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イラク・ブリーフィング 第3号

イラク事業担当 原 文次郎
2006年7月 4日 更新

〜 陸上自衛隊撤収はイラクのできごとのごく一部 〜

                
<はじめに>

6月19日、イラクのマリキ首相は、多国籍軍(英軍・オーストラリア軍)が握るムサンナ州の治安権限が7月にイラク側に移譲されると発表しました。その翌日、20日に日本の小泉首相は陸上自衛隊を撤収させる方針を発表しました。

7日夕刻に米軍の空爆により「イラク聖戦アルカイダ組織」を率いて大規模な無差別テロを続けていたとされるアブムサブ・ザルカウィ容疑者が殺害され、テロ組織による報復攻撃を抑えるためとして、14日にはイラク軍、イラク警察、多国籍軍は首都バグダッドで大規模な武装勢力の掃討作戦を展開しました。

また、マリキ首相は25日に「国民和解計画」を発表し、武装勢力の恩赦を含む方策を打ち出して対抗勢力を政治プロセスに取り込み、治安の安定を図ろうとしています。

これらの試みが成功を収めればイラクの治安の安定が図られるとの期待もありますが、実際にイラクの人々から聞こえて来る声は、これまでの期待にもかかわらず、一向に安定しない治安状況への恐れと生活基盤の復旧状況に対する不満の声です。

これを踏まえて考えますと、陸上自衛隊の撤収方針決定というニュースは日本から見ると大きな出来事に見えるかもしれませんが、依然として多くの問題を抱えているイラクから見ればごく一部の出来事に過ぎません。今回のブリーフィングではあえて、日本の陸上自衛隊撤収報道から隠れて見えないイラクの現状に関わる記事を選んでみました。

イラクからの陸上自衛隊撤収に関するJVCコメントは近日中に発表し、次号でお届けする予定です。

■INDEX■
【1】イラクからの声(6月20日バグダッド)
【2】ラマディ攻撃によりファルージャ危機の再来の懸念(NCCI週報より)
【3】ニュースピックアップ 〜最近の動きから〜
   (1)政治プロセス/治安関係
      − イラク首相の「国民和解計画」発表(25日)
      − 治安状況(死者数、国内避難民)
      − 治安状況(掃討作戦)
   (2)保健・医療分野

【1】イラクからの声 (イラクの人々の声を直接拾い、お届けします)

6月20日 バグダッドの住民Sさん(53歳)− 日本では陸上自衛隊撤収が発表された日「ここ数週間で治安情勢が好転することを期待していたけれども、そうは行かず、ひどい状態です。爆破、戦闘、誘拐事件、殺戮が続いています。」
 
「私の家から3km先の地域センター(集会所やモスクなどがある)までの間に4つの検問所が設けられています。2箇所はイラク軍の設置したものですが、イラク警察が設置した検問所はありません。検問所ではスンニ派の人々を見つけると、お金を手に入れるために身柄を拘束して民兵のグループに売り渡します。身代金の相場はいろいろですが、裕福な家族からは5万ドル(約600万円)を取ることもあります。」

「別の方向では市場から1kmの距離のところで4箇所の検問所があります。
車を止められると、そのつど車を降りて身分証明書のチェックを受けなくてはいけません。この地域の場合はイラク警察が設けた検問所ですが、警察犬によるチェックもあります。」
 
「検問所が本物であるか、にせものであるかはわかりません。身代金のために人々を誘拐する不法なグループによって設置される、移動式の一時的な検問所もあります。」

「シーア派の武装集団は人々を誘拐します。スンニ派の武装集団は誘拐は行いませんが、爆破事件を引き起こします。」

「バグダッド市内の夜間外出規制は夜8時半から朝6時までですが、みんな夜8時には外出を控えて家に居ます。インターネットカフェに行くのも午前中にしています。エアコンがないので、午後は暑くてたまりません。」

「電気は4.5時間待ってやっと1.5時間来るという調子です。その1.5時間にしても、5分や10分刻みに断続的に12回も切れました。電気が来ないとポンプで貯水槽に水も汲み上げられないので、水が使えるのも夜間の1.5時間程度がせいぜいです。それでも昼間よりましです。
水は汚いので、飲料用には一度沸かしてから使っています。」

