REPORT

スーダン

操作係は女には無理?(2)

前回から続く)

カドグリでは雨季が終わりを告げ、どこまでも青い空の下で例年になく涼しい乾季を迎えていました。家庭での水の需要もさほどではないらしく、ウォーターヤードの給水所は少し閑散としています。

給水塔の下で椅子に座っているのは、井戸管理委員会リーダーのブシャラさんと操作係のアフマドさん。JVCスタッフのアドランがその横に腰掛けました。


閑散としたウォーターヤード)

「で、アドラン、話っていうのは何だ?」
「はい、ブシャラさん。実は、井戸管理委員会のメンバーにウォーターヤード操作の技術研修を受けてもらってはどうかと思っています」
「研修か。そりゃいいな」
「はい。今はアフマドさんがほとんど1人で操作を行っていますが、このまえのようにアフマドさんが用事で外出してしまうと、代わりの人がいなくてウォーターヤードが止まってしまいます。このあと暑い時期が来て、ウォーターヤードが止まってしまったらみんな困ります」
「わかった。で、誰を派遣する?」

ブシャラさんはそう言って、アフマドさんの顔を見ました。

「そうだなあ...あっ、そうだ。最近、若いヤツがひとりハルツーム(首都)から戻ってきたじゃないか。ムサって言ったかな?」
「そうか。オレは会ったことがないけど、いいんじゃないか。ほかにはどうだろう?誰かいるかな」
「うーん、適当なヤツが思い浮かばないな...アドラン、全部で何人研修を受けられるんだ?」
「そ、そうですね...」

発電機小屋の中のアフマドさん)

アドランは、この男性ふたりには女性を研修に送り出す発想が全くないことに、改めて気づきました。ブシャラさんは以前、女性が門番をやることにさえ抵抗していましたし、アフマドさんも先日「操作は女には無理だ」と言っていました。でも、ここで引き下がるわけにはいきません。思い切って言ってみました。

「女の人じゃ、ダメなのでしょうか。門番をしてくれているハリマさんとアワディヤさんとか」

ブシャラさんとアフマドさんは顔を見合わせて、少し沈黙が続きました。

「いや、あの、ほら、男の人たちは何かと外の用事があって、忙しいじゃないですか」
アドランはしどろもどろになりながら、でも続けました。
「女の人だったら、ほら、だいたいは家にいますよね。子どもの世話もあるし。だから、女の人にやってもらうのも、いいんじゃないかと...」
「でも、実際に操作ができると思うか?」
「この前ハリマさん本人に尋ねてみたんです。そしたら、研修を受ければ大丈夫だって」

そんなの絶対無理に決まっているだろ、と頭ごなしに言われるかと思いましたが、意外にもブシャラさんは、少し考え込んでいます。男だけで運転してきて何度もウォーターヤードが止まってしまったので、さすがに「女はダメだ」で押し通す訳にもいかないと思っているのかしれません。

「ということは、男はムサ1人、女はハリマ、アワディヤの2人、合計3人が研修を受けるということか」
「そうなります」
「よし、わかった」

これで第一関門を突破です。アドランはすぐに研修の受け入れ先である州政府の水公社(State Water Corporation)を訪れました。

「というわけで、避難民向け住居の3人への技術研修をお願いしたいのです」

目の前に座った水公社のマネジャーは研修対象者のリストを見ていましたが、顔を上げて言いました。

「これ、3人のうち2人は女性ですよね。水公社が運営しているウォーターヤードには女性の操作員はいませんし、研修の対象は男性だけです」

ハッキリと、そう言われました。この研修は、本来は水公社が自分たちの操作員を訓練するもので、それを特別に住民運営のウォーターヤード操作員を対象に実施してもらうことになります。マネジャーは「操作員に女性は想定していない」と言っているのです。

しかし、アドランも食い下がります。

「いえ、ちょっと事情を聞いてください。ウォーターヤードがあるのは避難民だけの居住区で、住んでいるのはほとんど女性と子どもです。男性は数えるほどしかいません。男性しか操作できないのでは、ウォーターヤードが止まってしまうのです」

マネジャーは困った顔をして、「ちょっと待ってください」と言って別室に入っていきました。上司と相談しているようです。ほどなく戻ってきました。

「わかりました。今回だけは特例として認めましょう。でも」
「でも、何でしょう?」
「でも、女性はあくまで、男性操作員が不在の時の補助要員です。操作員は男が基本です」
どうしても「基本」にこだわりたいようです。
「分かりました」

アドランはそう返答しました。研修さえ終わってしまえば、あとは女性が操作しようが男性が操作しようが、井戸管理委員会の自由になるはずです。水公社の職員が避難民向け住居まで監視に来ることもないでしょう。
「では、よろしくお願いします」

つづく

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