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イラク・ブリーフィング 第4号

イラク事業担当 原 文次郎
2006年7月29日 更新

陸上自衛隊撤収完了 vs 悪化するイラクの治安

 
<はじめに>

6月20日に小泉首相は陸上自衛隊をイラクから撤収させる方針を発表。陸上自衛隊はイラクからの撤収を7月7日より開始し、17日に完了しました。これにより陸上自衛隊は2004年1月からの約2年半に渡る活動を終了しました。

政府は陸上自衛隊によるイラク人道復興支援活動が一定の役割を果たし、活動目的を達成したと判断したとしていますが、この政策判断はいかなる根拠によってなされたものなのでしょうか。

JVCは、政府にイラクへの自衛隊派遣の評価を行い、公開することを求め、小泉総理大臣宛に「イラク自衛隊撤退に関する公開質問状」を送りました。

今回のブリーフィングでは、この質問状の内容をご紹介すると共に、自衛隊撤収とムサンナ県の治安維持権限が多国籍軍からイラク治安当局に委譲された(13日)一方で、イラク国内の他の地域で悪化する治安状況をバグダッドからの声を交えてお伝えします。
 
■INDEX■
【1】イラク自衛隊撤退に関する公開質問状
   (7月19日内閣総理大臣あて)
【2】イラクからの声(バグダッド 7月17日)
【3】ニュースピックアップ 〜最近の動きから〜

【1】イラク自衛隊撤退に関する公開質問状(7月19日内閣総理大臣あて発出)−要旨−

(公開質問状の全文は長文になるので、ここでは要旨のご紹介とさせていただきました。全文は「イラク自衛隊撤収に関する公開質問状」に掲載しています)

内閣総理大臣 小泉純一郎 殿

      イラク陸上自衛隊撤収に関する公開質問状

6月20日、日本政府はイラク南部サマーワ地域における陸上自衛隊の部隊を撤収させることを決定し、7月17日最終部隊がクウェートに到着したことで2004年1月からの約2年半にわたる活動を終了しました。

政府は、撤収理由として、1)イラク人自身による政府が立ち上がったこと、2)地域の治安の権限がイラクの新政府に移譲されたこと、3)復興支援活動が一定の役割を果たし活動目的を達成したと判断したことを挙げています。

日本政府がイラクに自衛隊を派遣することを決定した際、私たちは、イラクの現場で活動してきた国際協力NGOとして、日本政府がすべきことは「イラクの「復興」を正しい軌道に乗せること」ではないかと疑問を呈させて頂きました。この重要な政策判断を検討する上で、考慮すべき事は、イラクに派遣される自衛隊が復興支援活動を行える「能力」があるかではなく、現場の状況に照らしてイラクの人々が最も必要としていること、すなわち治安を回復しながらイラク人が主体となって日常の経済生活を取り戻すという目的を達成するために、陸上自衛隊が「適切なアクター」であるかどうかが問われるべきではないかと訴えました。私たちは、今でもその疑問が解消できずにいます。

政府自身が認識しているように、今回の派遣は、多額の資金を使い、また日本の国際社会への平和貢献のあり方を大きく転換させるほどの重大な事例です。陸上自衛隊の撤収、すなわち「復興支援活動」の終了に際しては、当該住民のみならず、日本の納税者に対して、今回の「派遣」の事後評価を果たすことが、民主的で透明性のある政府として当然行うべき説明責任行為ではないかと考えています。できましたら、公開討論会、あるいはタウン・ミーティングという形で、市民・援助関係者など多様なステークホルダーと対話を行う場を設けて頂けないでしょうか。そして、今回の自衛隊部隊の撤収を機に、ぜひとも政府から自衛隊派遣がイラクに及ぼした影響や効果を評価し、公開して頂きたいと思います。

加えて、25年以上にわたって国際協力活動を行ってきたNGOとして、そのような評価を行うに際しては、1)「復興支援」活動自体の評価、2)紛争予防・平和構築に関する政府の理念及びビジョン、3)今後のイラク支援のあり方、の3つの観点から行って頂きたいと思います。そして、その評価を政府内部だけで行うのではなく、イラク人や関係NGO、納税者の意識など、何からの影響を受けるすべてのステークホルダーから意見を聞き、包括的な評価として頂きたいと思います。以下に、評価項目として含めるべき項目を質問の形式で提示させて頂きましたので、評価の際の一助にして頂ければ幸いです。よろしく、お願い申し上げます。

(注:ここでは質問の一部と項目のみを掲載します。
   詳しくは「イラク自衛隊撤収に関する公開質問状」をご覧ください)
 
1.「復興支援」としての評価
  1)「復興支援」という言葉の定義に関して
  2)「支援」のインパクトについて
  3)「支援」の効率性について
  4)「支援」の持続性について
  5)「支援」の妥当性について
  6)透明性及び第三者評価について
 
