちもいる。彼らは良い人たちよ、そんなことは分かっているわ。私は人として彼らの存在をリスペクト(尊重)している。違う立場の人たちとは考えが違って当たり前だもの。そもそも相手の国籍がどうかなんて気にしていないの。初めて会った人に、あなた何人?なんて聞き方はしない。ユダヤ人であろうとアラブ人であろうとその人の中身が大事だと思うから、(国籍は)問わないわ」

海外で過ごしていた経験もあり、とてもリベラルな考え方をしている彼女。ただ、ここで急に力強い真剣な表情へと変化しました。

「だけど、実際に"イスラエル"と平和に暮らせるか、といったら、それは別の話だと思うわ。私たちの考える"平和"は彼らの"平和"ではないの。"平和"と"人間性(humanity)"には大きな違いがあるわ。大きなギャップがある。全てこの土地がまっさらになって、ゼロからのスタートで仲良く一緒に暮らしましょう、というのなら可能かも知れないけど、そんなことは不可能でしょう。昔はユダヤ人もアラブ人も仲良く暮らしていたのよ。一緒に農業をしていれば、同じ服を着ているので誰がパレスチナ人で誰がイスラエル人だったかも分からないくらいだったそうよ。イスラームの考えでは、富は共有するものとされているし、ムハンマドはそう教えている。パレスチナ人は、与え、助け、他人を受け入れてきた。それなのに急にヨーロッパから来たイスラエル人がホロコーストで自分たちが受けたことをそのまま私たちに行い出した。」

――そういえば、今日近所にあるジュース屋さんで働くパレスチナ人のおじさんたちと話したら、「平和は欲しいけど、欲しいのは"正義の伴った平和"だ」って言ってたよ。私たちもパレスチナの人たちと話す時は、あまり軽はずみに"平和"ってことばを使わないようにしているんだよね。

「まさにその通りよ。あなたも分かるでしょう」

「知っている? エルサレムで暮らす私たちは、イスラエルにあらゆる種類の税金を払わされているのよ。その額はとても大きなものなの。商売をしていたらその利益にかけられる税金(付加価値税:VAT)、住居税(自治体固定資産税:アルノーナ)、所得税、などなど。これらの税金がものすごく重いの。生きていくだけで大変よ。さらに酷いことは、払っているのにイスラエル人と同等の権利を得られないばかりか、この税金が一部入植地の建設に使われるってことね。私たちからどこまでも搾取しておいて入植地が増えるなんてたまらないわ」(※注1)

この、「生きていくだけで大変」ということばは、パレスチナ人たちからよく聞かれることばです。エルサレム市内に位置するシュアファート難民キャンプに住み、イスラエル側で働いているとある成人男性は、7時30分に西エルサレムで始業するのに4時頃に家を出て難民キャンプの入り口にある検問を通らないと間に合わないとのことでした。本当は何もなければ30分で行ける距離です。「俺だってだた生きているわけじゃない、飯も食べるし子どもも育てるし、人間だから色々やることがあるんだ。ほんとうはこんなことに時間を使いたくない」と言っていたのをここで思い出しました。

「パレスチナとイスラエルの間に起こっている問題は、宗教の問題じゃないわ。あきらかに政治の問題なのよ。イスラム教徒、キリスト教徒、ユダヤ教徒、そういった宗教の間に起こっている問題では決してないわ。私たちにとって大きな敵は一般のイスラエル人ではなく、政府なのよ。そして言えることは、自分たちの力でここまで大きくなったのではなく、大国の支援がイスラエルという国を大きく見せているだけなのよ」

途中、夜の旧市街を散歩しながら話を聞きました。途中、夜の旧市街を散歩しながら話を聞きました。

「私は何度もパレスチナを助けようとするイスラエルのNGOと関わったことがあるけど、彼らは"パレスチナ人のために"なんて言いながらイスラエル側だけで活動をしていたり、ガザの人たちに送る支援物資に対してマージンを取ったりするのよ。私も個人的にガザの人たちを助けて薬を届けたりしているけど 、マージンなんてとらないわ。イスラエル人がパレスチナ人を助けるときは、何かうまみがあるときだけなのよ。あなたもそれをよく分かっておいた方がいいわ」

