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スーダン

【番外編】アフリカの紛争地から、 集団的自衛権「駆けつけ警護」を考える

7月1日、日本では、集団的自衛権の名のもとに海外での武力行使を容認する閣議決定がなされました。
集団的自衛権を行使する理由のひとつに、首相は「駆けつけ警護」というものを挙げています。私のような、海外の紛争地に派遣されているNGO職員が「武装勢力」に攻撃された時に、自衛隊が「駆けつけて救出する」というものです。
これについて思うところを、実は、閣議決定の前に新聞記事向けに書いたのですが、ちょっと長すぎたらしく(笑)新聞には掲載されませんでした。原稿をこのまま眠らせておく代わりに、「現地便り」読者のみなさんにお届けしたいと思います。

          
                      (スーダン現地駐在員、今井)

遠くアフリカで生活をしていると、日本のニュースにも縁遠くなりがちです。しかし、昨今の集団的自衛権を巡る動き、とりわけ安倍首相が自衛隊の海外派兵の理由のひとつとして「現地で活動する日本NGOへの駆け付け警護」を持ち出していると知り、強い驚きと違和感を禁じ得ません。

私は、国際協力NGO「日本国際ボランティアセンター」の職員として、「紛争国」と呼ばれる南スーダン(当時はスーダンの南部自治領)及びスーダンに7年間にわたり駐在し、現地での人道支援活動に従事しています。その間、2011年6月にはスーダン、南コルドファン州カドグリ市で武力紛争に遭遇、国連職員などとともに市街戦からの緊急退避を経験しました。また、昨年12月に勃発した南スーダンの内乱では、元同僚をはじめ現地住民が巻き込まれる様子を耳にしてきました。
そうした経験から、「駆け付け警護」については「一体そんなことができるのか」というのが率直な感想です。

          

首相が記者会見で示した図は、「テロリスト」を想起させるような武装集団が日本のNGOや国連職員を攻撃し、そこに自衛隊が駆け付けて救出するという、善悪観がハッキリして誰にでも分かりやすい構図が描かれています。しかし現代の紛争の現場は、それほど単純なものではありません。
私が緊急退避を行った際の状況は、政府軍と反政府軍とがともに民兵を動員し、正規兵・非正規兵の区別が曖昧な中で戦闘が行われていました。明確な指揮系統はなく、市内では戦闘と同時に、「兵士」が商店や住宅に押し入り「敵兵」を探索しながら、破壊や略奪行為が行われていました。誰が破壊・略奪をしているかもよく分からないまま、危険はNGOや国連の施設にまで迫っていました。
私たちは相互連絡を取りながら、市郊外に展開する国連平和維持軍が派遣する救出部隊を待っていました。しかし平和維持軍は戦闘に巻き込まれることを恐れ、部隊の派遣を躊躇したのです。最終的に国連は、軍ではなく非武装の救援隊を市内に送り込む決断を下し、私たちは白い四輪駆動車の車列で無事に郊外の国連施設に退避することができました。非武装の車両による救援は奏功したのです。

南スーダンの首都ジュバ市内で昨年12月に起きた戦闘は、まさに日本のPKO部隊が駐留する都市での事例でした。
この時は、南スーダンの国軍が大統領を支持する「政府軍」とそれに対抗する「反政府軍」とに分裂、さらに武装した住民を含む様々な集団が入り混じり、相互の戦闘のみならず、特定の民族グループを標的にした市民への襲撃、住居の破壊などが行われていました。しかし、特定の場所での交戦当事者、或いは市民を襲撃している当事者が「政府軍」か「反政府軍」か、或いは民兵なのかもよくわからない混沌とした状態で、国連平和維持軍が戦闘の場面に「駆け付ける」ことはありませんでした。平和維持軍は戦闘への直接の介入を避け、その役割をPKO施設内に避難してきた住民の保護に留めていました。

武装した住民を含む多様な勢力が離合集散、時に「寝返り」を繰り返し、敵味方の識別も難しい紛争の現場において、果たして自衛隊が戦闘に巻き込まれず「駆け付け警護」をすることが現実に想定できるでしょうか。「武装勢力」と「銃を手にした住民」とをどう区別するのでしょうか。現場で対峙した相手が、その国の正規軍の軍服を着ていることもあり得る話です。国連平和維持軍ですら、戦闘が行われている状況下での救出作戦には極めて慎重であるという現実を受け止めるべきです。

それでも、軍事力をもって介入しようとする国も存在します。
南スーダンの戦闘では、隣国のウガンダが「在留ウガンダ人の救出のため」と称して部隊を派遣。その後「政府軍」の同盟軍として戦闘当事者となり、「反政府軍」への攻撃を開始しました。 このことは、「反政府軍」を支持する人々の間に、ウガンダ人への強烈な敵対感情を呼び起こしました。一部の地域では住民が在留ウガンダ人への襲撃を開始、多くのウガンダ人が国連施設に保護を求めました。「自国民を救出する」名目の軍隊の派遣が逆に自国民を危険にさらすことになり、結果的に多くのウガンダ人が、自国の軍ではなく中立的な国連を頼ることになったのです。
ウガンダ軍は「政府軍」をあからさまに支援したので、極端な事例ではあります。しかしひとたび自衛隊が「相手国の合意のもとに」戦闘地域での行動を起こせば、一般市民に「政府軍を応援しに来た」と受け止められる可能性は十分にあります。

これまでアフリカの紛争への軍事介入を行ってきた一部の欧米諸国に対して、現地には強い反感を抱く人々が存在します。時には、それが欧米人への襲撃・誘拐事件にまでエスカレートすることさえあります。
それに対し、軍隊の派遣をしてこなかった日本に対する現地の人々の感情は、一般に極めて良好です。スーダンでも、日本は軍事・政治面での介入ではなく給水や医療、職業訓練などの分野で支援活動を行っていることで知られ、対日感情は友好的です。
「駆け付け警護」という、実は現実味に乏しい理由まで持ち出しながら自衛隊の海外展開を強めることは、これまで培ってきた平和的な日本のイメージを覆すことになります。「警護」どころか、それはむしろ海外で生活する私たちの身の安全を脅かすものになると危惧せざるを得ません。

JVCは、集団的自衛権に関する提言も出しています。詳しくは、以下をご覧ください。
集団的自衛権をめぐる論議に対する国際協力NGO・JVCからの提言
※2015年10月追記:今井は2015年10月にも南スーダンや自衛隊に関する記事を書いています。

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