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お別れ。続く歴史

パレスチナ現地代表 福田 直美
2010年5月14日 更新

今年3月、パレスチナに短い春が訪れていた時、私がパレスチナに来てから一番大きな「お別れ」がありました。

大好きだったおばあちゃんが、亡くなりました。ベツレヘムにあるベイト・ジブリン難民キャンプに住むそのおばあちゃんは、72歳でした。10歳の時、今はイスラエル側となっているベイト・ジブリン村から追われ、彼女がベイト・ジブリン難民キャンプに住み始めてから60年以上が経っていました。

壊されたモスクの中には、おもちゃのピアノが捨てられていた壊されたモスクの中には、おもちゃのピアノが捨てられていた

生前、おばあちゃんの家にお茶を飲みに行くと、村を追われた当時の話を何度もしてくれました。ある日、平穏な毎日が破られ、頭上を戦闘機が飛ぶ日々が続き、洞窟の中で夜を過ごしたこと。すぐに帰ってこられると思って、勉強道具の入ったかばんを持って逃げたこと。そのかばんにはアヒルの刺繍があったこと。一日でも早く、学校にまた行く日を思っていたこと。その後、ジェリコやヘブロンなどを転々として、今のベツレヘムにある難民キャンプに住み始めたこと。

村がどんなに美しい場所だったかということも教えてくれました。ローマ帝国時代の遺跡が今も美しく残っていること。水源も豊かな平地が広がり、野菜や果物だけでなく、小麦もとれたこと。その小麦でつくった焼きたてのパンは本当においしかったこと。オリーブの木は樹齢千年を越えるものもあったこと。ずっと昔から使われていた、大きな石臼のような道具で、ロバを使ってオリーブを挽き、オリーブオイルを作っていたこと。おばあちゃんの家ではアヒルや牛を飼っていたこと。そして、またその美しい村に帰りたいという願い。ハーブやオリーブの木の匂いをまた嗅ぎたいという願い。

古い建物の内側から見る光景は、きっと62年前と同じくらいのどか古い建物の内側から見る光景は、きっと62年前と同じくらいのどか

おばあちゃんが亡くなって数週間後のよく晴れた日、ベイト・ジブリン村に行って来ました。野山が一気に緑となり、赤や黄色の花が一面に咲き乱れていました。今、その村のあった地域はイスラエルの自然公園となり、そして「ベイト・グブリン」というキブツ(イスラエルの社会主義的な共同農場。1948年に壊されたパレスチナの村に建設されているものも多い)が建設されています。キブツの中に入り、ベイト・ジブリン村の当時から残る古く美しい石造りの建物やオリーブの木の木肌を撫でながら歩き、みかんを木からもいだり、ハーブの一種であるマラミーヤ(セージ)やザーター(タイム)を摘んだりしました。

2002年に分離壁が建設され始めて以降、難民キャンプの人々は彼らの家族が生まれたこの村に、訪れることもできません。壊され一部だけ残っているモスクの中の壁には、分離壁が建設される前にここを訪れた村出身の人々が残した彼らの名前や「私たちはまたここに戻ってくる」というメッセージがたくさん書かれていました。しかし、そのモスクや、使われておらず放って置かれたままの古い建物には、ゴミも投げ込まれていました。人が住み続けていれば、きっと今日まで美しい建物のままだったのに。62年前まで、どんな人たちがどんな生活を送っていたのだろう、と想像します。今、この風景の中に、きっとおばあちゃんはいるのでしょう。そんなことを思いながら、ゆっくりゆっくり歩きました。そこに薫っていた春の風を届けるために、ちょっとしなびてしまったけれどもそのマラミーヤとザーターを、後日、おばあちゃんのお墓に持って行きました。

彼女の存在は、彼女の家族だけでなくキャンプの人々にとっても、ある意味、難民として、パレスチナ人として生きる人の「象徴」でした。そして私にとっても「パレスチナのおばあちゃん」でした。おばあちゃんの思いは、子ども、孫、ひ孫へと受け継がれていきます。

1948年、イスラエルが建国された際、今はイスラエルとなっている地域から多くのパレスチナ人が追われました。当時75万人といわれ、今は約710万人(Badil発表(2009年)。UNRWA=国連パレスチナ難民救済事業機関登録の難民は470万人)となった難民は、62年前のパレスチナに戻ることをずっと願っています。その「ナクバ(イスラエル建国の際、土地を追われ難民として生きることになったパレスチナ人の「大惨事」を意味する)」を知る世代がひとり、またひとりと亡くなっていく時代。その62年前のパレスチナへの思いを次の世代へと受け継ぐ人々。お葬式やその後のセレモニーでは、次々と訪れる人々がその思いを語りました。その様子を見ていて、これは、過去のことではなく今も続く歴史なのだと実感しました。おばあちゃんの包み込むような優しい笑顔を思い出すと、パレスチナの人々だけでなく、彼らと一緒にいる私もまた、その語り継がれる歴史の証人だという責任を感じるのです。

キブツの中で。歴史を知る古いオリーブの木と古い建物は、静かにそこに居続けるキブツの中で。歴史を知る古いオリーブの木と古い建物は、静かにそこに居続ける

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