REPORT

スーダン

いつのまにか井戸が...(2)

前回

週末をはさんで翌週の始め、アドランはマフムードさんに電話して、先週の井戸の視察について報告しました。

「そうだろう、2本しか動いていないんだ。分かってくれたか」
「でもマフムードさん、今まで村人が自分たちで修理してこなかったのは、どうしてなのでしょう?」
アドランは、修理が必要なのは分かったけれども、村人がどうやって井戸を維持運営していくのか、話し合ってほしいとお願いしました。
「そうか、話し合いをしなくちゃいかんな。でも、すまないが、今週もタフリには戻れそうにないんだ」

マフムードさんは、相変わらず忙しそうです。公務員だという話を聞いていましたが、「副業」として個人で商売をしていて、それに忙しいのかも知れません。カドグリでは、そうしたことは珍しくはないのです。

「だから話し合いをするのはちょっと無理そうだが・・井戸のことだったらシャディアという女性に会って話をしてみてくれよ」
マフムードさんには、「話し合い」の意味がうまく伝わらなかったようです。アドランは村人同士の話し合いをして欲しかったのですが、マフムードさんは「JVCがマフムードさんと話したがっている」と受け取ったようです。だから、自分の代理としてシャディアさんを紹介したのでしょう。

「シャディアさんというのは、誰ですか」
「タフリの住民だけれど、以前に井戸の研修を受けたことがあって、井戸のことをよく知っているんだ」

考えていた話の展開とは違ってしまいましたが、言われるままに、アドランはシャディアさんに会うためタフリに足を運んでみました。
小さな花壇に黄色い花が咲く庭先で、シャディアさんはアドランにお茶を入れてくれました。近所の人なのか親戚なのか分かりませんが、ほかの主婦たちも集まってきました。


丘のふもと、タフリ村)

「...というわけで、マフムードさんから、シャディアさんに会って話を聞くように言われてきました」
「そうかい、井戸の話かい」
シャディアさんは、少し思い出しながら話し始めました。

「あれは、いつだっけ、3年前の11月だね。私とほかに二人、合計三人が地区委員会から頼まれて、役場の水道局で、2週間ほど井戸の修理の研修を受けたんだよ」
3年前の11月というと、紛争が起きた後、やっと少し落ち着いた頃でしょうか。
「研修を受けた後、村の井戸を2本修理したね。でも、それっきりさ。その後は、去年も今年も修理はしていないよ」
「えっ、でもその間にも井戸の故障はあったんじゃないですか?」
「そうだよ。ほったらかしにするから故障もひどくなって、どんどん動かなくなっちゃったんだよ」
「その間、どうして修理しなかったんですか?」
「だって、タフリには井戸の管理委員会がないしね。交換部品を買うためのおカネを集める人がいなきゃ、修理だってできないよ」
「でも、それで皆さん困らないんですか?」

思わずアドランが尋ねると、シャディアさんの隣で話を聞いていた主婦が
「そりゃあ困るさ、でもね」
と言って、村の中でも多少の余裕がある家庭は「ロバの水売り」(註)から水を買っていて、手押しポンプ井戸の故障にはあまり関心がないのさ、と教えてくれました。
「アタシの家は井戸の近くだし、修理のためのおカネなら、いつだって払うよ」
赤ん坊を抱えた別の主婦が言いました。
「管理委員会がないなら、地区委員会が皆からおカネを集めてくれればいいのにねえ」


カドグリ市内で給水するロバの水売り)

(註)ロバの水売り:ロバにドラム缶付きの台車を引かせた水売り商人。カドグリ市内の給水塔から水を運搬してくる

地区委員会の会長、マフムードさんにアドランはもう一度電話を掛けてみました。
「シャディアさんに会って話を聞きました」
「おお、そうかそうか」
「やはり、地区委員会が中心になって、井戸の補修を今後どうするのか話し合いをしてもらわないことには...」
「悪いなあ。本当に忙しいんだよ」
「ほかの地区委員会のメンバーはどうなのですか?」
「みんな、それぞれ仕事があってなかなか都合がつかないんだ。しばらくの間、待ってくれ。また連絡するよ」
マフムードさんは、いつもの調子でした。そして、その後の連絡はありませんでした。

アドラン自身もほかの活動に追われる中、あっと言う間に3週間が過ぎました。
「タフリの井戸は、いったいどうなったのだろう?」
そう思い立ち、クルマを走らせてタフリ村を訪問してみました。

驚きました。
壊れていた井戸が修理されて、稼働しているのです。ポリタンクを抱えた女性たちが集まって水を汲んでいます。
ほかの井戸を大急ぎで回ってみました。なんと、修理が必要だった5本のうち、3本が修理されているではありませんか。

「誰が修理したのだろう?」
水汲みをしていた人々に尋ねていくと、ユース(若者)グループのサリムさんという名前が挙がってきました。
「サリムさんの家は、どちらですか?」
どうやらすぐ近所に住んでいるらしく、井戸端にいた子供が走って呼んできてくれました。姿を現したのは、アドランと同じくらいの年代の若者です。

「はじめまして。JVCのアドランといいます。サリムさんが、井戸を修理したのですか?」
「そうだよ、オレたちの仲間と、井戸の周りに住んでいる女の人たちが協力してやったんだ」
サリムさんは、数年前に別の村で井戸補修の研修を受けたことがあり、その後タフリに引っ越してきました。最近、「井戸を修理できないか」という話が主婦の間で持ち上がり、サリムさんがユースのメンバーに呼びかけて作業を行ったのだそうです。

「修理の費用は、どうしたのですか?交換部品とか」
「部品はカドグリの町で買ってきたんだ。工具も同じ店から借りてきた。全部で215スーダンポンド(日本円に換算して2500円程度)かかったかな。おカネは、女の人たちが井戸の周りの家を1軒ずつ回って集めたのさ」

アドランは、地区会長のマフムードさんがJVCに井戸の補修を依頼に来たこと、その後、マフムードさんに住民同士で話し合いをしてくれるようにお願いしていたことを話しました。
「ふーん。それで、話し合いはやったのかい?」
「何度も繰り返しマフムードさんにお願いしたのですが...それがまだ」
「...だろうな」
「えっ?」
「あんたには分からないかも知れないが」
サリムさんは、アドランの顔を見て言いました。

「あの人たちに言ってもダメさ。いつも村にいないんだから」
「はあ...」
「こんど、タフリで何か活動しようと思ったら、オレたちのところに来ることだね。そのほうが、早いと思うよ」

そう言い残すと、サリムさんは行ってしまいました。

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