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2016年7月20日

南スーダンの首都ジュバ、戦闘は終わったけれど・・

JVCスーダン現地代表 今井 高樹
2016年7月21日 更新

「これ、見てみなよ」
差し出されたスマホの画面を見ると、赤土の広場のような場所に敷かれたビニールシートの上に、累々と兵士の死体が横たわっています。別の写真は一般市民なのか、Tシャツやズボンにべっとりと血が付いた人々の遺体が、土中の穴に折り重なり、今にも埋められようとしています。
「みんな、ジュバから送られてきた写真だよ」
私が言葉もなく写真を見ていると、スーダン人の友人は少し気まずいと思ったのか、 「これ、こういう写真がね、WhatsAppで回ってくるんだ」
そう言いながら、スマホの画面を閉じました。WhatAppはスーダンの若者の多くが利用しているソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)です。

南スーダンの首都、ジュバで7月7日からの5日間に起きた戦闘は、ここスーダンでは連日新聞のトップで伝えられました。スーダンと南スーダンは5年前まではひとつの国、今も数万人のスーダン人がジュバに住んでいます。情報は、新聞、テレビ、口コミ、そしてSNSで、いち早く入ってきます。
ジュバに自衛隊が派遣されていることもあり、日本でもこのニュースは大きく報道されたようです。しかし、なにぶんにも遠い国。マスコミ各社も日本では情報が入手しにくいのでしょう。
「戦闘の様子はどうだったのでしょうか?270人が亡くなったと伝えられていますが」
ジュバに3年間住んでいた私にも、日本の新聞社から国際電話が入ってきました。
「いえ、とてもそんな数では済まないのではないでしょうか」
南スーダン政府が発表した270人という数字が実態を反映せず、ほんの一部でしかないことは現地にいた多くの人が指摘しています。各所で道路に散乱する死体が目撃されており、欧米メディアのインタビューに答えたあるNGOスタッフは「犠牲者は千人に達するのでは」と話していました。現地は雨季でもあり、スマホの画面で見たように、死体は腐敗する前にすぐに埋められてしまいます。正確な犠牲者の数は、永遠に分からないことでしょう。

大統領派の軍と、副大統領派の軍(元反政府軍)とによる戦闘は、戦車や武装ヘリコプターが動員され、ロケット砲など重火器が使用された激しいものでした。ジュバ西郊にそびえる「ジェベル・クジュール」(魔女の山、の意)の裾野にある副大統領派の拠点を中心に、戦闘は空港付近や市内各所で行われ、避難民が駆け込んだ国連の保護施設までもが巻き込まれました。避難民の多くは、副大統領と同じ民族グループ、ヌエル人です。これに対して、大統領派の兵士の多くはディンカ人。「保護施設の中に副大統領派が逃げ込んでいる」として、大統領派は保護施設に砲弾を撃ち込み、多くの死傷者が出ました。避難民には、もはや逃げ場もありませんでした。
両軍による直接の戦闘だけではありません。戦闘が収束してからの人々の証言で、この5日間に兵士、あるいは平服をまとい誰かも分からない武装グループが一般市民の住居を襲撃し、住民を射殺し、略奪を働いていたことが明らかになりつつあります。その際に、特定の民族グループがターゲットにされたとも言われています。
市場、商店はいち早く略奪されました。国連が援助物資を保管している倉庫も狙われました。物流の大動脈であるウガンダ国境からジュバに向かう道路では積み荷を狙った車両への襲撃が横行しています。ジュバ市内の食料不足は深刻で、避難民への支援活動にも影響が出ることは必至です。

「統一政府が発足したばかりだというのに、どうして戦闘になってしまったのですか?」  
新聞記者の方から、そう尋ねられました。 昨年8月、大統領派と副大統領派(当時の元反政府派)との間で結ばれた和平合意に従って、暫定統一政府が樹立されたのが4月の終わり。まだ3か月も経っていないのです。
戦闘が再発した理由は様々でしょうが、ひとつには、重要事項を巡って統一政府内で両派の対立が収まらず、亀裂が深まっていったことです。重要事項とは、以前の記事(南スーダンはどうなっているのか?-自衛隊「駆け付け警護」の議論に思うこと(1))に書いた「28州問題」であり、最近では国会議長の人選でした。政府の機能不全が続くうちに国の経済状態はますます悪化し、インフレ率は世界最悪の300%、財政難による公務員・兵士への給与の遅配・未払いが常態化していました。統一政府に対する失望と不満が高まり、一部の地域では兵士が住民を襲撃・略奪する事件も発生していたのです。
もうひとつの大きな理由は、和平合意の核心とも言える「ジュバ非武装化」が実施されなかったことです。和平合意によれば、ジュバから半径25キロ以内は非武装化され、その中には正副大統領の護衛、首都の警備隊など軽武装で少数の兵士だけが駐留するはずでした。しかし、大統領派の軍はジュバから完全には撤収せず、戦車や武装ヘリコプターまで残していたのです。そこに、副大統領派の軍が入ってくることになりました。非武装化は、絵に描いた餅だったのです。

