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避難生活を余儀なくされている人びとへの支援

イラク事業担当 原 文次郎
2009年9月18日 更新

今の治安とイラク避難民の状況

JVCは、2007年よりイラク国内で治安の悪化により避難を余儀なくされた人びとへの支援を行っています。2006年に内戦状況と呼ばれる最悪の状態であったイラク国内の治安の状況も、その後はいったん落ち着きを取り戻して来たと言われていました。しかしそれでもイラク国内で避難生活を続ける人びとが元の場所に戻り、元通りの生活を安心して営める状況にはなっていません。

2009年7月末よりイラク駐留米軍が市街地からの撤退を始め、イラク国軍やイラク警察が代わって治安を守ることを期待されていますが、それにはまだ十分な能力を持っておらず、 今もなお、各地で爆破事件が起き、一般市民の犠牲者を生むような事態は終息していません。

アンバール県の避難民たちとJVCの支援

JVCがこれまで食料支援を行ってきたイラク西部のアンバール県ファッルージャ市も近郊の地域を含めて引き続き1,400世帯を超える人びとが避難民としての生活を続けています。IOM(国際移住機関)の調査によると、これらの人びとの多くはバグダードの出身で、治安が改善されれば出身地に戻って生活することを希望しているとされていますが、バグダードの治安も相変わらず不安定で、これらの人びとがすぐに戻れる状態ではありません。

イスラーム教徒が大多数の国であるイラクは8月22日よりラマダン月に入りました。断食月と呼ばれることもあり、日中は食事はもちろん水を飲むことも禁止です。しかし、一般の人びとは日没後の断食明けの食事をとても楽しみにしており、家族で食卓を囲み、盛大に祝うのが習わしです。しかし、避難生活を送る人びとにとってはその日その日の暮らしが精一杯という状況です。

そんな避難民の家族の助けになるようにと、ラマダン入り直前の8月18日から21日にかけての4日間にJVCはファッルージャ市内6箇所の地区で食料配布を行いました。

今回の食料配布に先立って、7月から避難民家族の家庭を訪問するなどして、ファッルージャ市内の避難民家族の状況を観察してきた食料支援のモニタリング担当で地元出身者のHさんの報告を聞くことができたので、彼の報告からいくつかの避難民家族の様子を紹介します。

1.建築途中の古い病院のビルに住む家族(ファッルージャ市中心部ナザール地区近隣)

2006年以降の、内戦状態と言われる治安が最悪の時期にバグダードから避難して来た家族が、建築途中の古い病院ビルに住み始めた。一番多い時期には25世帯が住んでいたこのビルに、現在は9世帯が住んでいる。1世帯の人数が5−6人なので、9世帯で50人前後になる。

もともとが建築中の建物のため、水道の配管などもまだ通っておらず、水道水は手に入らない。水や食べ物は近隣の人びとや、住み家としてこの建物を利用することを黙認している建物の持ち主がたまに寄付をしている様子だが、子どもたちに下痢の症状が出るなど環境は良くない。

子どもたちの中には学校に行っていない者もいる。学校に行くのも男の子が優先で、女の子が学校に行っていないことが多い。公立の学校は学費が無料だが、制服や学用品やカバンなども必要となるとそれなりの出費が必要になるので、安定した仕事の機会もなかなかない避難民の人びとにとって子どもたちを学校に通わせることの経済的な負担は大きい。また、食べものにも困っている場合には、子どもたちが働き手になるという事情もある。

このビルに避難民が住みだした始めの頃には地元の医師がボランティアで訪問検診をしていたようだが、最近はそのような機会もあまりないと言う。

ビルの所有者は戦争により中止されていた病院ビル建築を再開したいので、現在住んでいる避難民には他の地区に移って欲しいと希望しているが、避難民には他に行くところがない。このビルは個人所有で、ビルの持ち主が比較的理解のある人であるのでまだましな方だ。他の地域で公共施設に避難民が住んでいる場合は、強制的に退去させられている例もあると聞く。

2.寡婦の家族(ファッルージャ市内南部ハイ・アッリサーラ地区)

