REPORT

スーダン

操作係は女には無理?(3)

前回から続く)

10日間の研修が始まりました。

初日の今日は、ハリマさんもアワディヤさんもカラフルなよそ行きのトブ(スーダンで一般的な一枚布の女性の着衣)を着て水公社の事務所にやってきました。まだ学生のように見える若いムサさんも一緒です。JVCスタッフのアドランも付き添いに来ています。

「では、研修を受ける皆さんはこちらに集まってください」
担当の職員が、3人を部屋の中に案内しました。
「ええっ、あなた方、研修を受けるのですか」
女性二人を見て、職員は少し驚いたようです。


研修初日、操作パネルの使い方を学ぶ。カラフルな服装の二人ですが、後ろ姿の写真しかなくてすみません

「なんてこったい!」
とは言いませんが、顔にはそう書いてあります。研修参加者については事前に水公社に伝えてあるのですが、担当者にはそこまでの情報が届いていなかったようです。

少し待つと、エラそうな人が入ってきました。カドグリ地区の局長です。
「こちらの二人が、女性の参加者かね?」
と、アドランに尋ねてきました。もちろん、局長には事前に伝わっています。
「はい、そうです。ハリマさんとアワディヤさんです」
「そうか」
局長は二人の方を向くと、こう質問しました。
「皆さんは、今日は何のために研修に来たのですか?」
分かり切ったことを尋ねてきたので、アドランは少し驚きました。局長は、本当に二人の女性が技術研修を受けに来たのかどうか、確かめたいようです。
「ウォーターヤードを運転するためです」
アワディヤさんがハッキリと答えました。
「発電機の使い方とか、点検の仕方を勉強しにきました」
これには局長も疑問を挟む余地がありません。
「分かりました。では、しっかり頑張ってください」

研修の前半は、水公社の事務所での講義と、事務所の裏に設置された発電機で操作や保守点検の練習です。そして後半は、カドグリ周辺のウォーターヤードを巡回しながら操作員としての実習になります。最終日には自分たちの本拠地である避難民向け住居のウォーターヤードも訪問しました。

発電機小屋での実習。赤いタンクの下にあるエンジンの動力で電気が起こされ、井戸内部のポンプに送られる)


発電機の仕組みを説明)

10日間はあっという間に過ぎました。
「これで研修は終了です。皆さん、あとは自分のウォーターヤードに戻って経験を積んでください。分からないことがあったら、いつでも聞きに来ていいですよ」 講師役の水公社の職員はそう言った後、忘れずに付け加えました。
「でも、操作は男性の仕事ですから、女性は補助要員として男性が不在の時に操作をするのがいいと思います」
また、同じことを言っています。JVCハルツーム事務所のモナが聞いていたら、ちゃぶ台をひっくり返して怒りそうです。いや、スーダンにはちゃぶ台なんてなかったか。
しかし、ハリマさんとアワディヤさんは意に介す様子もなく、笑顔で研修を終えました。

JVCスタッフから研修の修了証を受け取るアワディヤさん)


左からムサさん、水公社の講師、アワディヤさん、ハリマさん)

それから何週間か経ちました。いちばん涼しい時期は過ぎ、徐々に気温が上がり始めています。
アドランがウォーターヤードを訪ねてみると、発電機小屋の扉が開いて、中でハリマさんが作業をしています。

「こんにちは」
入っていくと、ハリマさんは発電機のオイル交換をしていました。
「ハリマさん、そんなこともやるんですか?」
「いつもオイル交換しているアフマドが、しばらくハルツームの親戚のところに行って留守なのさ。今朝、アフマドの携帯に電話して『オイル交換しなきゃダメだよ』って言ったら、『じゃあ、頼むからやっておいてくれ』って」
「交換用のオイルはあったのですか?」
「それが、全部空っぽだったんだよ。でも、ロバ(が引く給水車)に水を売ったおカネが手元に少しあったからね。ウチの娘をカドグリの町にやって、オイルを買ってこさせたよ」
「はあ、娘さんに...」
小学生の娘さん、大活躍です。
「よし、これでいいね」


オイル交換を行うハリマさんとJVCアドラン

オイル交換が終わったようです。やがて、ド、ド、ドドドと音を立てて発電機が回り、ポンプの揚水が始まりました。
音を聞ききつけて、周りの家々からポリタンクを抱えた女性や子どもたちが飛び出してきました。ウォーターヤードは一気に賑やかになります。
「何なのよ、それ」
アドランから電話で報告を受けて、ハルツーム事務所ではモナが文句を言っています。
「男ってやっぱり無責任ね。女にはできないとか、補助要員だとか言っておいて、でも研修が終わってみたら今度は女性に頼りっきりじゃないの」
「はあ...」
いやはや、確かにそう言われても仕方がありません。

しかし、これで新たにハリマさん、アワディヤさん、そして若手のムサさんが操作係をできるようになり、ウォーターヤードの稼働が安定したのは確かです。
そして、男性たちの名誉のために書き添えると、その後はムサさんが操作係の中心を担うようになりました。そして、いよいよ水の需要がピークを迎える灼熱の乾季後半に突入していったのです。


暑さとともにウォーターヤードの利用も増えていく)

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