ジュバに電話をしてみました。
なかなかつながらず、携帯電話の電波塔まで破壊されたのか・・と悪いことが頭をよぎりましたが、単に回線状況が悪かったようです。何度か掛け直して、ようやくつながりました。
「心配ない・・こっちは大丈夫だ」
 電話口に出たのは、サイモンさん。JVCがジュバで活動していた当時のスタッフで、JVCから現地の団体に引き継いだ車両整備工場(兼、職業訓練施設)の工場長です。彼の家は、戦闘があったジェベル・クジュール一帯からさほど離れていません。
「何日間も、家から一歩も出られなかった・・今はもう落ち着いた。兵士は駐屯地に戻った・・工場のスタッフは全員無事だ」
通話は途切れがちで、こちらの声も聞き取れないようです。「みんな大丈夫だ」を何度も繰り返していたのは、私に心配をかけたくないからでしょう。
同じく元スタッフのタバンさんの携帯電話は、すぐにつながりました。音声も、会話ができるレベルです。
「ああ、おかげさまで、こっちは家族そろって大丈夫だ」
電話口からは、子どもたちの声も聞こえてきました。
「ジュバの様子はどう?あちこちで戦闘が起きたって聞いたけど」
「なんだって?ジュバがどうなっているかだって?」
急に、タバンさんの声の調子が変わりました。
「そんなことは政治家に聞いてくれ。どうしてこんなことになったんだ?オレが聞きたいくらいだ」
怒ったようにまくしたてる口調に、思わずたじろぎました。
「みんな、身勝手な政治家のせいだ」

身勝手な政治家の争い-多くの人々からそう呼ばれる戦闘は、数多くの犠牲者を出した末、7月11日の夜に両派が停戦宣言を出して収束しました。拠点を破壊された副大統領とその軍隊は、ジュバ市外に撤退したと伝えられています。
国連は、約4万人の市民が避難したと発表しました。既に避難先から自宅に戻る人たちがいる一方、再び襲撃される恐怖から、決して戻れないという人たちも少なくありません。いったんは銃声がやんだジュバですが、これがいつまで続くのか、誰もが不安に感じています。統一政府の行方も混とんとしたままです。
戦闘を再発させないために、国連安保理やアフリカ連合では、南スーダンへの武器輸出規制、PKO部隊の増強、ジュバの非武装化の徹底などが議論されています。しかし、外部からどんなに介入しようとも、当事者同士の信頼が回復しない限り状況が安定することはないでしょう。
現地にいない私には、当面は推移を見守ることしかできませんが、機会を見てまた状況をご報告したいと思います。

お知らせ:一時帰国する今井の「出前報告会」はいかがでしょうか?

「スーダン日記」執筆者、今井は1年に3回程度のペースで日本に一時帰国しています。その機会に、皆さんのご近所、学校、サークルの集まりなどに今井を呼んで、「出前報告会」はいかがでしょうか。セミナーや学校の授業からお茶を飲みながらの懇談まで、南スーダン情勢とPKO、紛争地での人道支援、スーダンの生活文化などをお話しさせていただきます。日時や費用、また首都圏以外への出張についても、まずはご相談ください。
メール:info@ngo-jvc.net  電話:03-3834-2388

ジュバの元JVC車両整備工場は、現地の団体に引き継がれて今も運営されている。幸いにも今回の戦闘での被害はなかった。写真は昨年撮影したもの。後列左から3人目がサイモン工場長。ジュバの元JVC車両整備工場は、現地の団体に引き継がれて今も運営されている。幸いにも今回の戦闘での被害はなかった。写真は昨年撮影したもの。後列左から3人目がサイモン工場長。

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