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2013年4月28日 【 その他・未分類

人々の生活から見たパレスチナの今(1)

パレスチナ現地代表 今野 泰三
2013年5月 9日 更新

大阪の市民団体、パレスチナの平和を考える会の会報誌「ミフターフ」35号(2013年4月刊行)に、今野エルサレム事務所現地代表のインタビューが掲載されました。このインタビューでは、パレスチナの現状や国家承認問題などについて、現場の活動を通して見てきたことを率直に述べています。

1.西岸地区(東エルサレムを含む)にかんして

(1)昨年は、まず、パレスチナ自治政府の国連オブザーバー国家への格上げということがありましたが、そのことによって、具体的に何か変化した点はありますか?人々の生活や意識ということでもいいですし、JVCの仕事にかんしてということでも構いません。

JVCパレスチナ事業は現在、アドボカシー活動の他に、東エルサレムとガザ地区でパレスチナNGOと共に、保健医療の分野で活動をしています。その中で、国連オブザーバー国家への格上げというニュースがありましたが、結論から言うと、現地の状況は何一つ変わっていません。私が「アッ・スルタ(自治政府を指すアラビア語)」と言うと、パレスチナ人から「ダウラ(国家を指すアラビア語)です」と返ってくることはたまにありますが、本気で「○○だから国家と言えるのです」といった風に論じる人には会ったことがありません。

事実、国家格上げが承認されて以降も、自治政府の財政難は続いており、省庁・学校・大学・病院など基本的なサービスを提供すべき機関の職員にも、数ヶ月間給料が払われておらず、省庁や西岸・東エルサレムの公立校でストライキが毎月のように起こっています。東エルサレムで一緒に働いているパレスチナ人の医師も、「スルタは別名サラタ(サラダを指すアラビア語)と呼ばれているのを知っているか。ごちゃまぜのサラダのようだからだ。それに彼らは学校に何かを与えるどころか、お金や備品を取り上げることしか考えていない。この設備のない学校や汚い道路を見れば分かるように、支援は来ているはずなのに、彼らは自分のポケットにお金を入れることばかり考えて、医療や教育など最低限必要とされるものさえ提供していない」と言っていました。

また、JVCの取引先銀行がベツレヘムとラマッラーにあるので毎月通っていますが、国家承認以降、新しいモニュメントや時計台が作られているのを見るぐらいで、失業と生活苦の問題は改善されておらず、実際に国家承認が生活の向上に結び付いているという実感はありません。ベツレヘムもまた、分離壁と観光業の停滞によって西岸の中でも一段と失業率が高く、人々の顔はいつも暗く、外国人を見掛けると皆なんとかお金を引き出そうと必死になっています。

むしろ、ガザ地区の方が、行政と警察がきちんと機能しており、生活が大変な中でも、人々が将来を見据えて地道に活動しています。ガザは、ハマース政権になって欧米政府や日本政府からボイコットされ、イスラエルとエジプトによって封鎖され続けていますが、ガザのほうが東エルサレムや西岸に比べて物は豊富で物価は安いですし、人々も安心して暮らしているように見えます。と言っても、産業の破壊されたガザでの失業率は32%と依然高く、現金収入のない人々の生活苦は深刻です。その根本には封鎖と占領と制裁の問題がありますので、そうした問題の解決に結びつかない限り、国家への格上げはモニュメントと国連の座席だけの象徴的なものに終わるでしょう。

国連加盟の申請を祝う集会の様子。西岸地区ラマッラー、2011年9月国連加盟の申請を祝う集会の様子。西岸地区ラマッラー、2011年9月

(2)(1)にかかわりますが、イスラエル政府は、自治政府のオブザーバー国家格上げへの対抗措置として、代行徴収した税金の送金を停止していますが、そのことの影響についてはいかがでしょうか?

(1)に書いたとおり、国家への格上げ以降も自治政府の財政難は続いており、それによってストライキが頻発しています。そこに税金の送金停止が打撃を与えているのは間違いないです。イスラエル政府は、学校でストライキがあるたびに、送金の一部解除を宣言したりしています。

しかし、これに関連してもう一つ大きな問題があります。それは米国政府の対応です。イスラエル政府による送金停止ばかりが注目されますが、実際は、オバマ政権下で、米国の公的援助であるUSAIDの送金が停止されたり、減額されたりといったことが起こっています。USAIDは、オスロ合意以降、パレスチナ自治区を対象に40億ドルを投じており、援助の停止や減額の影響は少なくありません。また米国政府は、パレスチナをメンバー国家として認めたUNESCOへの拠出額を全面的に撤退したため、UNESCOでは印刷用紙さえ買うのも苦労していると耳にしました。占領と分離壁の違法性についてイスラエルを国際刑事裁判所に訴追するという動きについても、米国・英国・日本などが反対しており、パレスチナ人が真の独立と自由を獲得するまでの道にはいまだ多くの困難が待ち受けています。

