REPORT

パレスチナ

それでも前を向いて歩く ―力強く生きるガザの女性たち―

現在、ガザは日中歩くだけで汗だくになってしまう猛暑の時期に入りました。エルサレムでは半袖で歩くこともできますが、ガザでは女性が肌を見せて公の場にいることは慣習的に好ましく思われていないため、外国人である私も薄手の長袖シャツを羽織って仕事に行きます。今回は、そんなガザに住むパレスチナ女性たちの話を共有させていただきたいと思います。

ガザは封鎖のストレスなどから、男性から女性への家庭内暴力の割合が非常に高く、より厳しい環境に身を置かざるを得ない女性がたくさんいます。
私は今まで、JVCの活動を通して、ガザの様々な女性たちに会ってきました。パートナー団体のスタッフ、活動の裨益者、パートナー団体の事務所に助けを求めて飛び込んできた女性、友人の姉妹。その度に、「世の中はどうしてこうも不公平なのだろう」と同じ女性として絶望感を深めることが少なくありません。今日はそんな中でもいつも前を向いて生きている、パートナー団体の女性の一人を紹介します。


(いつもガザの難民キャンプで母子と子どもの健康を守ることに奔走するサミーラさん。)

サミーラ(仮名)は、1年弱前、夫と子どもと暮らしていた家を出ることを決意しました。夫の暴力に耐えられず、離れるしかないと思ったからです。幸い仕事もあり、戻れる実家もありました。しかし最も辛いのは最愛の4人の子どもを残してこざるを得なかったことです。今でも子どもとは頻繁に連絡をとっていますが、会うことは一年に一度しかできません。また、持ち物も夫と子どもと住んでいた家に残してきてしまったと言います。11年間働いて貯めたお金は全て夫に取られてしまいました。それでも、夫から離れて精神的に解放され、今は大分気持ちが楽になったそうです。彼女の貯金は夫が新しい女性に使っているという噂すらも耳に入ってきました。

あまりに理不尽だと思われる状況ですが、彼女は自尊心を失ったり、自分を見失ったりすることなく、他人を思いやり、自己啓発に励み、責任ある立場として他の女性たちに勇気を与えながら生きています。いつも、難民キャンプ等に住み、より困難な立場にある女性たちのために働いている彼女ですが、自分の背景は、できるだけ話さないようにしていると言います。「ガザの女性たちはもう悲しい話を聞きすぎていて、辛い話はもう十分よ。自分に遠慮して欲しくないし、みんなの前では元気な私でいたいの」と彼女は言います。

昔から、人の役に立てることが生きる喜びだったという彼女。貧しい家庭に育ったそうですが、いつもどんな境遇にあっても光を見出し、チャンスを掴み取って成功してきました。19歳のときに面接を受け、JVCのパートナー団体に採用されたとき、大好きな彼女の父親は病床にいました。病床で父親は、団体の代表から彼女の合格通知の電話を受け、「どうやってあんな優秀で人柄も素晴らしい娘さんを育てたのですか」と聞かれて、初めて、娘の前で嬉し涙を見せたそうです。その後、間もなく彼女の父親は亡くなりました。

「今回も、ゼロに戻っただけ。またやり直せばいいの」と笑って見せる彼女に対し、私はあまりに人生の経験値が低く、どんな言葉をかけたらいいのか、私にかける資格があるのか、分かりませんでした。ジーパンを下に履いたカジュアルな服装の彼女ですが、彼女からあふれるその高潔なオーラ、気高い精神は、どんなお金持ちの女性が高級ブランドの服で着飾っても、到底足元にも及ばない内面の輝きがあると感じます。封鎖下のガザで常に希望を持って生きるのは至難の技です。でも彼女は「私にはずっと凹んでいるという選択肢がないの。みんながそうさせてくれない。社会のためにやらなければいけないことが多すぎて」と、忙しそうに仕事の電話に出ていました。

たくさんの親しい人たちの死、たくさんの理不尽な現実に直面してきた彼女。先日は、彼女が一生懸命指導してきた地域のボランティア女性が、癌で余命が限られていることが発覚しました。彼女も夫の暴力が理由で離婚し、住む場所も仕事もない中で3人の子どもを育ててきました。今は限られた時間を3人の子どもたちと力強く生きています。


(事業地の難民キャンプ付近の景色。今はスイカがたくさん売られています。)

ガザに来ると、「人の生きる意味とはなんだろう」といつも考えさせられます。自分は彼女たちよりもたくさんのことにアクセスができるのに、その機会を無駄にしていないだろうか、そして自分は彼女たちに対して恥ずかしくない生き方ができているのだろうか、と思わされます。どんなに金銭的に豊かで、権力や地位を手にしたとしても、彼女たちの人としての尊さに敵うものはないのではないかと思います。そのしなやかであたたかい強さに、私たちはいつも魅了され、ただただ、学ばせてもらうばかりです。

「ポジティブになると、免疫にもいいのよ。アッラーだって、いつでもポジティブで笑っていなさいと言っているわ。自分で気持ちは選べるの」
真っ青な空の中、事業地に向かう車の中で彼女は言いました。辛い時、いつでもこの言葉を思い出そうと思います。

記事執筆者、現地代表の山村による活動報告会を8/3(土)、8/30(金)に開催します。活動のさなかで出会った人々の生の声を聞きに、ぜひお越しください。
8/3のイベントは現在お申し込み受付中です。


(8/3 「ガザを歩いて見えるもの― 封鎖下の人々の喜怒哀楽」)

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