REPORT

パレスチナ

外部記事の紹介「トランプの中東(和平)案はパレスチナ人にとって何を意味するか」

こんにちは。エルサレム事務所の山村です。

今回は、アメリカの中東和平案に対して現地の政治家が意見を述べている記事を紹介したいと思います。こちらは声明文ではありませんが、詳しく今回の和平案について説明しており、随所に大多数のパレスチナ人の見解が織り込まれているように見受けられます。特に、ホロコーストやアパルトヘイトで使われた用語を引用して、いかにパレスチナ人に対して行われていることがそれらに類似しているかが繰り返し説明されています。そして最後には誰にとっても(イスラエル人にとっても)これらの施策は得にならない、と締めくくられているところから、この声が平和を希求する普遍的な人間として訴えたいものであることが分かります。現地で多くのパレスチナ人にインタビューをする中で、和平案に対しての怒りの声を多く聞きましたが、当記事はどうして人々が怒っているのかを事実をもとにわかりやすく説明しているものだと感じます。

インタビューに答えているのはPNI(パレスチナ国家イニシアティブ)の事務局長であり、PLO(パレスチナ解放機構)の国家評議会メンバーであるムスタファ・バルグーティー氏です。また彼は、ラマッラ―に本部を持つ、PMRS(パレスチナ医療救援協会)の代表でもあります。下記内容は、アメリカの中東和平案に関してCNNからインタビューを受けた際のものです。

※本インタビューはCNNのOpinion欄で2020年の1月31日に掲載されました。
記事ソース:CNNウェブサイト

記事:トランプの中東(和平)案はパレスチナ人にとって何を意味するか

中東の歴史の専門家でなくても、ドナルド・トランプ米大統領がイスラエル―パレスチナ間の和平案に伴って発表された地図が、かつての南アフリカにおけるアパルトヘイトでのバントゥースタン※注(1)と同じものであることは容易に見て取ることができる。唯一の違いは、パレスチナ人の孤立した地理的状況はゲットー※注(2)とも比較される、という点である。「ゲットースタン」とでも呼べば、より適切な呼び方になるだろうか。

提案された和平案は、パレスチナ人にとって文字通り「災厄」である。イスラエルによる東エルサレムの併合は国際人道法に違反するにも拘らず、和平案はエルサレムを「分割できない」都市としてイスラエルの首都に認定するとしている。また提案はパレスチナ難民の帰還権問題を排除しているが、これは国連総会決議194でパレスチナ人難民が元の故郷に帰還することを認められた権利であり、その後の1990年代オスロ和平交渉の中でも議論の中心となったものである。

今回の和平案の中で最も際立って悪質なのは、この案がパレスチナに独立した主権国家を設立する可能性を微塵も認めず、代わりにその土地を息苦しく孤立的なゲットーとバントゥースタンに分割する点である。

現在パレスチナのヨルダン川西岸地区にはそのような区切られ分割されたゲットーが数えきれないほどあり、それらは国連安保理決議2334(2016年)によって国際法上違法とされているイスラエルの入植地によって囲まれている。また西岸地区には分離壁や数百もの軍事用の障害物※注(3)があり、トランプの案ではこれらのパレスチナ人地区は相互に分断されたまま孤立した状態が継続される。これらの地区を繋ぐトンネルや橋の建設も同時に提案されているが、イスラエル軍のコントロール下で任意の口実によって容易に封鎖され得ることが予想される。

今回の和平案が意図するものは、法と国際規範に反し、国連安保理や国連総会がこれまで進めてきた数々の解決策を無に帰す行為である。また同時に、入植地の建設や入植者による土地の併合が違法であると明確に示してきた国際司法裁判所を無視するものでもある。

トランプのしようとしていることは、パレスチナが独立主権国家建設を不可能なものにするという明確な目的のもと、イスラエルがこれまでパレスチナ領土に対して行ってきた違法行為を正当化しようとする試みである。このような試みはパレスチナ領土を、イスラエルによって管理されるゲットーと化し、ボーダーやセキュリティ、道路交通、天然資源、彼らが暮らし生活する環境にさえもパレスチナの管轄及び権限を一切認めず、占領地の隅々にまでわたってイスラエル軍による経済およびセキュリティの完全支配を可能にするものである。

