REPORT

パレスチナ

ガザの声「ビルナージャの対象者に母子の被害者はいなかったよ!」

この間JVCのガザのパートナー市民団体であるアルド・エル・インサーン(AEI:人間の大地)スタッフは、JVCからの支援金をもとに、最も被害の大きかったガザ市シュジャイヤで特に支援が行き届かない私立の学校や、AEIのクリニックで避難している人々等の診療と物資配布にあたっている。

完全停戦はなされていないが、ここ1週間で72時間停戦が2回あり、イスラエルの地上軍が撤収してから、報じられる一日あたりの死者数は減る傾向にある。「このまま停戦になるのではないか?」現地ではそういった声も聞こえ、避難している人々はわずかな希望を胸に、壊された家へ戻り、使えそうなものを探しているという。

また、市場やパン屋には、少しでも食料を買いこもうと、人々が列をなしている。値段はいつもよりかなり高騰しているという。トマトが1キロ60円だったところ、150-200円以上する。今やガザは戦争前の形を留めていない。イスラエルとの境界線にあった立ち入り禁止区域は以前の1.5キロから、更に1.5キロ内側に入り込み、そのエリアに農地を持つ人々が農地にアクセスできない、或いは自宅に帰れない状況も続く(※13日付で1.5キロエリアまで後退したとの情報があるが、実際農地へのアクセスは危険が伴い非常に厳しいとのこと)。

つまり、180万人の人が7キロ×34キロの狭いところに住み、農地から市場への農産物の運搬も滞り、水の確保もままならないことになる(下記:参考PDF)。国連人道問題調整事務所(OCHA)の発表によると、今回の戦争でのガザの被害は7億5千万ドル以上にのぼり、それに対して各国の支援金は3割しか集まっていない。

こんな暗澹とした日々の中、11日朝に私の元にガザのスタッフから嬉しいニュースが届いた。11日までに、JVCが2013年から支援している地域、ジャバリヤ市ビルナージャでの、支援対象者の母子に死者がいない事、家屋も含めて被害が少ないとの確認が取れたのだ。AEIスタッフは危険を顧みず、停戦の合間を縫って対象地域に通い安否を確認したり、電話したりしていた。

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2014年母子栄養改善事業事業地の11日の様子

対象者の子どもの父親1人が一昨日の空爆で殺されたが、ボランティア30人の女性の無事も全員確認された。12日までに、ガザ全土の死者は1,900人を超え、余りの被害の大きさに相変わらず悔しさがこみあげてくるが、それでもこうしたわずかな希望に私自身も救われる。久しぶりに嬉しくて涙が出てきた。もしかしたら、ある程度落ち着けば元の事業を再開できる。そんな見込みが出てきた。

AEIスタッフも嬉しそうだった。「ビルナージャの対象者に母子の被害者はいなかったよ!」プロジェクトコーディネーターで、この間自分も家を破壊されたアマルが言う。彼女自身しばらくAEI事務所に避難していたが、一昨日から借家を見つけて移り住み、本格的に仕事に復帰した。「私たちも無事だよ!日本の活動を時々Facebookでみてたよ!本当に色々有難う!」保健指導員のウンム・ヤヒヤとメイサも久しぶりに画像をオンにしたスカイプ(インターネット電話)の先で顔をのぞかせる。疲れ切ったように見えるが、確かな意志を持った目が見える。

自分たちも被害にあっているのに、他者を思う気持ち、活動する姿勢を忘れない。2012年の時もそうだったが、こういった彼女たちの働きに本当に頭が下がり、改めてガザの人々の強さ、優しさに触れる。人が人を思う気持ちはだれにも止められず、破壊も出来ない。ガザの人々はこうして生きてきたのだと思う。或いはこうして生き伸びる他に術がないのかもしれない。

正直なところ、完全停戦がなされていない中、ハマスやガザの人が訴えている封鎖の解除が実現する見込みは極めて低い。イスラエルにも封鎖解除を訴える人がいるが、地元ニュースで見る限り、極めて少数だ。実際、この間ハマスがイスラエルに向けて撃ったロケットはイスラエル最新鋭の迎撃システムによってほぼ撃ち落されたが、イスラエル人の間でのハマスへの不信感を増すには十分な量だった。ましてガザの180万人が自由に行き来できることになれば、更なるトラブルを生むのではないか?それが今の大多数のイスラエル人を取り巻く不安だろう。

ではどういう解決策があるか?暴力に頼らない完全非暴力の抵抗と対話、ガンジーのようになれと、正義もなく占領されてきた人たちに説くのはあまりに酷だと言う意見があるかもしれないが、JVCは長年その様に訴えてきた。
何故なら、パレスチナ全土での完全非暴力による抵抗と対話が、イスラエルの不正義に満ちた占領に言いわけを与えない戦略として、パレスチナ人社会を次のステージへと導く可能性を持っていると思うからだ。現地の封鎖解除にはまだ時間が必要だと思う。けれどいつの日か近い将来、ガザの自由が保障される日が来ると信じたい。そして今は、ただ目の前にいる強くて優しいガザの人々と歩んでいきたい。

執筆者

金子 由佳 (パレスチナ現地代表)

2011年、国際政治学部・紛争予防及び平和学専攻でオーストラリアクイーンズランド大学大学院を卒業。直後にパレスチナを訪れ、現地NGOの活動にボランティアとして参加。一ヶ月のヨルダン川西岸地区での生活を通じ、パレスチナ人が直面する苦難を目の当たりにする。イスラエルによる占領状況を黙認する国際社会と、一方で援助を続ける国際社会の矛盾に疑問をもち、国境を越えた市民同士の連帯と、アドボカシー活動の重要性を感じている。2012年6月よりJVC勤務。同年8月より現地調整員ガザ事業担当としてパレスチナに赴任。JVCのプロジェクトを通じて、苦難に直面する人々と連帯し、その時間・経験を日本社会と共有したい。

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