「停電の合間にテレビでワールドカップサッカーの試合を見ています。地上波のローカルテレビ局が中継を流しています。きのうチュニジアとスペインの試合を見ました。イングランドの試合はこれからです。」

「日本軍(訳注:彼の言葉で英語で"Japanese Army")の撤退の決定はほとんどのテレビ局で伝えられています。これらの報道を通じて、バグダッドの私たちは日本軍が給水や病院への機材提供、道路の補修などの支援をしたことをみんな知っていますし、これらの支援を歓迎しています。米英軍などの他の外国軍は、イラクの人々に銃を向けて生活を脅かしていますが、日本軍はそういうことをしていないので、そういう意味での歓迎です。」

<解説> (JVCイラク担当 原文次郎)
バグダッド市内の治安状況、生活基盤(水、電力など)の状況が相変わらず改善していない様子が伺えます。そのような中でも何とかワールドカップの試合中継を見るなど、イラク人も結構したたかな面があります。サッカーの試合をまともに視聴する場合は有料の契約をしなくては見ることができないはずなので、中継を流しているというローカル局は特殊な手を使っている可能性があります。これを認めるかどうかは別の問題ですが、イラク人も結構たくましいところがあると言えるかもしれません。自衛隊の評価は、もともとイラク人の間に日本イメージが良いことが基本にあり、その上でバグダッドの住民の場合は、直接自衛隊に接している訳ではないので、テレビ局による報道のイメージが評価を高めていると思われます。

【2】ラマディ攻撃によりファルージャ危機の再来の懸念(NCCI週報より)

イラクにおけるNGO調整委員会(NCCI)発行の週報(6月15日発行)の編集者前書き部分(原文)を下記の全訳でお届けします。
現在進行中のラマディの危機とバグダッドの状況を理解するためには必読です。

ラマディに何の準備か?
ほとんどのメディアがアブ・ムサブ・アル・ザルカウィの死、ジョージ・ブッシュ米大統領のバグダッド訪問、または大宣伝されているバグダッドでの「共同前進作戦」(Operation Forward Together)に焦点を合わせている。
一方で、ラマディからは非常に懸念される報告が届いている。ラマディ市の内外で、大規模な軍事作戦の準備状況が伝えられている。先週の金曜日(訳注:6月9日)、激しい戦闘と爆撃が市内で起こった。すでに2,300家族以上が避難をしていると伝えられており、民間人が主な戦闘の犠牲者になっている。なぜなら、民間人は治安維持部隊と武装勢力の双方に脅かされているからだ。ラマディの主要な病院への通行はまだ可能ではあるが、住民にとって困難で危険になっている様子だ。

2004年11月のことを思い出してみよう。ファルージャへの激しい攻撃(2004年11月7日に始まった「亡霊の憤怒作戦」(Operation Phantom Fury))に先立つ数週間前から同様の軍事的な準備策がみられ、約3,000家族が避難をしたと伝えられている。それから部隊は「モスクの街」を包囲し通行を遮断し、病院を占拠し、逃げ出そうとした15歳から55歳の間の年齢のすべての男性を逮捕した。部隊は1ヶ月以上、いわゆる「抵抗勢力」と戦った。伝えられるところによるとこの戦いは街の建物の60%を損壊し、うち20%は完全に破壊、その中には60の市内のモスクやほとんどの道路が含まれている。市の人口(30万人)のほとんどすべての人々が避難をした。1ヶ月が経つまでの間、人道支援が入ることがまったくできなかった。

これから数週間中のラマディで何が起こることが予想されるのか?新しい人道的な危機が見込まれるのか?

大規模な避難民の発生が確実に予想される。ラマディの人口数の見込み(40万人)はファルージャの人口より大きく更に重要である。まして、ラマディ市や市の属する州はすでに3年に渡る戦争によって損傷を受けている。そして、住民はすでに生存を脅かされ、危険な目に合わされている。避難民を受け入れる地域社会の支援能力や状況に対応する仕組みは疲弊している。2004年には多くのファルージャの人々はバグダッドに逃れ、そこには首都バグダッドからの「個人による輸送支援」に主に表されるような広範囲の連帯があった。(訳者注:バグダッドや周辺地区に逃れたファルージャからの避難民に対してバグダッドの人々が住居や支援物資を提供するなどして助け合いの結束がみられたことを指す。)