夫が病気で亡くなり、残されたのが妻と5人の子どもたちという家族。

バグダードで武器を持って異なる宗派の人びとを襲う民兵の脅迫を受けたほか、夫を失った後の生活のめどが立たないという経済的な不安や、子どもたちを守れないという安全面での不安があり、バグダードを離れ、亡くなった夫の家族を頼りにファッルージャに避難して来た。最初は親戚の家に居候していたが、避難生活が長引いたので、その親戚の紹介で今の家を借りることになって移り住んだ。

子どもたちも最年長が10歳とまだ幼いが、幸いにも健康状態は良い。この家族が住んでいる家は二部屋だが、部屋には屋根がなく、代わりにビニールシートで覆っている状態。家には水道は通っておらず、表通りの配管から盗み取るような状態で手に入れるしかない。

家賃のために月当たり7,500イラクディナール(約50−60米ドル)の費用がかかる。この家賃や生活費を工面するために、母親は自宅で枕の仕立て直しの仕事をしたり、近所のスーパーから無料で譲り受けた清掃用具を持って隣近所の清掃の仕事を引き受けるなどして働いている。そんな彼女に対して人々は仕事を与えたり野菜を分けたりして支えているという。それでも家賃を払うのが精一杯で、なかなか食費までは十分には回らないし屋根を修理することもできないと言う。細々とでもがんばって働いて得たお金を食費より家賃に優先して回し、粗末でも独立した家に住んでいるのはなぜか。

この家族を訪問したHさんは、他人様のやっかいにならず、独立して何とか生きて行こうというのがこの家の主であり母親であるイラク女性としての、人間としての誇りなのだと言った。

3.小学校の用務員の家族(ファッルージャ中心部、ナザール地区)

小学校に住み込みで暮らしている用務員と妻、三人の子ども(一人は乳児)の家族。

この小学校はファッルージャ市民が米軍に対する憎しみを抱く発端になった大きな事件である、2003年4月の米軍による学校占拠と、これに反対する市民に対する発砲事件が起きたその現場である。現在の名前はアッショハーダ校(Al-Shuhadda School)と言う。アラビア語で「殉教者」の意味だ。

二人の子どもたちはその学校に通っている。この家族はもともと同じアンバール県内のラマディに住んでいたが、危険を感じてファッルージャに移り住んできた。子どもたちは学校に通うことができるし、住み込みで学校の用事のために働くことで住居や仕事を確保できているので現在の生活の方が良いと感じている。

手押し車の荷台に商品を置いて、学校の子どもたち向けにチョコレートなどのお菓子を売る小売店などもやっているが生活は苦しく、JVCの食料配布の支援対象者のリストに入っている。学校の水道の配管から生活用水を確保しているが、水質が悪く飲めないので、飲料水はお金を出して買っている。家のトイレは自分で作ったと言うが、下水の排水がないので、衛生上問題がある。下水道のシステムが完備していないことはファッルージャ市内全体の問題で、市当局が改修を進めているが十分でない。

避難民の人びとの状況を聞いて

Hさんの話を聞きながらも思い当たるのは、避難民の人びとが今もなお置かれている生活状況の厳しさと、それに対して効果的な対策を講じることができないでいるイラク政府および地方自治体の能力のギャップが大きいことです。そのすきまをJVCのようなNGOや人道支援団体が埋めようとしても、まだまだできることには限りがあります。やはり最終的にはそのような状況を変えていこうとするイラク人の政府レベルの政治な意志が必要で、それを国際社会が支える事が必要です。

そのために私たちのNGOが現地の人びとの声を伝え続けることに意味があると思います。このような厳しい状況の中でも、支援に頼ることが中心になりながらも何とか懸命に、また誇りを持って生きて行こうとする避難民の人びとの姿、そしてその人びとにわずかながらでも手を差し伸べようとしている地域の人びとの姿に、将来への希望を感じます。

折しもこの原稿を書いている今日は、9月11日の悲劇から8年目の日です。この事件を契機に始まった「対テロ戦争」と言われる戦いとイラクは直接の関係はありませんが、戦争を戦うことで平和がもたらされるのではなく、戦争によってもたらされる悲劇の方が大きいのだということを、今なお避難生活を送る人びとの様子を聞くにつけても重く感じます。


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