REPORT

パレスチナ

イスラエル人の本音① 仙台で中東バーを営む東方系 ユダヤ人・ルイさんの場合

エルサレムでは涼しい日も増え、秋の訪れを感じるようになりました。9月17日にはイスラエルの総選挙が行われ(4月に一度実施されたものの再選挙)、与党が過半数割れとなり、今後の政治の行方に注目が集まっています。しかし、JVCオフィスがある東エルサレムのパレスチナ人たちには選挙権のない人たちがほとんどで、東側にいる限りは選挙ムードをほぼ感じられませんでした。

今回は、イスラエル繋がりということで、日本で出会った、アラブにルーツをもつイスラエル人を紹介したいと思います。

筆者が先月、一時帰国中に出身地の宮城県仙台市に帰省したときのこと、パレスチナ人が営むレストランがあると聞いていたので、行ってみることにしました。すると、不運にもその日は店が閉まっており、中を覗くと真っ暗で少し待っても開く気配はありませんでした。その代わり、近くにイスラエル人が営むシーシャ(水タバコ)・バーがあるということで、「本当にここにイスラエル人が住んでバーを営んでいるのか?」という物珍しさもあり、そちらを見に行ってみることにしました。行ってみると、愛想の良いマスターが迎え入れてくれ、店内は水タバコを吸う日本人の常連客で賑わっていました。


(よく見ると古代エジプトのポスター、トルコの国旗、ヘブライ語の字幕、ウード(アラブの伝統的な弦楽器)など、いろいろな国の中東文化が混在しています。)

辺りを見渡すと、店内にイスラエルの国旗だけではなく、他の中東の国の旗もたくさん飾ってあり、アラブの音楽も聴こえてきました。なぜイスラエル人のマスターがアラブ諸国の旗をたくさん飾っているのかが気になったので、店内を動き回りながら気さくに話しかけてくれるマスターにいくつか質問をしてみることにしました。


(ファラーフェル(ひよこ豆を潰して揚げたコロッケ)。パレスチナのソウル・フードの一つで、イスラエル側でもよく食べられています。)

「私はエルサレムに普段住んでいます。マスターはイスラエルのどこ出身なのですか?」と聞くと、嬉しそうに「なんだー!仲間じゃないかー!」と表情が緩み、「エルサレムはどうだい?色々大変でしょう」と聞かれたあと、出身地はアシュドッドであることを教えてくれました。いつも筆者がガザ出張に行く際に車で通る、ガザ地区から非常に近いイスラエルの町です。そして、アラビア文字も店内で見られたので、「もしかしてミズラヒ(東方系イスラエル人)の方ですか?」と聞いてみると、「ああ、そうだよ。両親ともユダヤ人だけど、それぞれエジプトとイラクにルーツを持っているから、僕もアラビア語を少し話せるんだ」と言われ、そこからしばらくアラビア語で会話をしました。


(休む暇もなく、客の対応をするマスターのルイさん。)

少し慣れて来た頃に、「どうしてイスラエルだけでなくアラブの国の旗も飾っているの?」とマスターに聞くと、「僕はイスラエルだけでなく、他の中東の国々のことも日本の皆さんに知ってほしい。中東は紛争のイメージが強いけど、それだけじゃないからね。おいしい食べ物だってたくさんあるし、人も気さくだ。ここ(仙台)で僕が最も仲がいいのは実はシリア人なんだ。この間も彼がうちに泊まっていったよ。すごく仲良しなんだ。あそこのパレスチナ料理屋の彼も仲良しだよ。彼もすごくいい人。イスラエルにいたらパレスチナ人やシリア人と仲良くすることは難しいけど、国を出てこうして日本で知り合うと、みんな開放的な気分になるし、こうして仲良くできるんだよね。同じ人間だからね。もともと文化も似ているしね」


(水タバコを目当てに来る客が多い。)

現在のイスラエル領には、アラブ諸国から移り住んできたユダヤ教徒も多くいます。しかし、彼らが安住の地を求めて逃れてきたその地は、もともと先住民であるパレスチナ人が追い出された場所でした。そういった背景から、アラブ系のユダヤ人をあまりよく思わないパレスチナ人も多く、国外で仲良くしている話を聞いて、とても不思議な感じがしました。

また、もともとはユダヤ教徒の一族だったけれど、大昔にイスラム教徒に改宗し、イスラム教徒としてヨルダン川西岸地区の村で生きてきたというパレスチナ人にも会ったことがあります。そういった人々も、その背景が周りのイスラム教徒に知られると、よく思われないことがあるそうです。また、北部のナブルスにはサマリア人という少数宗派の人々が住んでおり、教義がユダヤ教に近いことから、パレスチナ人からは「ユダヤ系パレスチナ人」と呼ばれることもあります。

知れば知るほど多様なバックグラウンドを持った人びとが住んでいることが分かるイスラエル・パレスチナですが、残念なことに占領下で生きるパレスチナ人に対する差別にはじまり、主に非ヨーロッパ系のイスラエル人に対しても差別や偏見があります。また、イスラエル社会において、ヨーロッパ系より下層に位置づけられる中東やアフリカ系のユダヤ人の方が、兵役でもパレスチナ人とより直接的に対峙するような部署に配置される傾向があると言われます。

今後のイスラエル政治の行方は不透明ですが、この地に暮らすすべての人にとって公正な社会を目指す動きがどうかなくならないで欲しい、と選挙結果を待ちながら思いました。


(ヘブライ語の挨拶「シャローム」の装飾とともに、エルサレムのアル=アクサー・モスク(イスラム教の三大聖地の一つ)の飾りがある店内。)

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