REPORT

スーダン

操作係は女には無理?(1)

(前回「ハリマさんの集金簿」から続く)

ハリマさんとアワディヤさんが集金をしたおかげで、ティロ避難民向け住居の井戸管理委員会に少しの資金が入りました。発電機を操作するアフマドさんが、さっそく燃料の軽油を買ってきました。

「これで、しばらくは大丈夫だろうよ」
白いトタン板の小屋に設置された発電機に給油をすると、アフマドさんは脇についているハンドルを回し始めました。ハンドルは重いため、はじめはゆっくりと、そして徐々に勢いがついて回転が速くなると、ド、ド、ドドドと大きな音を立てて発電機が始動しました。


ウォーターヤード(揚水機・給水塔付きの井戸)。白い小屋の中に発電機がある)

「それ、アハマドさんが毎日動かしているんですか?」
脇で見ていたJVCスタッフのアドランが尋ねました。今日は、久し振りにウォーターヤードの様子を見に来ているのです。
「今はまだ涼しいから、毎日ってわけじゃないね。でも、これから乾季になって暑くなったら毎日動かさなくちゃいけなくなるな」

発電機で起こした電気は、すぐ脇にある井戸の中の電動ポンプに送られ、地下30メートルほどの深さから給水塔のタンクまで水が汲み上げられます。5,000リットルのタンクが1時間で一杯になります。これは15リットル入りのポリタンクで約330杯分。一般的な基準では70世帯分の1日の消費量に相当するとされますが、実際には雨季で気温が下がれば消費量もかなり少なくなります。避難民向け住居には現在150世帯が生活していますが、周辺にはウォーターヤードに加えて4台の手押しポンプ井戸もあるため、2日に1回くらい発電機を動かせば足りてしまうのでしょう。

しかし、雨が一滴も降らない乾季、とりわけ3~4月の暑い時期になれば話は別です。消費量が一気に増える上に、牧畜民に連れられた家畜も水を飲みに来るのです。昨年は、1日に5回も発電機を動かしたことがあります。
「誰か操作を交代してくれる人がいないと、アフマドさんが毎日毎日じゃ、このあと大変になりませんか?」
 というアドランの心配はもっともです。

「そうなんだよ...でも、やってくれそうな男がなかなか見つからなくてなあ」
「男じゃなきゃ、できませんか?しばらく前から、ウォーターヤードの門番は女の人が交代でやっていますよね」
「門番とはわけが違うぞ、アドラン。機械の操作は男じゃなきゃダメなんだ。あのハンドルを回すのだって、結構重いんだぞ」

「ハンドルが重いって、なに言ってるのよ」
カドグリ事務所のアドランから電話での報告を受けて、JVCハルツーム事務所ではスタッフのモナが不満たっぷりです。
「力仕事は女にはできないって言うんなら、どうして水汲みを女にさせるのよ。15キロのポリタンクを持って何キロも歩くことだってあるのよ。どうしてそれを男がやらないわけ?」
なるほどごもっとも...。
「こういうのをご都合主義って言うんだわ」
そう言いながら、電話口でアドランに話しかけました。
「ねえ、アドランはどう思う?発電機の操作は女には無理?」
「えっ...そ、それはちょっと」
「ちょっと、何よ」
「えーと、あ、女の人たちに直接聞いてみていいでしょうか。井戸管理委員のハリマさんやアワディヤさんに、今度会った時に聞いてみます」
「わかった。それがいいわ。JVCが決める問題じゃないものね」

それから数日後。
「ハリマさんやアワディヤさんに発電機の操作のことを聞いてみないといけないな」
アドランはそう思って、ウォーターヤードに出掛けてみました。二人が交代で門番をしているはずです。今日は、どちらが当番でしょうか...あれ?
どちらの姿もなく、ウォーターヤードの門が閉まってカギがかかっています。すぐに近所のハリマさんの家に行ってみました。


18馬力の発電機)

「ウォーターヤードが閉まっていますが、どうしたんですか?当番は誰ですか?」
「アタシだよ。でも、昨日からアフマドがいなくてね、発電機を動かせないから、タンクの水が空っぽなんだよ」
心配していたことが起きてしまいました。ハリマさんによれば、アフマドさんは避難民向け住居の世話役として郡役場に呼び出されていて、一日中戻らないのだそうです。
「みんな、今朝は発電機が動くんじゃないかと思って待っていたけど、もうあきらめて、少し離れた手押しポンプ井戸まで水汲みに行っているよ」

せっかく設置したウォーターヤードなのに、こうして止まってしまうたびにアドランは悔しさを感じます。
「あの、ハリマさん。ちょっとお聞きしますが、発電機の操作って、ハリマさんにもできると思いますか?」
「何だって?それだったら、ずいぶん前にブシャラが『研修を受けていない人は操作をしてはいけない』って言っていたじゃないか」
ブシャラさんというのは井戸管理委員会のリーダー(男性)です。
「つまりその・・・もし研修を受けたとしたら、操作ができると思いますか?」
「あいよ。教えてくれれば、何だってやるよ」
いたって簡単明瞭な答えです。
あとは、ブシャラさんに話してみなければ、とアドランは思いました。

つづく

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