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スーダン

スーダン、戦闘勃発から200日 ー活動再開までの障壁を越えー

みなさんこんにちは。スーダン事業担当の後藤です。

スーダンでの戦闘勃発から早くも半年、そして200日が経過しました。残念ながら戦闘はいまだに収束しておらず、首都ハルツームやダルフール地方、コルドファン地方を中心に混乱は続いたままです。

国連OCHA等の報告によると、犠牲者は9,000人以上、国内外に避難した人は580万人にものぼります。580万人、この数字は国民の約8人に1人が避難していることになります。

故郷、家、財産、全てを手放し命からがらで避難した先には十分な食料や働き先があるわけではなく、避難した人々は更に厳しい生活を強いられています。また、学校は避難民のシェルターとして使われており、少なくとも10,400の学校が閉鎖されています。

スーダンでは4月に戦闘が始まる前から、過去の紛争の影響等により既に700万人以上の子どもたちが教育へのアクセスを失っていました。今回の戦闘の影響によりスーダン全土で新学期は再開されておらず、このまま再開されなければ不就学児は1,900万人にものぼります。

多くの地域で教員への給与支払いも滞り、世界最悪の教育危機に瀕するといわれています。教育の機会を失った子どもたちは、児童労働や虐待、性暴力に巻き込まれるリスクが高まり、職の選択肢がない若者は兵士となり争いに加担してしまう現状もあります。

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戦闘がないポートスーダンでも兵士のリクルートキャンペーンが行われている

また、インフラや医療施設は破壊され、約70%の医療施設が機能しておらず、紛争による怪我だけではなく、持病や感染病の治療を受けることができずに亡くなっている方も数えきれない程多くいます(こちらの記事もご参照ください)

さらに治安の悪化や資金不足により人道支援のアクセスも阻まれ、十分な支援が届けられていません。物価・燃料の高騰、不足により人口の約30%にあたる約1,500万人が深刻な食糧不足に陥るといわれており、スーダンの人々は危機に直面しています。

JVC活動再開までの障壁を超えて

JVCの活動地、南コルドファン州にも首都ハルツームなどから多くの避難民が押し寄せました。さらにその後、南コルドファン州でも沈黙を保っていた反政府組織SPLM-Nが国軍に攻撃を仕掛け、戦闘が始まりました。

一時はJVC現地スタッフも避難を強いられたり、避難してくる親戚を受け入れていました。現地スタッフによると、しばしば戦闘機が飛び、ベッドの下で身を隠し、子どもたちは空爆や砲撃の音に怯えて泣き叫んでいたと言います。

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カドグリで戦闘に巻き込まれ、治療を受ける男性。一般市民の犠牲者もでた

4月に活動を一時停止して以降、一番のネックとなったのは銀行業務です。活動を進めるにあたって活動資金の送金、口座間両替、引き出しが必要となりますが、スーダン各地で銀行が閉鎖され、そうした業務が困難になりました。

職員への給与の支払いも滞る中、現地代表の今中が一時退避していた日本から紅海沿岸都市ポートスーダンへ入りました。

中央銀行含む複数の銀行の本部やNGOの活動を調整する人道援助委員会(HAC)がポートスーダンへ移転していたためです。さらに国連や多くのNGOも本部をハルツームからポートスーダンに移動させて、活動を再開しています。そうしてやっと諸々の問題がクリアされました。

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9月には活動地カドグリの4地域で教育の重要性についてドラマ(演劇)を通して伝える啓発活動を実施し、子どもから大人まで計1,600人以上の住人が参加しました。授業開始前には教員研修も実施し、21人の教員が参加し授業の指導法や教材の作り方などを学び、やっとのことで授業を開始することができました。

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ドラマ(演劇)による啓発活動には多くの住民が集まった

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教員研修でのグループワーク。暑い中、ずっと停電が続いているため木陰で取り組んだ

子どもたちへの心理的サポートも

補習校は不就学の子どもたちが基礎学力を身に付け、正規校で教育を継続することを目的としていますが、活動地の子どもたち全員が戦闘を間近で経験してしまった今、ソーシャルワーカーを派遣し、心理的サポートにも力を入れています。スポーツ、お絵描き、歌・ダンスの時間もあり、子どもたちが楽しみながら学べる場所を提供しています。

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スポーツを楽しむ子どもたち。サッカーの他にバレーボールも人気

ソーシャルワーカーによる授業では「あなたの怖いものはなに?」というテーマで絵を描く時間がありました。色はカラフルでかわいらしいと思いきや、よく見ると戦車や兵士、銃など戦争に関わる絵を描いた子どもも多く、子どもたちはその小さな胸に、私たちには計り知れない大きな傷と不安を抱えていることが垣間見えました。

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ソーシャルワーカーの指導のもと、絵を描く子どもたち

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子どもたちが描いた絵。武器や軍車の他には蛇など自然豊かなカドグリの姿も

戦闘下の今だからこそ守りたい、子どもの教育機会!

先生がいて、友だちがいて、安心して勉強できる場所があることは、子どもたちにとっても、保護者にとっても希望です。補習校で勉強をした子どもは、「将来は先生になって、子どもたちに勉強を教えてあげたい」「医者になってこの地域のために貢献したい」と「誰か」のためになりたいと話します。こうやって希望のバトンは繋がれていくのだと思うのと同時に、自分も大変な状況にあるなか、「誰か」を思いやり頑張ろうとするスーダンの人々の強さと温かさに胸を打たれます。

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通学用かばんを受け取る子どもたち

教育が後回しにされがちな紛争下の今だからこそ、JVCは子どもたちの教育機会を、居場所を守っていきたいと思います。そして、一刻も早い停戦を願ってやみません。

紛争が起こっている国は、危険で暴力的なイメージが先行してしまいがちですが、市民のほとんどの人々は争いを望んでいません。度重なる紛争・政変で生活が苦しい中、助け合い、地道に、粘り強く努力を積み重ねています。

時間が経つにつれて、メディアでもなかなか取り上げられず、国際社会からの関心は薄れてしまう一方ですが、引き続きスーダンに心を寄せていただけますと幸いです。

現在、投票数によって拠出金額が決定する「フェリシモ 地球村の基金」に参加しています。JVCスーダン事業への応援投票(No.5)を宜しくお願いします。

参考記事

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