トランプによる新たな地図の発表は、パレスチナ人の怒りを招く以外の何物でもない。トランプ政権の行為と和平案の詳細がパレスチナ人の今後一切の国民としての権利を破棄する試みであることは明らかであり、「世紀のディール(取引)」なるものがネタニヤフの書いたイスラエルの意向をアメリカの封に入れただけのものとしか思われない。またパレスチナ人は、トランプ政権は単に親イスラエルというだけでなく、イスラエルの政治構造の中でも最も過激な人種差別的なグループと共謀して政策を考案しているとして非難している。

パレスチナ人に関する限り、この取引が提案しているゲットー国家は、数千人のパレスチナ人が投獄されているイスラエルの刑務所と何ら違いはない。

今回の和平案の発表に際し、トランプ大統領はイスラエルのセキュリティに関して発言した一方で、パレスチナのセキュリティに関する言及はただの一言も無かった。近代史上最も長い占領であるイスラエルの占領についても、パレスチナ人の社会面及び経済面でのセキュリティについても、一切触れることはなかった。

イスラエルのリーダーたちはパレスチナ領土でのアパルトヘイト政策を進めていることに関して常に怒りを向けられるが、彼らはそれを逃れる言い訳すらすることはない。2016年にはパレスチナの水資源のおよそ85%以上がイスラエルに割り当てられ、西岸地区のパレスチナ人は一日あたり73リットルの水しか使用できなかった一方で、違法入植者はプールを使用することができ、一日に300リットル以上の水を使用することができたのである。

トランプの地図では、西岸地区の中に"segregated roads(分離された道路、の意味)"と称される、パレスチナ人の使用が禁止されたイスラエル人専用の道路が示されている。

それらの道路は既に建設されており、トランプに認可されたものとしてイスラエルのアパルトヘイトの中で大きな役割を果たしている。これは国際法上認められず、またパレスチナの独立国家を決定的に阻害するものである。

バントゥースタン、ゲットー、--ゲットースタン--、そしてアパルトヘイト。これらは決して"解決"にはなり得ない。仮に自由で民主主義的な、独立したパレスチナ国家が実現しないとするならば、パレスチナの人々は唯一の選択肢として、すべての市民--パレスチナ人とイスラエル人--が平等な権利と自由を保障される一国家解決を目指すことになるだろう。

トランプ大統領は彼の和平案によって、すでにかなりの悪影響を生んでしまっている。それはパレスチナ人にとってだけでなく、この21世紀にアパルトヘイトが実現してしまうことを決して良しとはしないイスラエルの人々にとっても同様なのである。

※注(1)バントゥースタン:1950年代~90年代の南アフリカ共和国に存在した自治区及び独立国の総称。黒人たちは政府による一方的な部族区分に従って居住地を割り当てられ、それを「祖国」として強制された。

※注(2)ゲットー:第二次世界大戦時、ドイツが占領した中東欧諸国に設置したユダヤ人の強制居住地。ゲットーは厳しく監視され、内部では悲惨な生活環境によって数十万人が亡くなった。

※注(3)軍事用の障害物:検問所もその一つだが、検問所になっていなくても様々な種類があり、パレスチナ人の行き来を阻害している。

※本インタビューはCNNのOpinion欄で2020年の1月31日に掲載されました。
記事ソース:CNNウェブサイト

インタビューからは、一国家解決であれ二国家解決であれ、個人の権利がイスラエル人、パレスチナ人、平等に保障されることが最も大切であるということが良くわかります。こういった声は現場でも多く聞きました。また、JVCとしてもどのような形であれ、マイノリティの人たちも含め、この地で暮らす一人一人の権利と尊厳が守られ、多様性を根本から認められる社会が訪れることを願いながら支援を続けていきたいと思います。

翻訳:現地事務所インターン 中村俊也
編集:現地事務所 山村順子

一覧に戻る

関連記事

【ガザ】現金給付支援を受け取った人びとの声②

【ガザ】現金給付支援が現地に届き始めました

【ガザ】買って応援、参加して応援できる先一覧

戦闘勃発から一年 スーダンの現地の声を聞く