今回の「共同前進作戦」では首都バグダッドからの支援の多くを通さないだろう。避難民の受け入れ先と見込まれるバグダッド市内の地域社会も、ラマディからの避難民を受け入れることができないだろう。なぜなら内務省が指定する、バグダッドの主な“ホットスポット”(戦闘地域)は、(ファルージャやラマディなど)アンバール県から逃れてきた人々をかつて受け入れてきた地域に当たるからだ。

(2004年のファルージャ危機の際と、現在予想されるラマディ危機には)他にも重要な違いがある。今回は季節が夏であるということだ。つまりイラク中部では気温はセ氏約60度にもなる。人々が逃げ出す場合、他に選択肢がない場合には主に砂漠に移動することになる。非食料物資(食料以外の日用品など)、食料、水は手に入るのか、あるいは事前にそこに用意しておくことができるのか? 何度も、そして大声でのNGO共同体から国連に対するアピールにもかかわらず、緊急時対応の計画は更新されず、実行可能なものになっていない。ドナー機関に対する騒々しいほどの要望にもかかわらず、いまだに中立で十分な緊急基金が用意されない。政治のゲームに忙しく、イラク政府はこのような緊急事態に対応する準備ができていない。またECRC(緊急事態に際して対応と調整を行うセクション)もまだ存在していない。

莫大なニーズに対応する準備に取り組もうとして現場にいるNGOは数少ない。しかし、軍事作戦はどの程度の期間続くのだろうか? 実際、NGOや受け入れが見込まれる地域社会が現在持ちうる手段をもってしても、ラマディの住民を十分な期間に渡って支援することはできないだろう。

いま再び、ラマディの住民が犠牲を支払うことになる。どれくらいの期間、彼らがそのような状況に耐えることができるだろうか?

【3】ニュースピックアップ

* 今回のニュースのうち、【東外大PRMEIS】と明記されているニュースは東京外国語大学 中東イスラーム研究教育プロジェクト「日本語で読む中東メディア」より一部引用をさせていただいています。全文をお読みになりたい場合は出典元のサイトをご参照ください。

(1)政治プロセス/治安関係
イラク首相の「国民和解計画」発表(25日)
■ 国民和解イニシアチブ発表
(6月25日付サバーフ・ジャディード紙(イラク)HP1面)【東外大PRMEIS】
ヌーリー・アル=マーリキー首相は「国民対話と国民和解のためのイニシアチブ」を発表した。
このイニシアチブの主要点は、「戦争犯罪とテロ犯罪以外の犯罪者への恩赦」「バアス党排除手続きの見直し」「各派民兵の解体」「政治プロセスに参加してこなかった勢力との対話」の4点に集約される。

■ 和解と国民対話計画文書(国民和解イニシアチブ文書の全文)
(6月25日付サバーフ・ジャディード紙(イラク)HP1面)【東外大PRMEIS】

■ 武装勢力への恩赦提案イラク首相が国民和解計画 (6月25日 共同通信)
イラクのマリキ首相は25日、イスラム教スンニ派とシーア派との宗派対立による殺し合いなどが続く治安情勢の打開に向け、スンニ派武装勢力への恩赦を盛り込み、武装闘争の放棄と政治参加を促す「国民和解計画」を連邦議会に提出した。

■ スンニ派の大グループがイラク首相の国民和解計画を支持
 Large Sunni group backs Iraq's reconciliation plan
(International Herald Tribune紙 6月27日 英文)
火曜日にスンニ派のアラブ人の大グループがイラク首相の提案している国民和解計画を支持した。そして首相の代理人は秘密裏にスンニ派の支持を取り付け、抵抗勢力を押さえつけるためにヨルダンで秘密裏に亡命中のスンニ派のリーダーたちと会合を持った。(冒頭部分訳)

