REPORT

スーダン

避難民住居の新設(1)業者は地元の大工さん

年が明けて2016年になりましたが、去年を振り返ると、私たちJVCスーダン事業の最大の仕事は、カドグリ郊外に新しく100戸の避難民用住居を建設することでした。
市内から東に約5キロ、ティロという地区には2013年度に国連が建設した避難民用の住居があります。レンガ造り、トタン屋根のマッチ箱のような家々が230戸。私たちはここに給水施設(ウォーターヤード)を設置、その後の様子はこの現地便りでも紹介しました。

しかし、カドグリ市内外にいる避難民は約5万人。空き地にビニールシートや木の枝で「囲い」を作って生活している人たちも少なくありません。「避難民の居住環境を少しでも変えられないか」「小さくても、家を提供できないものか」そんな要望を受けて、私たちはこれまでの230戸に隣接して新たに100戸を作ることにしました。州政府から建設の許可が下り、準備を始めたのは4月のことです。

          
                    (2年前の2013年に建設された避難民住居)

「で、建設業者とはもう契約したのかい?」ふかふかのソファに腰掛けたアブドラさんが、JVCスタッフのアドランにそう尋ねてきました。
カドグリ市内にある南コルドファン州政府、人道支援局の事務所。工事の準備状況について担当官のアブドラさんに報告しているところです。
「建設業者ですか・・業者は使いません」
「えっ?」
アブドラさんは驚いた顔をして、
「業者を使わずに、どうやって建設するっていうんだ?」
「いや、業者といえば業者なのですが・・10人のウスタに、10戸ずつ分担して建ててもらいます」
「ウスタ?」

「ウスタ」とは、日本語で言うなら大工の棟梁、親方といったところでしょうか。何人かの大工や左官、人夫を統率して、土木建設工事を行います。地元の人たちが家を建てる時には、自分で建てる場合を除けばウスタに注文します。
「ウスタねえ、またどうして?」
アブドラさんはもちろん「ウスタ」を知っていますが、まさかNGOが実施する建設工事で「ウスタ」を使うとは思っていなかったのでしょう。 「今回建てるのは、近代的な病院や大きな学校ではなくて、地元の人たちが自分で建てるのと同じレンガ造りの小さな家です。だから、大きな会社よりもウスタのほうが経験豊富で、しかもコストを抑えられます。会社に発注すると工事は下請け任せなのに値段ばかり高くなります」
「ふん」
「それに、ハルツーム(首都)から技師を送ってくるような建設会社より、地元のウスタたちに発注したほうが、地域のためにもなりますよ」
「なるほどそうかも知れないが・・しかし工事全体のチェックは誰がするんだ?」
アブドラさんはアドランの顔を覗き込んで言いました。

「知っているだろう。2年前の避難民住居建設は工事に問題があった。去年、雨が降った時に崩れてしまった家もあった。同じような間違いを起こしてはいかん」
「その点なら大丈夫です。ウスタは皆、地元の人たちです。この地域の地盤の特徴や、どうやったら頑丈な家を建てられるかも知っています。工事のチェックは、長年ウスタを務めた人を全体の現場監督として雇用します」
「うーん」

               
                    (2014年の大雨で崩れてしまった家)

アブドラさんはしばらく考えていましたが、
「分かった。だが、ひとつ条件を付けさせてもらおう。工事全体の最終チェックをするために州政府が技師を派遣する。そうだな、都市開発省から派遣するから、受け入れてくれよ」

こうして、ウスタによる建設工事が始まりました。

(続く)

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