REPORT

スーダン

避難民住居の新設(2)建設現場を歩く

前回から続く)

6月、カドグリに出張した私が工事現場を訪れると、現場監督のファフミさんが迎えてくれました。ファフミさんはここで毎日、10人のウスタ(大工の親方)たちの作業をチェックしています。ウスタとして長い経験を積んだ人だと聞いていますが、何年くらいやっているのでしょうか。
「もう、50年になるかな」
「ご、50年ですか?」
これには驚きました。いったい何歳?50歳代くらいに見えますが。
「子どもの時からやっているぞ」

なるほど。大人の手伝いで働き始めた時から数えて50年程度ということなのですね。それにしても、とんでもないキャリアです。
「このあたりは地盤がゆるいから家を建てる時は気を付けなきゃならん。でも、十分な基礎工事をしたから心配することはない」
2年前に建設された230戸の避難民住居の南側と東側を取り巻くように今回の100戸は建設されます。ここは東側に向かって土地がわずかに傾斜しており、すぐ先は雨季には川が流れる低地になっています。つまり、前回の230戸よりも今回の100戸の敷地は低い場所にあり、恐らく地盤も柔らかいのでしょう。
「基礎工事はもう終わって、みんなレンガを積み始めている。ちょっと歩いて見てみるか」

          
                      (ムニールさんと、はいポーズ)

あちこちで、レンガの壁が途中まで積み上がっています。上半身裸のウスタが助手と一緒に作業しているので、近くで見ることにしました。

「こんにちは」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ」
カメラを持った私が近づいてくるのに気づいて、ウスタは慌てて青いシャツを着始めました。
「よし、これでいいぞ」
並んで写真を撮ると、ウスタのムニールさんはレンガの積み上げ方を教えてくれました。
「こういうふうにして、水準器を使うのさ」
粘土を水でこねたモルタルを接着剤のようにしてレンガを積み上げていきますが、垂直・水平に積み上がっているかどうか、常に水準器で確認しているのです。
「そら、見てみろよ」
レンガの水平面に水準器を置くと、空気の泡が真ん中で止まりました。水平になっている証拠です。
「どうだ」というような顔で、ムニールさんが笑っています。

 
 (左からファフミ、今井、JVCスタッフのアドラン)    (10人のウスタが、それぞれ10戸の工事を担当している)

ウスタたちの作業を見ながら歩いていくと、ビニールシートを張った1メートル四方の「池」がありました。
「粘土をこねたりセメントを混ぜたりする水だ」
遠くを見ると、給水車を引いたロバが見えます。何頭ものロバが、近くの給水施設(JVCが2年前に開設したウォーターヤード)から水を運んでくるのです。水だけでなく、ロバは石材やレンガなど様々な建設資材を運んでいます。現場に重機は必要なくとも、ロバは欠かせません。

          
                      (レンガ積みには水が不可欠)

工事現場の脇にある木の陰にお茶屋さんがありました。「ティー・レディ」と呼ばれる路上喫茶で、女性ひとりが炭で火を起こしてお湯を沸かし、あたりに椅子を並べて営業しています。紅茶やコーヒー、ケレケデと呼ばれるハイビスカス茶のほか、薬膳茶などもいれてくれます。
店を出しているのはマリアムさん。もちろん、工事現場で働く人たちが目当てです。
「どこに住んでいるのですか?」と尋ねると、
「ティロ・アマラだよ」
避難民住居から500メートルほど離れた集落です。話を聞くと、マリアムさんは2年前の230戸の工事中にも、作業員相手に店を出していたそうです。

               
                       (マリアムさんの路上喫茶)

「あの時の工事よりも、今の工事のほうがずっといいね」
「どういうことですか?」
「ちゃんと地面を掘って石を入れて固めて、その上にレンガを積んでいるだろう。前の時はね、ろくに地面も掘らずにいきなりレンガを積み始めたのさ」
2年前の工事を受注したのは首都に本社がある建設会社です。
「だからほら、2年も経たないうちに崩れてしまった家もあるわけさ」

現場を一巡して休憩所でひと息ついていると、既存の230戸の住民たちのリーダー、バクリさんが姿を見せました。休憩所といっても、実はバクリさんの自宅の軒先を借りています。
「バクリさん、久しぶりですね」
「やあ、よく来たな。ハルツームはどうだ?」
「雨は降らないし、暑くてかないません。カドグリのほうがよっぽどいいですよ」
挨拶を交わした後、バクリさんは私に同行しているJVCのスーダン人スタッフ、アドランを呼んで何か話をしています。話が終わるとアドランが私のところにやってきました。

「バクリさんが、建設中の家を1軒自分に譲ってくれないかって、尋ねています」
私は思わず笑ってしまいました。
「バクリさんは2年前に家をもらって、今も住んでいるじゃないか。もう1軒欲しいって言っているのかい?」
「いや、そうじゃなくて、新しい家のほうがしっかり工事をしているから、そっちがいいって・・」
「なるほど。残念だけど、それはできないな。それに、ここでJVCが『はい、バクリさんに1軒差し上げます』なんて決められると思う?」
「いや、できません。入居者は、州政府や国連と話し合って選ぶことになっています」
アドランは、バクリさんのところに戻って説明しています。バクリさん、ちょっとがっかりしているようです。

マリアムさんやバクリさんの反応から、今回の工事に対する住民からの評価が分かりました。簡素な住居ですが、現場監督のファフミさんが言う通り土台はしっかりしています。
「ファフミさん、工事はいつごろに終わりますか?」
「7月には終わるぞ。心配するな」

とはいうものの、50年のキャリアもなんのその、ファフミさんの予測はしっかりと外れ、工事はやや長引いて8月の半ばに終わりました。
次回は、着工から完成までの様子を写真でご紹介します。

(続く)

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