紛争の影響を受ける児童の就学と種子の緊急支援 2024年度活動報告
2023年4月の国軍(SAF)と即応支援部隊(RSF)との軍事衝突勃発から2年が経過した現在も、スーダン各地では戦闘が続いており、国連の報告によると、国内避難民が約860万人、国外避難者が380万人以上に達しています。また、就学年齢の子どもの74%が不就学の状態にあります。
JVCの活動地である南コルドファン州は、武装勢力による道路封鎖の影響で支援物資や人々の移動が制限され、壊滅的な飢餓状態に陥っています。特に脆弱な立場にある子どもたちを取り巻く環境は悪化の一途をたどっており、ストリートチルドレンの増加も深刻化しています。
授業で手を挙げる児童たち
2024年度の「児童の就学と種子の緊急支援」の活動目的は、紛争により教育の機会を失った子どもたちが保護される居場所を提供し、交通が遮断された厳しい状況下で食を自給できる環境を整えることです。
活動地は、南コルドファン州カドグリです。
受益者層は、不就学児童および保護者と地域の若者たちです。2024年度に補習校に登録した児童は、1,753人、研修を受けた教員は45人、啓発活動に参加した住民は231人、修了式に参加した住民は4,852人、種子の配布を受けた住民は250世帯でした。直接受益者は延べ7,860人、 間接受益者は31,440人となりました。
紛争の影響により教育の機会を失った児童を対象に、6つの地域で補習校を運営しました。児童には授業で使用する教科書やノートを配布し、各校舎には必要に応じて黒板や児童が座るためのマットなどの備品を支給して、学習環境の改善に努めました。
基本科目とソーシャルワーカーによる心理的ケアや衛生管理についての授業に加え、週1回レクリエーション(スポーツ、歌、ダンス、お絵描き、演劇)の時間を設け、子どもたちが、子どもらしく過ごせる居場所と時間づくりに取り組みました。また栄養補給と出席率の向上を目指し、他団体と協力して給食の提供を行いました。
授業を受ける児童たち
補習校実施地域で若者グループを組織し、保護者の有志とともに補習校の見守り、水汲み、掃除および欠席者のフォローを行いました。欠席者のフォローでは、ソーシャルワーカーとともに欠席児童の家庭訪問を行ったり、保護者への啓発や医療機関への付き添いなどのサポートを行ったことが、出席率の改善につながりました。
また、各地域で研修を受けた若者が、教育の重要性を伝える啓発活動を企画・運営したり、破れた衣服を集めて繕ったうえで子どもたちに配布したり、病院の清掃活動にも参加したりするなど、コミュニティのために献身的に働く姿が見られました。
研修を受ける若者グループのメンバー
カドグリでは、紛争の影響による物資不足によって物価は急激に高騰し、情勢が不安定なため耕作が十分にできず、国連機関による報告「総合的食料安全保障レベル分類(IPC)」はカドグリの状況を「緊急事態」と警告しています。
こうした状況を受け、JVCは緊急支援として対象地4地域で合計250戸にソルガム、落花生、ササゲ、オクラの在来種の種子と苗を配布しました。住民は収穫した作物を食料として消費するだけではなく、市場で販売して収入を得たり、翌年の栽培に備えて種子を保存したりと、各世帯の生活を支える糧となりました。
配布した種子を栽培している農地の様子。
オクラは約2カ月で収穫することができた
不安定な情勢の中でも登録児童の89%が補習校を修了し、基礎学力の習得だけでなく、他者への態度改善などの行動変容、学習意欲の向上が見られました。また、修了式では子どもたちが自信をもって詩や劇を披露することで、参加した地域住民約4,800人に教育の大切さが伝わりました。
教員会議では具体的な成功例などの共有があり、キリスト教徒の教員配置など、教育の質の向上や多様性への対応を図ることができました。
今後正規学校が再開されると、補習校を修了した児童の橋渡しが必要です。教育省や学校側と協力し、子どもたちが継続的に教育を受けられるようサポートしていきます。
修了式で喜びを分かち合う児童と保護者たち
スポーツを楽しむ児童たち
JVCの事務所で授業計画を立てる教員たち
修了式で練習してきたダンスを披露する児童
若者研修に参加した女性 アサーウィル・アルアミン さん
自分のコミュニティに貢献したいと若者研修に参加しました。研修後、チームワークや協力、共生の意識が芽生えました。何かコミュニティで問題が発生した場合、それが若者グループに提起され、問題解決まで担うことで、若者に対するイメージがプラスに変化したのを感じます。具体的には掃除キャンペーンや子どもたちの破れた服の修繕、貧困な家庭への食事の支援などを協力して行っています。酒に酔った青年が子どもを殴って乱暴な言葉を発したということがありましたが、彼の家を訪問してカウンセリングをすると、彼にも家族からのプレッシャーがあることが分かりました。その後、彼は飲酒を止め、まじめに働いています。
このような研修の機会と経験あるファシリテーターからの学びに、心から感謝しています。
カドグリ事務所現地スタッフ イスマイル・ジュマ
スーダンの中でも特に南コルドファン州は長年の紛争の影響を受けており、経済状況が厳しく、他州と比較しても就学率や識字率が低い地域です。こうした状況下、よりよい未来を自分たちの力で築いていくためには、子どもたちの教育をコミュニティ全体で支えていくことが強く求められています。
私たちは事務所などの運営費は最小限にし、できるだけコミュニティに還元しようとしています。コミュニティに対してもなんでもJVCが支援しているわけではなく、あくまでも主役は住民です。机や椅子を支援した際も、製作後の運搬費はコミュニティが負担しました。支援団体の撤退後は、住民だけで教育や開発を担っていくことになります。だからこそ若者研修など、人材の育成につながる取り組みを重視しているのです。