2.紛争予防・平和構築に関する政府のビジョンについて
 紛争後の復興支援を行う際にも、再発を防ぐ紛争予防の視点やビジョンを持つことが重要であることは言うまでもないことです。その意味で、復興支援は、紛争予防との間で一貫性ある理念と原則の下で取り組まれなければなりません。従って、自衛隊派遣による「復興支援」を行う際にも、イラクにおける紛争予防、特に悪化する治安状況に対する視点を含めた包括的なイラク問題解決のビジョンが日本政府にも求められます。イラク全体の紛争予防や治安回復に対するビジョンがない中で、復興支援だけ行っても問題の根本的解決にはなりません。また、サマーワ地域だけを考えれば良いのではなく、ましてや自衛隊だけが安全であれば良いという考え方は、国際社会に受け入れられるものではありません。その観点から、イラク全体で治安が悪化し、「戦争状況」にも等しい現在の状況に対して、その主たる原因はどこにあるとお考えでしょうか?自衛隊も含めた外国軍の「介入」が、イラクの治安状況の悪化や紛争助長を招かなかったのか、しっかりとした分析が必要です。

(中略)

日本が今後、平和構築や紛争予防で国際社会の中でどのような役割を果たそうと考えているのか、その観点から、イラクにおける日本の対応、特に自衛隊派遣は適切であったのかどうか、改めて分析し、評価すべきだと考えます。
 
3.今後のイラク支援について
 小泉首相は、撤収に際しての談話の中で、今後の支援のあり方としてPRTへの参加について言及しています。これまでも、日本政府は、「車の両輪」という言い方で、自衛隊とODAの一体的な支援を行ってきました。しかし、自衛隊という「軍」による支援とODAという文民による支援が「一体」となることに対して、十分な考察・検討が行われたわけではありません。少なくとも、日本の市民に対して、明確な説明はありませんでした。「軍」が復興支援活動を行うことの問題点のみならず、「軍」が文民と協力・連携して活動を行うことについてはまだ議論途中であり、具体的な問題事例も報告されています。PRTの効果や問題点について、日本政府はどのように認識しているか教えてください。そして、現在のイラクの現状を踏まえて、なぜPRTが有効な手段であると判断し、日本がどのような形で参加する可能性があると判断されたのか、根拠を教えてください。また、既に具体的な支援内容を検討中であるならば、その内容も教えてください。

以上のように、自衛隊による「復興支援」には、様々な論点があり、まだまだ議論が必要です。上記のような問題点の整理と明確な説明がない限り、自衛隊による「復興支援」が安易に正当化されるべきではないと考えます。ましてや、詳細な事後評価もないままに、「派遣した」という事実だけをもって国際平和協力に関する恒久法を策定することは、それを合理的な政策判断として国内外の理解を得ることは困難でしょう。自衛隊撤収を機に、イラクへの自衛隊派遣という政策判断の正否も含めて、改めて派遣の意味と効果をしっかりと検証し、国会等の公開の場で議論を行って頂きますようお願い申し上げます。

以上

(特活)日本国際ボランティアセンター

【2】 イラクからの声(イラクの人々の声を直接拾い、お届けします)

 
6月17日 バグダッドの住民Aさん(50代 元タクシー運転手)
− この日、日本の陸上自衛隊は撤収を完了 −

(バグダッド現地時間17日夜9時台)

「ちょうど今、停電で照明が切れていて真っ暗です。小さな子どもが怖がって泣いています。バグダッドはここのところ最悪の状態です。きょうはニューバグダッドで商店の店員が撃ち殺されました。息子が隣人宅に駆け込み、父親の遺体を回収しようと近所の人々が集まったら、今度はその遺体に爆弾が仕掛けてあって、爆発で9人が亡くなりました。爆発による犠牲者の中に私の親戚もいますが、危なくて葬式にも行けない状態です。本来は人が亡くなった場合は親戚一同集まって故人をしのぶならわしなのにそう言ったこともできず、少人数で遺体を埋めるのがやっとのことです」

「バグダッド市内や近郊の地区では民兵同士の戦闘が激しくなっていて、イラク警察にも止められない。警察が戦闘に参加している場合さえあります。私の家の近所でも最近撃ち合いがあったけれども、その時もイラク軍はただ見ているだけ。後から、なぜ止めに入らなかったのかと聞いても、兵士は中央政府の指示がなく介入できないと言っていました。こんな調子なので、息子もこの2週間ずっと家にいて外出できていません。買い物にもおいそれと行けない状態です」

「病院にもたくさんの民兵がいて、敵対する宗派や部族の患者がいると、連れ出して危害を加えています。それによって亡くなる人も少なくないのです。遺体を受け取ろうと遺体安置所に行こうとしても、安置所の周辺がまた危ないので簡単に近づける状態ではありません」

「家から外出できないので、バグダッドで囚われの身の囚人のような気分です。もちろん女性も外を出歩けません。店も開いていません。7月以降、食糧配給も滞っています。このような調子では弾で殺されるのでなくても飢え死にや病気で死ぬということもあるのではないかと心配です」

