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日本

国際人権とNGO/市民社会 ~後編~(会報誌T&Eより)

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本連載は、国際人権の確立のために活動するNGOや研究者、専門家から、広くそれぞれの関わる問題について寄稿していただき、私たち市民社会の取り組むべき問題に対する視野を広げ、議論を深め、連帯を強化し、さらなる人権の実践の向上に資する視点を提示することを目指します編集部) 

「国際人権とNGO/市民社会 ~前編~」はこちら

本記事は、2025年10月20日に発行されたJVC会報誌「Trial & Error」No.360に掲載された記事です。会報誌はPDFでも公開されています。ぜひご覧ください。

JVC会報誌「Trial & Error」No.360のPDFはこちら

日本国内で人権の保障が受けられない人々に接して~反貧困ネットワークの活動から見えた課題~(後編)

コロナ災禍で生活困窮に拍車が(新型コロナ災害緊急アクション)

2020 年の新型コロナウイルス感染拡大に際し、日本ではその影響で多くの人々が困窮状態に陥り、問題が長期化しました。経済状況の悪化に伴って、雇用の調整弁として真っ先に雇用から外されたのが、非正規雇用の労働者でした。これらの人々が生きていけない状況に陥ったのです。 

生活困窮者を巡る情勢が悪化したことで、反貧困ネットワークはそれまでの政策提言を中心とした活動に加え、公的支援から外された人々に対する直接的な支援を行う緊急性が高まったと考えました。そのため参加する42団体とともに20203 月、「新型コロナ災害緊急アクション」を立ち上げました。貧困問題や格差是正に取り組む市民団体、NPO、労働組合に広く呼びかけ、「反貧困緊急ささえあい基金」を設立。アクションでは基金を共同利用しながら「駆けつけ支援」を行い、日常生活が困難に陥った人々、日本国籍や在留資格を持たないゆえに公的な支援を受けられず困難な状況にある人々の命をつないできました。従来の社会問題の可視化だけでなく、経済的弱者を直接支える事業を進めることになり、それに適した組織とするため、2021 年に「任意団体」から「一般社団法人」に変わり、現在に至ります。 

外国人支援事業

ここまで触れてきたように、日本で困窮状態に置かれている人々は、日本人だけではありません。反貧困ネットワークでは、国籍や在留資格の有無に関わらず、公的支援の対象外とされた外国人の支援を2020年に「新型コロナ災害緊急アクション」を開始したところから進めています。例えば初年度には金額ベースで実に7 割が外国人への支援事業に割かれることになりました。これは、雇用契約が不安定な外国人労働者たちの多くも雇用の機会を失ったことを示しています。 

在留資格を持たず、就労の機会さえない外国人の場合、コロナ禍以前には家族や親戚、あるいは同郷の出身者同士のコミュニティによる支援、教会やモスクなどでの信仰を共にする人々とのつながりによる相互扶助で、何とか持ちこたえていました。しかしこの体制がコロナ禍のもとで急速に弱体化したことが、支援を必要とする人の増加の原因と見られます。 

ポストコロナの情勢下での外国人支援事業

2024 年度も引き続き、生活を支える給付金の支援、住まいの提供や家賃の代理支払い、医療機関への同行や医療費の負担の支援、入管手続きへの同行などの伴走型の支援を、各支援団体との連携で進めてきました。しかし、こうした外国人の窮状に理解を示さない入管の排除政策の影響で、反貧困ネットワークの外国人支援経費が経営を圧迫する状態になっています。私たち民間団体による支援にも限界があります。本来、これらの支援は、国や地方自治体などの公的機関が取り組むべき政策の課題であるはずです 

2024 年度の特徴として、家族や子どもと一緒に困窮状態にある仮放免者や難民申請者からのSOSが急増したことが挙げられます。前年までは、国際的にも極めて厳しい日本の難民認定制度の中で難民認定が受けられず、申請を繰り返すうちに日本滞在が長期化した仮放免者の相談が多くありました。しかし新型コロナ感染症のパンデミックが鎮静化し、国境を越えた移動が再び可能になったことを受けて、日本に入国して間もない滞在 12 年の難民申請者が、短期滞在の在留資格を持ちながらも就労できずに貯金を使い果たし、公的支援も受けられない中でSOSを出してくるケースが急増しています。日本の難民認定の厳しさや、認定を待つ間の生活の厳しさを知らずに日本にやって来た人も多いのです。 

さらに就労可能な在留資格を持って働いていても、雇止めや派遣切りで困窮し、家賃を払えずに住居を失う単身または家族同伴の外国人からのSOSや、仕事を失っても在留資格を理由に生活保護などの公的支援の対象外とされる人の相談も急増しました。家賃が払えず強制執行を控えてホームレスになりかけている、または重度の疾患を抱えているが手術費、医療費が払えないといった人たちからのSOSも続いています。 

おわりに

私たち反貧困ネットワークは、日本に暮らす人たちが国籍や民族によって差別されることなく、等しく生活の保障が受けられることを願い、生活困窮者への支援に取り組んでいます。しかし公的な社会保障は足りていないどころか、削減が進んでいます。 

国際法上の人権規定では、国際自由権規約の61 項に「すべての人間は、生命に対する固有の権利を有する。この権利は、法律によって保護される。何人も、恣意的にその生命を奪われない」とありますが、国家による積極的な保護は現実には十分ではありません。なお、日本国憲法25条には「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とあり、生活保護法もこれを保障するための国内法として存在しますが、「国民」に外国人を含むかどうかが常に議論になっています。 

その上でさらに外国籍者の状況を厳しくしているのは、ここ数カ月の間の都議会議員選挙や参議院議員選挙などの選挙活動の期間にこれを利用して露わになった、排外的な主張です。日本人の社会保障の不十分な原因を、外国人が優遇されているせいにする根拠のないデマが繰り返され、これにより社会的な弱者の助け合いに逆行する分断が生み出されました。 こうした排外主義の動きに関しても、支援の現場から事実を伝え、誤りを正して行く努力が必要と痛感しています。 

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2025年7月10日衆議院議員会館内で開催した
「緊急記者会見-排外主義政策に抗する生活困窮者支援の現場と当事者からの訴え」の模様。
講演者の右から2人目が筆者 

 

筆者プロフィール

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反貧困ネットワーク  文次郎  

総合電機メーカーの海外営業職を務めていた2001年911日に発生したニューヨーク同時多発攻撃に衝撃を受け、アフガニスタン反戦運動の後、日本でアフガニスタン難民申請者に出会い、難民支援に関わる。2003年2月~4月、米国IRCでのインターンの後、2003年~2006年と2009年~2013JVCイラク事業担当、2013年~2015AARJapanパキスタン現地駐在、2015年末~2019パレスチナ子どものキャンペーンパレスチナ駐在、2019年~2020IVYイラク現地駐在代表を経験の後、2014月より現職。 

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