――そうなんだ・・・。そうじゃないイスラエルのNGOもあると思うけど、あなたはそんな経験をしているんだね。そういえば、気を悪くしないで聞いてほしいのだけど、テルアビブのリベラルだと思われるイスラエル人のご家庭の人たちと話したとき、それまで楽しく話していたのに、パレスチナの話になった瞬間に、「パレスチナ人は自業自得なんだ。自ら自分たちを不遇な状況に追い込んでいるのだから、そんなの放っておけばいい。イスラエル国内にも貧困で困っている人たちがいるから、まずは彼らを支援をすべきだ」と、言う人がいたんだよね。そしてそこにいた他のイスラエル人のおじさんも、アフリカで起きていることは心配するのにパレスチナのことは棚にあげているから、驚いてしまって。

「(ため息をついて)確かに、イスラエル国内に困っている人がいるのは本当よ。ただ、イスラエルの団体とはいい思い出がないの。これは別に一度や二度の出来事ではなくて、私の長年の経験を通して言えることよ。私はイスラエルのNGOに助けられるよりも日本のNGOに来てもらえた方がよっぽど信頼できるし、いいと思っているわ。」

イスラエルの社会が変わらないとパレスチナ人たちの現況を改善できない、それはゆるぎのない事実だと私は思います。もちろん、彼女の言うようなイスラエルのNGOばかりではなく、精力的にパレスチナ人の人権のために活動しているNGOもあります。ただ、かなりリベラルなパレスチナ人女性、ヘブライ語も話せてイスラエル人の友人や仕事仲間も多い彼女、の中にすらこのような考えがあることを知り、問題の根深さを強く認識しました。

また、今度韓国と日本へ旅行に行くという彼女。「イスラエルのパレスチナ人」として事前に両国に提出しなければならない書類を見せてもらうと、ただの旅行にも拘らず、膨大な量の書類がありました。自分の銀行口座の情報、父親の銀行口座の情報、CV、今までの海外渡航歴、受け入れ先の人の証明書など、気の遠くなるような量でした。ここでもまた、彼らが手続きに苦労する姿を目の当たりにし、ついこちらもふう、とため息をついてしまいました。ちなみにその後、日本大使館で3時間、書類の審査で待たされた挙句、父親の職業を証明する書類の提出を求められ、それまで彼女のレセパセ(laissez-passer:無国籍者等に発行されるパスポート代わりの渡航文書)と書類全てを大使館が預かることになったそうです。

「準備できないわけじゃないのよ、でもこの作業だけに何日もとられるのは辛いわね」

ここ、エルサレムでのパレスチナ人の暮らしについて、「暮らせないわけじゃない、でも、ただ生きているだけ。老後の貯金もできないし、その日の暮らしで必死だよ。」と表現するパレスチナ人が多いように私は思います。日本も非正規雇用が増え、貧富の差が拡大していますが、ここで起きていることを見ていると、もちろん問題の原因は違うものの、日本で起こっている現実とも少し重なって見えました。ガザ戦争など目に見える暴力にばかり目がいきがちですが、普段からパレスチナ人を苦しめているのは、人間として当然持つべき権利が付与されていないこと、そして「尊厳を持ち、夢を描くこと」が生活の中で叶わないこと、そしてそれを国際社会が放置してしまっているゆるぎもない事実なのではないか、と思いました。

花火が鳴る中、明日の準備をしているカフェのおじさん花火が鳴る中、明日の準備をしているカフェのおじさん

ふと窓の外を見ると、西エルサレムで独立記念日を祝って打ち上げられた色とりどりの花火が夜空を彩っていました。それでも視線を戻して周りを見ると、それとは無関係に、各自の仕事に専念する人たち、友人とおしゃべりをしている人たち、いつもと変わらない日常を過ごしているパレスチナ人たちの姿がありました。

 「(イスラエルの独立記念日は)僕ら・私たちには関係ないよ」と、今日パレスチナ人から何度聞いたかな。

観光地として賑わう一方、エルサレムの複雑な一面を噛み締めた夜でした。

※注1:数ある税金の中でも、特に重いと言われる自治体固定資産税(アルノーナ)で、旧市街でお店を出しているパレスチナ人たちもこのアルノーナのために非常に苦労している、とよく聞きます。このインタビューでは彼女の納税票を見せてもらいましたが、アルノーナは面積によって課税額が変わり、1m四方毎に50NIS、つまり1500円ほどがかけられるとのことでした。また、イスラエル人の方が安く課税されているとののこと。)詳細に関しては追って調査します。

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