<解説> (JVCイラク担当 原文次郎)
イラク首相の国民対話計画は、悪化する治安状況を打開するために、これまで現政権に敵対するか、政権への参加の機会を持てなかった主にスンニ派の勢力を政治対話のプロセスに載せることを狙っています。スンニ派の一部からはこれを支持する声が上がりましたが、スンニ派武装勢力への恩赦についてはシーア派を中心に反対の声が上がり、「各派民兵の解体」などの方策については実効性が疑われるなど前途多難な状況です。また、テロリストは恩赦の対象にならないとされていますが、米軍への攻撃を行っているテロリストとその他の武装勢力の区別が難しいだけに、米国議会の一部からこの「国民対話計画」に対する批判の声が上がっていると伝えられて います。(27日付けワシントン発共同通信報道など)

治安状況(死者数、国内避難民)
■ 今年の5ヶ月間で約6,000人の死者
(6月8日付アル・アハラーム紙(エジプト)HP1面)【東外大PRMEIS】
今年の始め以来、バグダード中央検死所に約6,000人の死体が搬送され、死者のほとんどは宗派間暴力により命を落としたものであることが、イラクの公式な統計により確認された。同じ頃、アメリカ上院は国防省(ペンタゴン)に対し、昨年11月に海兵隊員が故意に24人のイラク人市民を殺したハディーサ虐殺事件の調査結果を早急に公開するよう求めた。

■ テロ逃れ15万人避難 イラク、国連が懸念表明 (6月27日 共同通信)
【カイロ27日共同】国連イラク支援団(UNAMI)は27日、中部サマラで2月に起きたイスラム教シーア派聖廟(せいびょう)爆破事件後、宗派対立の激化などによって住居を追われた国内避難民が計15万人に達したとする声明を発表、懸念を表明した。
 (中略)
声明は、避難民の拡大が地域や宗派を問わず全土で続いていると指摘。米軍とイラク軍による武装勢力掃討作戦もこの傾向を助長しており、中部ラマディでは過去2週間だけで約3,200人が避難を余儀なくされた。

治安状況(掃討作戦)
■ バグダッドで掃討作戦へ 米イラク軍合同、夏にも(4月16日 共同通信)
【ロンドン16日共同】16日付の英紙サンデー・タイムズは、米軍がイラク軍と合同で、バグダッドで武装勢力などに対する新たな掃討作戦を計画していると伝えた。
同紙は「第2のバグダッド解放」作戦と報じている。
 (中略)
イラクの新政権樹立に合わせ立案。今夏の終わりごろをめどに実施し、新政権の基礎固めにつなげたい考えで、成功すれば今年末からの米軍撤退に展望が開けるという。

■ イラク政府:バグダッドで大規模掃討作戦 報復攻撃阻止で(6月14日毎日新聞)
【カイロ高橋宗男】イラク政府は14日、テロ組織「イラクの聖戦アルカイダ組織」指導者、ザルカウィ容疑者の死亡を受けての同組織による報復攻撃を阻止するため、バグダッドで大規模掃討作戦に着手した。ブッシュ米大統領は14日の記者会見で、この作戦にイラク軍2万6000人、イラク警察2万3000人、米軍など多国籍軍7,200人が投入されていると説明した。03年のイラク戦争後、バグダッドでの軍事作戦としては過去最大規模。

<解説> (JVCイラク担当 原文次郎)
6月14日からバグダッドで展開されている武装勢力の大規模掃討作戦が、【2】のラマディ情勢に関するNCCI週報の冒頭文でも触れられている「共同前進作戦」(Operation Forward Together)に当たります。この作戦が以前から計画されていたことを示すために4月の記事も合わせて引用してみました。イラク新政府は治安の安定を図るとして、このような作戦を展開していますが、軍事作戦の強行によって更なる治安の悪化がもたらされることが懸念されます。

(2)保健・医療分野
■保健当局、スタッフが殺害、拉致の対象となっている事態に違和感を表明
(6月4日付サバーフ・ジャディード紙(イラク)HP1面)
(6月4日付サバーフ・ジャディード紙(イラク)HP1面)【東外大PRMEIS】
保健省筋の発表によると、この3日間でバグダードや他県の各地での事件により11人の職員が殉職し、20人が負傷した。殉職者と負傷者の多くは省内の技術作業部門に属する救急救命科で働くスタッフであり、同筋は国民にサービスを提供している医療・技術系の人材までもが殺害、拉致の対象となっていることへの違和感と驚きを表明した。

<発行> 日本国際ボランティアセンター(JVC)イラクチーム
<編集責任者> JVCイラク担当: 原 文次郎

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