治安が悪いバグダッド市内。人通りがほとんどなく、地元の人々が自衛のためにバリケードを築く。治安が悪いバグダッド市内。人通りがほとんどなく、地元の人々が自衛のためにバリケードを築く。

【3】ニュースピックアップ

今回は陸上自衛隊撤収に関連して、主に治安関係のニュースを選んでいます。これ以外にも車爆弾による爆破で17日にバグダッド南方のマハムディヤで50人以上、18日にイラク中部クーファで59人以上が亡くなる事件が起き、いずれもシーア派を標的にしたものと言われています。バグダッドからの報告でも毎日のように爆破が聞こえ、地域ごとに自警団で警備している状態ですが、それでも23日には市内サドルシティーの市場で爆破事件が起き、買い物客ら40人が死亡と伝えられています。
 
■ディヤーラ県の治安責任がイラク軍に移管
(7月05日付サバーフ・ジャディード紙(イラク)HP1面)【東外大PRMEIS】

【バグダード:本紙記者】イラク軍がディヤーラ県の治安責任を委任され、ハミース軍事基地では公式式典によって多国籍軍からの移管手続が行われた。イラク軍第5師団が治安責任を完全委任された同県は、バグダード市の東端からイランとの国境まで、面積はおよそ7万平方マイル、およそ170万人が住む。

第5師団司令官は、この師団が様々な宗派のイラク国民から構成されていること、また、同県に治安をもたらしテロリストらに打ち勝つ能力があることを強調した。
 
■ムサンナー県の治安権限、イラク軍に完全移譲
(2006年07月09日付アル・アハラーム紙(エジプト)HP1面)【東外大PRMEIS】
 
*イラク軍への治安権限完全移譲が初めてムサンナー県で行われる
*エジプトは国民和解計画実施のためマーリキー首相に協力を表明

【バグダード:ムハンマド・アル=アンワル、ワシントン:諸通信社】イラク軍は昨日、イラク南部ムサンナー県における治安権限の完全移譲を受けた。同じころ、米海兵隊の上級将校たちが、イラク市民を米海兵隊員が虐殺したとされる昨年のハディーサ事件の調査を怠ったことを確認する報道がアメリカで出された。

イラク駐留多国籍軍のクルト・シコウスキ参謀本部副部長は、ムサンナー県でイラク軍が治安権限の完全移譲を受けたことを公表し、これを皮切りに近い将来、イラクの他県においても同様の措置が続くだろうと述べた。
 
■サマワ治安権限を移譲 イラク戦後初、英軍撤退へ
(7月13日 共同通信)

【サマワ13日共同】イラク南部サマワを州都とするムサンナ州で13日、治安維持上の権限が英軍とオーストラリア軍からイラク側に移譲された。戦争と米国主導の占領統治後、州全域の包括的な治安権限がイラク側に引き継がれたのは初めて。多国籍軍は同州から撤退し、今後はイラク警察と軍などが治安維持を担う。
 
<解説> (JVCイラク担当 原文次郎)

これまで、地域単位での治安権限の委譲は部分的に行われて来ましたが、県単位の治安権限が完全委譲されるのはムサンナー県が初のケースと言われています。しかし、報道の通り5日に治安権限が委譲されたとするディヤーラ県(バグダッドから北東方向)においても、その後、イラン系の武装勢力が横行し、イラク警察が取り締まりに手を焼き、米軍が戻り始めているとの話をバグダッドの知人から伝え聞いています。治安権限がイラク側に委譲されたとしても、予断を許さない状況が続いています。
 
■スンニ派標的、40人殺害 イラクで宗派対立激化
 (7月9日 共同通信)

【カイロ9日共同】イラクの首都バグダッド西部で9日、イスラム教シーア派の武装集団がスンニ派教徒を標的に銃撃し、ロイター通信によると、子供や女性を含む約40人を殺害した。首都の住宅地で組織的な銃撃によりこれほど多数の市民が殺害されたのは異例。イラクで宗派対立が再び激しくなるのは必至だ。(以下略)
 
■6月のイラク死者数、戦後最悪の1日平均100人超
(7月19日 産経新聞)

イラクで宗派対立などにより死亡したイラク人の数が、6月の1カ月間で3149人となり、一日平均100人を超え、イラク戦争終結後、最悪となった。18日の米紙ワシントン・ポスト(電子版)などが報じた。

イラク保健省とバグダッドの遺体安置所の報告を基に、国連がまとめた統計によると、今年1月から6月までの半年間のイラク人死者数は累計で1万4339人に達した。(共同)

*【東外大PRMEIS】と明記されているニュースは、東京外国語大学、中東イスラーム研究教育プロジェクト「日本語で読む中東メディア」より一部引用をさせていただきました。全文をお読みになりたい場合は出典元のサイトをご参照ください。

 
<発行> 日本国際ボランティアセンター(JVC)イラクチーム
<編集責任者> JVCイラク担当: 原 文次郎
 
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