REPORT

パレスチナ

4年事業を終えて シンポジウムで見えた子どもたちの成長

2月4日に、JVCが4年間にわたって支援してきた東エルサレム事業の締めくくりとして、西岸地区の中心地・ラマッラーにあるパートナー団体のシアタールームにてシンポジウムが行われました。

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この事業は、東エルサレムに住むパレスチナ人青少年の「レジリエンス」を向上させること、そして生徒が地元のNGOと協力することで、地域の保健環境を向上させることを目的として実施してきました。レジリエンスとは「困難な状況・出来事に遭遇してもしなやかに立ち戻る抵抗力」のことで、イスラエルの占領に日常的にさらされているパレスチナ人地域において、状況に自分たちが「慣れる」のではなく、人間性が保障される生活を守るために抵抗し続ける地域としての力のことを指しています。この事業では地域の若者たち、特に19校の学校保健委員会の生徒たちが中心となり、JVCや現地のパートナー団体、および地域の人と共に、地域や学校で様々な活動に取り組みました。具体的には彼らが学校の代表となって、医師やヘルスワーカーから応急処置、学校環境、保健衛生、危険回避などのトレーニングを受け、それを学校の他の生徒や地域に還元する、というのが主な活動の流れです。

また、青少年の「レジリエンス」を向上させるために、若者が活動の中心になることを通じて、彼ら・彼女たちの間にリーダーシップを育てること、また、地域保健の状況を改善するだけではなく、彼らが地域の環境を改善することによって若者と地域の大人たちをより良い関係で繋ぎなおすことも意図してきました。

当日のシンポジウム会場には学校の先生や生徒達、教育局の職員、パートナー団体、地域の人々を含め、40~50人ほどが集まり、学校保健委員会(SHC)の生徒たちはステージの上でこれまでの活動とその成果を発表するなど、堂々としたスピーチを披露しました。またそのあと、その場でパネラーを募ってのパネルディスカッションでは、客席から教育局の方々も含め、多く質問の手が挙がり、それに答える生徒達からも鋭い意見が飛び出す様子が見られました。


(会場での事前打ち合わせの様子。子どもたちとのやり取りに慣れている司会者を手配し、できるだけ子どもたちがのびのび参加できる雰囲気を整えました。)


(パネルディスカッションでは、その場で立候補、もしくは周りから選ばれた生徒たちが壇上に上がり、堂々とファシリテーターや会場の大人たちからの質問に答えていました。あえて準備をしないことで、子どもたちの素直な意見を引き出すことができました。)


(客席の中で議論が盛り上がることも。皆、終始集中して聞いていました。)


(最後にはそれぞれ和気あいあいと、スピーチを褒め合ったり写真を撮ったりしていました。)

特に印象的だったのは、壇上のスピーカーでも客席の観覧者でも、女性や学校の生徒など子供たちが活発に発言し、議論の中心になっていたことです。アラブ世界では伝統的に男性年配者の発言力が圧倒的に強く、彼らの古い価値観がパレスチナでも地域の発展を妨げている部分が多くあります。今回のプロジェクトでは学校保健委員会の生徒達が活動を通して行動力や自尊心を身に付け、シンポジウムでは達成感と自信に満ち溢れた彼らを新鮮な印象と共に見つめる地域の大人たちの姿がありました。

JVCでは当事業に限らず、女性や若者を支援する事業に重点を置き、女性や若者と地域の大人たちがお互いを承認し合いより互恵的な関係を築きなおすことで、地域全体のレジリエンスを向上させることを目指しています。

4日のシンポジウムでは、この4年間で地域の保健衛生環境と共に子供たちや若者の意識も向上し、「自分たちで地域を変えることができるんだ」という自信と自主性が育っているのがよくわかりました。また、地域の大人たちもその姿に驚きを得て、子供たちを見る目や関係性が少しずつ変わってきているのも感じました。今回の事業は2020年2月で一旦終了ということになりますが、今後も彼ら若者たちの行動力が地域を先導し、地域環境と共にパレスチナ社会全体のレジリエンスの向上に貢献することを期待しています。

また、JVCとしては、支援が足りておらず状況が特殊でより困難であると言われる東エルサレムにとどまり、さらに状況が深刻な地域に絞って新規事業の案を形成している最中です。今後もエルサレムで地域の人たちの力を信じて支える事業を展開していきますので、どうぞ引き続きあたたかいご支援をよろしくお願いいたします。

記事執筆:中村俊也(現地事務所インターン)、編集:山村順子

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