西岸地区各地で進むUSAIDの援助事業西岸地区各地で進むUSAIDの援助事業

(3)この間、入植地建設がかなり加速していますが、現地で生活したり、仕事をする上で、実際に影響が厳しくなったと感じた点はありますか? この数年の変化として特に気づいたことがあれば、お聞かせください。

入植地問題は、残念ながら西岸・東エルサレムの日常となっており、それがこれまでよりも厳しくなったと感じることはありません。しかし、東エルサレムに住むようになって、入植地問題というのがパレスチナ人にとってどういう意味を持つ問題なのかということを実感するようになりました。というのも、私の自宅近所にも宗教右派の入植地が建設されており、また一軒、また一軒と、ユダヤ人の住む家が増えており、自宅の方に少しずつ近づいてきています。それは、静かにゆっくりと真綿で首を締め付けられているような感覚です。

ユダヤ教の安息日である土曜日になると、入植地の方から爆音でヘブライ語の音楽が聞こえてきて、彼らの存在を意識せざるをえません。西エルサレムで聞いたらなんとも思わないヘブライ語の音楽を、東エルサレムで聞くとここまで感覚が違うのかと驚き、最近は恐怖すら感じます。また、自宅裏のエルサレム市が運営する駐車場で工事が始まった時も、「もしかしたら入植地ができるじゃないか」と恐怖しました。結局、駐車場の整備だけで終わったのですが、それ以来、もしそこが入植地になって入植者から嫌がらせをされるようになったら、家賃の高い東エルサレムで他の場所に移り住むのは簡単ではないし、一体どうすればいいのだろうかと悩むようになりました。外国人の私ですらそうですから、エルサレムの居住権をいつ奪われるか分からないパレスチナ人が、入植地の拡大から大きなストレスを受けているのは間違いないでしょう。

東エルサレムのパレスチナ居住地区内で進む入植地建設。2008年東エルサレムのパレスチナ居住地区内で進む入植地建設。2008年
最近改修工事が終わった、自宅裏の駐車場。2013年最近改修工事が終わった、自宅裏の駐車場。2013年

(4)昨年行われた地方選挙では、ラマッラーやナブルスでファタハ主流派が敗北しましたが、そのことで何か変化を感じることはありましたか?

地方選挙の結果を追っていないので何とも言えませんが、選挙で何かが変化したというよりも、すでに起こっている変化が選挙の結果に出たということだと思います。選挙の結果は、ファタハ主流派以外の政党への期待が高まっているというよりも、自治政府とそれを支えるオスロ体制そのものへの失望感が高まっていることの表れではないかと思います。

そして、そういった失望感の高まりには経済的要因が大きく作用しています。西岸の失業率は以前21%と高止まりしたままなのに、税金はイスラエル側に合わせなければならないために、消費税16~17%という、一般市民の経済力に見合わない高税率になっています。自治政府はまた、「国造り」の一環として、電気水道代や税金の徴収への動きを強めています。他方で、学校や病院の予算・人員不足は深刻なままで、道路の修復さえままならなりません。西岸地区では、分離壁や入植地や入植者バイパス道路を避けて移動するため、思いのほか移動に時間がかかりますが、他方でガソリン代はイスラエル側とほぼ同じ、1リットル150~160円となっているため、交通費も馬鹿になりません。国際援助でプロジェクトが実施される時だけ一瞬状況はよくなりますが、占領状態はそのままで、構造的な問題も全く解決されないので、住民の不満は高まるばかりです。

エルサレムとベツレヘムを分断する入植地(奥)と、建設が制限され、道路整備も不十分なパレスチナ人居住地区(手前)。東エルサレムにて、2013年エルサレムとベツレヘムを分断する入植地(奥)と、建設が制限され、道路整備も不十分なパレスチナ人居住地区(手前)。東エルサレムにて、2013年

そういった実生活での苦しみや不満が、自治政府を運営するファタハ主流派への不満・失望となって出てきたのだろうと思います。パレスチナの一般市民の今の本音は、「パレスチナの大義は大切だが、それだけでは飯は食えない」というところだろうと私個人は感じています。まずは自分の生活をなんとか良くしようという方に関心が移ってきているので、地方選挙もまた、地元の利権(例えば、誰が援助を持ってこれるか)や家族関係が思いのほか作用しているのだろうと、あくまで想像の域を超えませんが、そう感じています。

学校の校庭まで食い込んだ分離壁(写真右)。生徒たちは、この越えられない壁を眺めて毎日を過ごす。西岸地区アナーターにて、2013年1月学校の校庭まで食い込んだ分離壁(写真右)。生徒たちは、この越えられない壁を眺めて毎日を過ごす。西岸地区アナーターにて、2013年1月

人々の生活から見たパレスチナの今(2)に続く)

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